吸血鬼は小学生!?
朝昼輝く太陽が、地平線に沈む頃。
夕焼け小焼けの濃いオレンジが、夜を連れてきて闇に染まる。
住宅街の、ある道路。ブロック塀に挟まれた、街灯灯る、とある道。
学生服に身を包んだ、中学生がおりました。
危ないぞぉ。夕暮れ深まる逢魔が時は、何と出会うかわからない。
自然が遠のき、機械が包む、距離の縮まるこの時代。
最先端の今この時にも、実は、いるかもしれない。
幽霊。妖怪。異形の怪物。
そう。それはまさに、帰路を歩む彼の背にも――。
「がおおおおお!」
「なーにやってんだお前」
あら。おどかしは失敗の模様。
小さな小さな手を広げ、牙をむいた金髪少女は、伸びた歯牙を見せつけながらぴたりと止まってしまいました。
「バレバレなんだよ。毎度毎度つけてきやがって。ストーカーかお前」
「ぬっ……! ぬななぬな! なんだとーこのタコ助!」
「だーれがタコ助か誰が」
「いひゃひ! いひゃひ! いひゃひ!」
すらりと締まる白い頬。しかし意外と伸びるようで、振り返った男の子がびよんびよんと引っ張ります。
短髪、ツリ目、三白眼。鼻の筋には絆創膏。少年の顔には、呆れの二文字が浮かんでいました。
「今夜こそは驚かせられると思ったのに―! くやしいー!」
そんな彼に反抗して細い腕をぶんぶん振った女の子は、男の子からやっと逃れると言いました。
「タカハルのバカバカバカバカ! 敏感! 臆病! ビビりまくりのシックス・センス!」
「やめろ! 俺は敏感でも臆病でもねぇ! お前がわかりやすすぎなんだよ!」
ぎゃいぎゃい騒ぐ二人の声に、電線の上から見下ろしていたカラスもどこかへ行ってしまいました。
かぁー、かぁー、と、だいぶ深まった夕暮れに悲しく響きます。
「ちがうもん! ジュナの尾行はかんぺきだもん! タカハルの六感がビクビクなだけだもん!」
「うるせー! 俺には霊感なんてねェ! 小学生はさっさと帰れ! 」
ぷぅ~! と膨らむジュナのほっぺ。そう、彼女は小学生。
紅い靴に白い靴下。すらりと伸びる白い足。赤いワンピが身体を包み、背負っているのはランドセル。
小さな口は不機嫌な「へ」の文字。立派なお鼻の上には縦筋。まん丸おめめも今はむかむか。
ルビーのような瞳が煌めき、闇にも映える長い金髪。
それがこの子、吸血鬼ジュナ。
「わかったよぉー! ジュナ帰るもん!」
地団駄を踏んで踏ん切りをつけた吸血鬼は、目の前に立つタカハルをちょちょいと追い抜くと、振り向きながら光の残る地平線へ走って帰って行きました。
「明日覚えてろよタカハル!」
「もう忘れた!」
「んなろぉー!」
なんとも残念な、吸血鬼。
いえ違いました。正しくは、吸血鬼『見習い』。
吸血鬼の母親と、人間である父親のもとへ生まれた半妖怪。
「明日こそ! ぜーったいタカハルを驚かせて、立派な吸血鬼になってやるんだから!」
ランドセルが回す赤い肩紐を両手でしっかり握りしめながら、ジュナは高らかに叫ぶのでした。
はてさてどうなることでしょう。
眷属である蝙蝠たちも、星が瞬く空の下、笑いながらはばたくのでした。