ストリーマー3話ミスティアクシデントリポート
ストリーマー3話ミスティアクシデントリポート
FpBフューチャーは閉幕。街は静かになると思われた。
会場の一部は残され、緑の公園は記念公園に名称を変えた。残された施設を使って、FpBのショールームが開店。隣接してFpBフューチャー記念館が建設開始。6カ月で開館。これは、日本発祥の(ホログラム)サバイバルゲーム場が付随しており、周辺公園やゴルフ場3箇所の改修をして整備された。
これに伴い、海外観光客が急増。チャーター便や増加した関西空港からの国内線に対応する為、高知空港の24時間運用が再開。反対派と推進派が県議会を2分。
日曜には、両派のデモ隊が県庁前で整列して、非暴力で罵り合う様子が観光スポット化した。
高城はヤタガラスに狙われた為、自宅に最新のセンサーとブービートラップを設置した。親と一般来客には作動しない。流体コンピューターAIが識別する。これらは試作品で、運用試験を兼ねている。
高城自身は能登島さんの作業車に移った。ゲスト用の寝台個室が有り、ストリーマーも継続できる。会社から出向扱いになり、給料は出る。仕事はヤタガラスを使って、試作品の実戦運用データを取る事に変更された。部署名は試作品評価部実戦運用データ課で、役職は係長に昇進した。高城以外に所属者は居ない。才谷兼任部長が上司だ。
「自宅にいないのに、なぜブービートラップを?」
今夜は能登島さんの作った、キャンピングカー料理サイトレシピから、¨フライドポテトの塩辛ソース¨と¨ブロッコリーの生ハムアビージョ¨だ。
「試作品なんで、ヤタガラスにも仕様は分かりません。でも、連中は威力偵察で僕の不在を確認する。最高レベルの試験データが録れます」
「刺激しないか?」
能登島さんは、日本酒をワイングラスで飲んでいる。高城はウーロン茶だ。
「日本人は基本厳守。ヤタガラスも同じと思います。無駄と判っても教科書通り威力偵察はします。運用試験も承知の上で」
能登島さんは、手酌で酒を注ぎ足した。
「なんて酒です?」
「愛媛のマールって日本酒だ。武田酒造のやつが俺の口に合う。これが生ハムに合うんだ」
能登島さんは瓶を回して、ラベルを見せた。marと有る。
「純米大吟醸酒……意味は?」
「5月じゃないのか?知らないが」
高城は瓶を持って、ラベルを眺めた。
「アメリカの演習で、ケガしたんです」
「右足か?」
「被弾しました。ホログラム実弾演習で、敵影はホログラムなんです。演習場は背中合わせで、流れ弾はあり得ない」
「狙われた?」
「事故調査委員会は迷宮入りのまま解散しました」
能登島はワイングラスの手を止めた。
「治療してくれた軍医が、解散を知って言ったんです。Fuck MAR」
「隠語か…意味は?」
「一部のアメリカ軍医の隠語で、Misty Accident Report。直訳は霧の中の遭難報告。政治的故意の事故と言う意味だそうです」
能登島も過去に、それにやられた。思い出したくもない過去。黙った能登島に高城は慌てた。
「すいません。その日本酒は関係ないですよね!僕も頂いて良いですか?」
ウーロン茶のグラスを空にして差し出した。
「あぁ。」
能登島は高城のグラスにmarを注ぐ。
「レッドツェッペリンのクラシックロックナンバー。ミスティ マウンテン ホップに乾杯」
高城は和訳歌詞を思い出した。
霧の山の小旅行。