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バイト先で付き合うことになった地味カワ系女子はクラスの女王様でした

「アイツと私が付き合ってる!? いや絶対無いから! 別にアイツが誰と仲良く話してようが……うぅぅぅぅ!!!」


 と言うのは俺の彼女の言である(盗み聞き)。


 事のあらましは簡単、ぼっちの俺がクラスの女王様と付き合うことになっただけ。経緯はまあ……お互い相手がそうだとは知らなかった的な……?


 ともかく、俺と彼女の間には三つの約束が交わされた。


・学校では付き合ってることを内緒にする。


・登下校は偶然の体で一緒にする。


・お昼は一緒に食べなくても良いから作ってくるお弁当だけは食べてほしい。


 内緒にするの無理だろ。だけど彼女の頼みを無下にすんのは男として情けねえよなぁ!!!!!


 これは俺と彼女がバレバレな恋をみんなに隠しながら育む物語である。


 ──ちなみに、俺の彼女は世界一可愛い。

「ありがとうございましたー! またのお越しを!」


 午後十時前。俺はデカい声で店を出るお客さんに頭を下げた。

 今日は忙しかったなぁ……。店長とのツーオペの日じゃなくてマジで良かった……。


「お疲れ様です、やっち先輩」

「お疲れ、みーちゃん!」


 ペコリと頭を下げるのはバ先の後輩であるみーちゃん。長い黒髪をストンと下ろした地味な子で、だけど前髪の奥に覗く顔はかなり整っている。そのギャップでうちの常連さんからはかなり人気の女の子だ。


「やっちとみーちゃん、今日はもう上がりで良いよー。夜の子来たし」

「ういーっす! んじゃお先です!」

「お疲れ様です」

「はいはーい」


 大学生くらいにしか見えない年齢不詳の美魔女店長にそう言われ、俺達はバックヤードへと向かう。


「今日も送るね、みーちゃん」

「いつもすみません……」

「良いよ良いよ! 夜道に女の子一人は危ないから!」

「あ、ありがとうございます!」


 嬉しそうな様子でみーちゃんははにかむ。先輩として当然のことだからこれで喜ばれるのは何かずるい気もするんだけどね。


 ……とは言いつつ、俺も結構惹かれてるんだよなぁ。だって可愛いし。めっちゃ良い子だしさ。



 うちの鉄板焼き屋(バ先)には一つ変わったルールが存在する。


 店員は普段の会話も含めて全員あだ名で呼び合うこと。だけどそれは業務時間外でも適応されるので、バイトや社員はお互いの本名さえ知らないのだ。


 だからかな。俺達はどこか生まれ変わった気持ちになる。


「どうしたんですか? やっち先輩」

「何でもないよ! 俺普段は暗いから素が出ちゃったのかな?」

「ふふ、明るくないやっち先輩なんて想像出来ませんよ?」

「本当なんだけどなぁ」


 ガチである。何ならバ先での明るい自分が嘘まである。


 学校の俺と言えば陰キャどころかぼっち中のぼっちだ。今みたいに髪をセットしてなければノリだって良くない。


 バイトのやっちは陽キャだけど、高校生の皆川大和(みなかわやまと)は紛うことなきぼっち。それが今の“俺”だ。


「俺が陰キャだったら、逆にみーちゃんは学校じゃめちゃくちゃ明るい女子のボスだったりして」

「!? そそそそんなことありませんよ!?」

「死ぬ程動揺するじゃん。もしかして本当だった?」

「い、いえ! 私はいつもこんな感じなので!」


 まあ俺も女王様のみーちゃんなんて想像出来ないけどね。もっとこう、目立たない図書委員だけど実は人知れずモテてるみたいな。


 黙りこくっちゃったみーちゃんは、街灯に照らされた夜道、そっと俺の手を取った。


 驚いた俺は思わずみーちゃんを見る。目に入ったのは繋がれた手と、夜でもハッキリわかるくらいに赤くなった耳。


「……やっち先輩は、もし私が陽キャだったら距離を置きますか?」

「そんなことないよ。みーちゃんがどんな子だって、俺は──」


 ──その先が紡がれることはなかった。言い切る前に口が塞がれた。


 だけどそれはみーちゃんの手によってではなく、淡い桃色のリップに彩られた唇によって。


 初めての柔らかい感触に、俺は身を委ねて目を瞑った。


「やっち先輩。好きです」

「先に言わせちゃったね」

「っ、てことは」

「俺もみーちゃんのことが好きだよ。もし良かったら付き合って欲しい」

「こ、こちらこそよろしくお願いします!」


 嬉しそうに笑って答えてくれるみーちゃんを見て、自然と頬が緩んだ。


 こうして俺に、人生初の彼女が出来たのだった。



 とは言うものの、学校での俺はいつも通りぼっちだ。話しかける相手も話しかけに来てくれる相手も居ない。


 ……慣れてるとはいえ、やっぱり朝は退屈だなぁ。やることもないからスマホを弄る毎日だ。


 取り出したタイミングで丁度ピコンとラインの通知音が鳴る。相手はみーちゃんだった。



みーちゃん︰やっち先輩は今学校ですか?


やっち︰そうだよー! と言ってもぼっちだけどね!笑


みーちゃん︰またそういうことを言って笑笑



 あー人生楽しいなぁ!!! 彼女が居るって何て輝いた人生なんだ!!!


