ストリーマー1話その3
ストリーマー1話その3
9時から始まった生配信は、4時間に及び、寝たのは明け方の5時だった。
日曜日ののどかな風景が、閉め忘れた窓の間から覗いている。
「10時か…」
窓を閉めないで、わざわざ寝袋で床に寝ている自分に呆れる。
窓から顔を出し、ラッキーストライクに火を着ける。
射撃の上手かった隊の坂井先輩の真似をして吸い始めた。この先輩が射撃の基本を叩きこんでくれた。
~弾はな。思ったようには飛ばない。お前がやったように飛ぶ。その日の湿度、温度、風、土が濡れているか、乾いているか、木や草の生え具合、地形に気をつけろ~
先輩は実用射撃競技のバンドガン14年連続チャンピオンのデイビス トマシーに師事する為、自衛隊を辞め海外に渡った。
日本ではまったく知られていないが、IPSC実用射撃の国際大会で、バンドガン ライフル ショットガン部門の3冠を達成した。
高城も競技射撃をやってみたが、馴染めなかった。競技射撃も組織で有り人間関係だった。
遅い朝飯を食べる為に、八起き亭に行く。
「麟太郎。YouTube見たよ。孫のタツキが見せてくれた。なんだな、悪かねぇな」
黙ってても¨朝のお目覚め定食¨がテーブルに置かれる。
「おっちゃんもFPSフィールドやってみる?」
おっちゃんは笑って、顔の前で手を振った。
「いやぁ無理無理。コンピューターなんぞは、昭和2年産まれが触るもんじゃねぇ」
笑いながら、厨房に戻って行った。
高城は、¨朝のお目覚め定食¨の目玉焼きを食べながら、Twitterを開いた。
生配信のツイートに延々と返信が連なっている。
「炎上?」
常連のリスナーが怒りまくっている。
大元のツイートにさかのぼる。
~殺人ゲームで夜中にドンチャン騒ぎ。こんなゲームが有るから戦争や殺人事件が起こる。そもそも、自衛隊で殺人訓練なんかやってた、お前は頭がおかしいだろう
「またか…」
この手の批判には、さんざん答えてきた。しばらく無くなるが、定期的に発生する。
問題はリスナーが暴徒化する事だ。
あらゆるSNSで、大元の彼をボコボコにしてしまう。
火消しツイートをする。
まず。不愉快な思いをさせてしまった事を申し訳なく思います。
日本は民主主義の国なので、言論の自由が有ります。君の主張も僕の主張も潰してはいけない。リスナーさんには自重をお願いします。
返信
僕の主張を書きましょう。FPS及びバトルフィールドは殺人ゲームではありません。一人称視点の戦術射撃競技です。過去も未来もFPS及びバトルフィールドで殺人による死者は出ません。
返信
すべての戦闘ゲームが禁止されたら、戦争や殺人が減ったり無くなるとは僕は考えません。原因は別に有ります。君が戦争や殺人の原因が戦闘ゲームに有ると考えるかぎり、戦争も殺人も無くならないと思います。
返信
自衛隊は殺人訓練をしていません。いかに、侵略目的の外国の軍隊を思いとどまらせるかの任務を遂行しています。強盗は、防犯に備えている家庭に侵入しません。自衛隊はその士気と装備と戦闘能力の高さを内外に示す事で、備えています。
返信
評論家や科学者コメンテーターは、生活の為や研究資金が欲しくて、嘘をつきます。僕も嘘をついているかもしれない。君自身が、信用できる文献を調べ検証し分析し、真実にたどり着く事を願っています
「これで鎮火してくれよ……あっ」
飲んだ味噌汁が冷たくなっていた。