童話 ピョロリちゃん
僕、ピョロリちゃん。
今日は街までお出かけさ。
たまご色の服を着て、にんじん色のバッグを持って、チョコレート色の靴を履いて、ワクワクしながら玄関を出る。
おっと。
街までの道のりは長いんだ。
家に戻って、鳥の子色の毛糸で出来た、耳付き帽子を持ってくる。
玄関のドアを閉めて、帽子を頭にすぽっと被せる。
そうしたら、するっと帽子はすり抜けて、ぶわっと、目の前が透明なブルーになって、ざわっとミカンゼリー色の魚たちが、どこかに泳いで消えていった。
ブルーの空気は、さらさらっと粉のようになって消えて、残ったのは元の透き通った空気だけ。
ん??
目が点になったけど、魚たちのキラキラを見たら、うっかり、飴を持ってきていない事を思いだした。
いけない。いけない。
ぶどう色の飴入り巾着を、部屋から持ってきてバッグに 入れた。
バタン。ドアを閉めて、さあ、出発。
僕は何かを忘れてる。
なんだっけ。
考えると、不安になってくる。
まぁ、いいや。
僕は、クネクネ道を歩いている。
ぼんやり水色の空には、うっすら雲が浮かんでて、たまぁに、ひらりヒラヒラ雪が飛ぶ。
ずっと向こうに見える山には、ポッカリ雪原が広がっている。
その真ん中辺りに、ポツンと三角の木があって、雪原の外は、もっこり雪の林でギュウギュウだ。
きっと、三角の木は動物の家。
家のまわりがスッキリだから。家の周りに、木は生えないのだから。
道の横の野原には、ふわっと薄い雪のブランケットが掛かってる。
もちろん道には雪はないよ。道は歩くところだから、雪は積もらないんだよ。
地面に足を着ける度に、半透明なこげ茶色の土から、スーッと波紋が広がって、慎ましやかに消えていく。
僕は軽くて大した事ないけど、クマが通ったら大変だ。
地面の波紋がドッと広がって、周りの木や家までグニョグニョしちゃう。
寝ている子犬がいたら、夢の中までグニョグニョしちゃう。
僕はバッグからアメを取り出した。
りんご飴。
一個ずつ、鏡のようなプラスチックの袋に入ってる。袋のギザギザのところから、縦にピィっと裂いていく。
すると、りんご色のりんごの形をした、りんご味のする飴が出てきた。
りんご飴には枝の部分が付いていて、先っちょには小さな葉っぱがついている。
枝をクルクル右に回して、ポロリと取った。ここの部分は食べられない。
最初は口の中で転がして、あまい汁を味わってたけど、ついつい噛んでしまう。
最後まで舐めた事なんて一度もない。
噛んだ後には星のようなカケラになって、ボリボリしてるうちに、汁になって消えてしまって、最後にはタネだけ口の中に残った。
これも食べられない。
お行儀が悪いけど、プッと地面に吐き出して、タネはポチャンと地面に入っていって、小さく波紋が広がって、ニョキっと小さな若緑色の芽が出て来て、またまた小さな波紋が広がった。
その芽はやがて飴の木になるだろうから、暖かな頃にまた通ってみよう。
忘れないで通ってみよう。
道の横には、ぽつりぽつりと、他にも木が生えている。
少しだけ、茶色の葉っぱが残っている。
少し寒くなって来たころに、たくさんあった葉は黄色くなって、紅くなって、どこかに行ってしまったのだろう。
風がピューっと吹いたら、茶色い葉っぱがヒラヒラ落ちて、茶色の鳥になってヒュルヒュルと飛んでいった。
あぁ、だから、空には鳥がたくさんなんだ。
たくさん集まって飛んでるんだ。
飴の木に実がなったら、みんなで食べに来るかもしれないね。
そうしたら、僕が知らない内に、りんご飴は無くなってしまうだろうけど、僕は何か食べないといけないわけじゃない。
だから、ケンカしなくて良い。
そう思ったら、胸の隅がスッとした。静かに静かにスッとした。
ずっと前に、僕に仲間がいた頃は、そうではなかった気がする。確か、そう。
考え出すと、不安になってくるから、まあ、いいや。
遠くに街が見えて来た。
街にはお店がたくさん。遊ぶところもたくさん。
あっ。ちょうど、金の龍が街に着くところ。見れたらラッキーな気持ちになる。金の龍はとっても速いけど、お腹の中はとっても静か。僕も乗った事あるよ。乗って遠くまで遊びに行った事があるんだ。
街に着いたら、おしゃれな服を見に行きたい。
ぼたん色かな。
ひすい色。
るり色もいいよね。
お店には一人ずつ店員さんがいる。
店員さんは大人だよ。
大人は僕とは違う。
僕と、ヤギさんやウサギさんが違うように。
店員さんは、いつも同じような事を言うし、次に何を言うか、なんとなく分かっちゃうけれど、いつも僕を気遣ってくれる。
ん?僕もそうかも?
僕もだいたい言う事、決まってるかも。
決まってる・・。
そうだ!
僕は、思い出した。
いつも、遠くへお出かけの時は、決まって帽子を被るんだった。転んで頭を打ったら、大変だもの。
バッグをゴソゴソ。消えて無くなっていた耳付き帽子は、ちゃんと中に入っていた。
そして、僕は帽子を被った。
スポッ。
頭は帽子に包まれた。
・・・!!!
そう!帽子は被る物。
僕は、取り戻した。
とってもうれしくなった。