「はー……、マジ世界最高」

「は? 何それ」

「っ!」


 後ろから投げつけられた言葉に俺はビクリと身体を跳ね上げる。


 御代海侑(みしろみゆう)。腰まで届く金髪がトレードマークのクラスの女王様だ。


 前髪をアップにしているため大きく丸い瞳が目立つ。彼氏は居ないらしいけど告白される回数は枚挙にいとまがないとの噂だ。


「ねえ聞いてよみんな! 私昨日彼氏出来たんだけど!」


 はい、彼氏居ましたね。ぼっちのふわふわ情報網舐めんな。


「えーマジ!? いつも言ってたバ先の先輩?」

「そーそー! しかも昨日ファーストキスしちゃった!」

「はは、ホント処女」

「は、はぁ!? 別に良いでしょ!? 私は先輩と結婚するって決めてるし! 先輩一筋だし!」


 でっかい声で話すなぁ……。こうやって噂は回るんだろうか。


 でも浮かれる気持ちはわかる。何を隠そう俺だって昨日彼女が出来たからな! 舞い上がる気持ちはわかるぜ御代!


 おっと、返信がまだだった。既読無視をして心配させるのは忍びない。



やっち︰ホントホント! 今もクラスの女子の会話を盗み聞きしてるだけだし!



「わ、返信来た! 今から返すし絶対私に話しかけないでよ!」

「浮かれてるなぁ……」


 お、御代もか。偶然が続くなぁ、



みーちゃん︰何やってるんですか笑 ホント先輩面白いです笑


やっち︰みーちゃんは今何やってるの?


みーちゃん︰私は友達とお話してます!


みーちゃん︰その


やっち︰どうしたの?


みーちゃん︰これから先輩とお付き合い出来ることが嬉しくて


みーちゃん︰そのことについて、話しちゃってます



 あああ可愛いぃぃぃぃぃ!!! マジ愛おしいわ! 彼女ってこんなに可愛いんだなぁ!


 ……はぁ。


「……世界が輝いて見える」


 モノトーンだった教室がカラフルに彩られていく。なんて言ってみたりして。はは、くっさ!


 クソみたいな自虐できゃっきゃしていると、声のデカい一軍女子達は隠そうともせずに盛り上がる。


「ねぇ海侑マジで乙女なんだけど! 好きとか送っちゃえばー?」

「そっそんなん恥ずかしいから無理! まだ付き合って二日目だからね!?」

「良いじゃん送っちゃえば! 何かアタシも中学生の頃思い出してきた!」


 ふむ。なるほどな。確かに御代の言う通り二日目で好きって言われるのは重いかもしれない。俺も気を付けなきゃな。


 ……いや、待てよ? 例えば仮にみーちゃんから好きってラインが来たらどうだ? めちゃくちゃ嬉しいな!!! っしゃ送るかァ!!!



やっち︰好きだよ



 うわぁぁぁぁぁ重いかなぁ間違えたかなぁ!? 取り消したいよぉぉぉぉぉ!!!


「ちょっ見て好きって来た! 待ってもうマジ無理ホント好き!」

「早く返しなよ!」

「わっわかってるから!」



みーちゃん︰私も好きです! 大好きです!



 はい大好き頂きましたァいやっほぉぉぉぉう!!!


 ……にしても、あっちの会話とえげつないくらいリンクしてるな。何だ? 俺は御代と付き合ってるのか?


「まっさかぁ」


 そもそも髪の色が違うしな。長さは同じだけどみーちゃんは黒髪で御代は金髪だ。


「てか海侑さ、何でこんな地味な後輩みたいなラインしてんの? 普段とキャラ違うっしょ」

「うちのバ先だと私って結構静かめでやってんの」

「その髪で?」

「ウィッグ着けてるから」


 髪色問題が解決したけど違うから。とんでもない偶然が重なっただけだから。


「海侑のバ先ってアレだよね。あだ名じゃないとダメなとこ」

「そそ。私はみーちゃんで彼氏はやっち先輩」


 確定じゃねえか嘘だろオイ!!!


 ととととりあえずラインするか。うん、たまたま同じタイミングで恋人が出来てたまたま同じ境遇のバ先があって二人ともたまたま同じあだ名でたまたま送ったラインの内容が一致しただけかもしれないし。



やっち︰ちょっと大事なことを言いたいから周りの子に見るのやめてもらうよう言ってくれる?



「ごめんみんな大事なことあるらしいから散って!」


 あー、ダヨネ(白目)


 周りの女子がはいはいと気だるげに離れたところを確認して、俺は意を決して切り出す。



やっち︰みーちゃんの名前って御代海侑?


みーちゃん︰え!? 何で知ってるんですか!?


やっち︰皆川大和って人クラスに居る?



 バッと勢い良く俺へ視線を向ける。とりあえず会釈だけした。



みーちゃん︰同じ中学だったとか……?


やっち︰俺なんだよ


みーちゃん︰はい?


やっち︰皆川大和=やっち。ぼっちってマジだったでしょ?



「……っ!?」


 一気に顔を赤くした御代は隠すように唇を抑える。


 そっか。俺達って昨日キスしたんだよなぁ(遠い目)



やっち︰よろしくね


みーちゃん︰何でそんな冷静でいられるんですか!? あとお昼は旧校舎の四階に来てくださいね!



 ラインじゃまだみーちゃんのままなんだ。でも俺の中じゃ御代は怖い女子ってイメージが具現化したみたいな子なんだよなぁ……。


「どしたん海侑? 自撮りでも送られてきた?」

「そっ、そんなんじゃないけどぉ……! だってアイツが……でもやっち先輩だし……うううそう思ったらカッコ良く見えてきたのが腹立つぅ……!」


 前言撤回。御代めちゃくちゃ可愛いわ。今すぐ抱き締めたい。



やっち︰めちゃくちゃ可愛くて草


みーちゃん︰やめてくださいバカ!!!

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