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私の体は雪だるま

作者: 犬三郎

「ママの体って雪だるまだね」


 季節は真夏。病室のベットで私の手を握った、小3の坊主の息子が言った言葉。

 私は幼少期から父親に虐待されて、大学生の時にはレイプ。あの日から私の心も手も身体も全てが冷たい。

 旦那も交通事故で死んで、私もコロナにかかって重篤な状態。最後の面会で息子に手を握られ、看護婦が無理やり離したことを息子は永遠に覚えるだろう。


「雪だるまか」


 息子は涙ながら雪だるまって呟いた。息子の手は私の手が火傷するほど熱かった。私の手が溶けるぐらい、私の冷たい心が溶けるぐらい熱かった。

 小3の子供が母親と別れ際で雪だるまって、将来どうなるのかしら。出来るなら私と全く違う人生を生きて欲しい。

 悪い大人にならないで、友達を大事にして、超可愛い恋人もできちゃったりして。私のようにお酒をあまり飲まないで、旦那のように料理が上手くなったり、野球選手もいいわね。

 海外でプロ契約して、人々に希望を押し付けて。帝王切開でお腹から出てきた時みたいに、初めて私の手を握って熱を押し付けたように。


 思い返せば散々な人生だったけど、ここ8年は私の心の腐った地面を埋め尽くすように綺麗な雪が降ってくれた。純白で、黄金の雪が腐った地面を隠してくれた。

 貴方の汚れのない地面に母親の雪は降らせたかな?


「残念ですが、もう——」


「っぇ?」


 後悔だよ、後悔だらけよ。人生全部後悔だらけ。息子を一人ぼっちにして、死別するなんて、死んでいくなんてやだよ。

 ありがとうの1つも言えないで、ごめんねの1つも言えないで、さようならの1つ言えないで。旦那もこんな気持ちだったの? はは、最悪だね。


 だけど、もし……もしっ。貴方の地面に色々な雪が降ったら、私の雪だるまを作ってくれる? 溶けてもいい、壊されても、壊してもいい。それでも、貴方が作ってくれたならそれだけで幸せ。貴方の雪を見れるのだから。どんな雪でも貴方と一緒に居られるのだから。

 春、夏、秋、冬。貴方にどんな季節が来ても、その雪で形の違う雪だるを作って欲しいな。欲を言えば旦那の分も作ってね。あの人、そのーあれ。嫉妬深いから。

 旦那と私が貴方の手で作られて、肩を並べて、雪を見る。この最悪な気持ちが、想像しただけで最高よ。最高潮よ。


 お願いね。

 ありがとう。

 ごめんね。

 さようなら。

 貴方が世界で1番大切よ。

 貴方の雪で私の冷たい体を温めてね。

 貴方の温かい心から、旦那も私も貴方を——


「ぁーい……じってるぅっ——」




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