第三話 やっぱり飛べない
本来ある筈の物が、俺の翅には無い。
俺の翅はただの飾り物。
そんかこと、そんなことあるかよ!
ようやく、夢が叶って、翅を手に入れて、これから空を自由に飛べると思ったのに!!
これは何の仕打ちだ!!
俺は応接室を飛び出し、区長の屋敷を出る。
土地勘の無い、知らない街をひた走る。どこか高い場所へ。
感情任せに出てきたけど、どこに向かおう?
ここはレンガ敷きの、人気が少ない道。恐らく裏通り。
頭上を見上げると、真っ青な空が見える。
その空を飛び交う妖精達。
翅を出す。肩と背中を前後に動かす。
感覚は無くても、翅自体はあるんだから諦めずにこうしていれば飛べるはず。
でも、全く飛べる気がしない。
……クソがー!!
八つ当たり気味にまた、俺は街をひた走る。
……どれくらい走っていたのだろう?
土地勘も無い街中を闇雲に走っていたら、当然迷う。
つい癖で空を見上げると、ほど近い場所に塔の様な建物が見えた。
そういえば、ここに来る途中ドラゴンのタクシーからも見えたな。
それがあの塔か。
フラフラと俺は塔の元へ行くことにした。
塔に向かいながら、突然応接室を飛び出したことについて考えていた。
いくら何でも、偉い人の前で、やる事は無かったなぁ。あとで誠心誠意三人に謝ろう。
そう決めてここから、見える塔目指して走る。
二分弱で目的地に着いた。
俺は今、塔の根元にいる。
根元から見上げると、本当に高い。そういえばここって、勝手に入ってもいいのか?
ま、いっか。怒られた時はその時だ。新人という事で最初は大目に見てくれることを願おう。
塔の根元の入口はガラス戸がある。それを押す形で開けて中に踏み入れる。
内部は吹き抜けの円形のロビーになっており、その周囲をぐるりと取り囲む形で多様な店がある。
そしてロビー中央には透明な円筒が二つ、真上に伸びて、各階と渡り廊下で繋がっている。
円筒の先を目で追うと、天井に刺さっている感じに見える。屋上にでも繋がっているのだろう。
円筒の正体は多分、エレベーターか何かだ。
周りを見回しても階段らしき物が見当たらない。
まぁ、自力で飛べるのだから階段なんかいらないだろう。エレベーターは楽して上階に行くためか。
一階やその上の階にも、様々な人達が行き交っている。どうやらここは、大きなショピングセンターのようだ。
俺はさっそく、エレベーターに乗り込み屋上へ直行する。
エレベーター内は、俺の元の世界にある展望エレベーターとなんら変わらない様子だ。違う所と言えば、動力源くらいだろうか?
元の世界は電力だが、こっちは多分魔力。
エレベーターはグングン上昇する。その間、俺は中にあったフロア案内を眺めていた。ここのショピングセンターは三十階で、最上階の屋上は展望デッキになっている。
それからものの数秒で停止すると、エレベーターの扉が音も無く開き、同時に心地よい風が流れ込んでくる。
足早に俺はエレベーターから展望デッキに踊り出る。
展望デッキに出た俺はまず、最初に正面に見える深く広大な森の向こうに高い山脈、更にそ彼方に見えるほぼ空と同化した色を持つ何かが一際高くそびえている。
あれは何だ? 妖精の世界だから……もしかして世界樹?
あの世界樹の上には何があるんだろう。まさか神様か?
行ってみたい。あの上に。
彼方に見える天にそびえる世界樹の上。あそこに行きたい。
俺は背中に意識を集中し、肩越しに翅が出るのを確認すると、真っ直ぐに走り出す。
アホウドリの様に高い所から助走をつければ飛べるだろ。
展望デッキから空中に飛び出し、懸命に肩と背中を前後に動かす。
こうすれば、羽ばたくことは出来る。羽ばたく事が出来れば飛べるはずだ。
しかし、やっぱり飛べずに落ちる。落ちてる間を懸命に肩と背中を動かして羽ばたく。
だけど俺に翅感覚は無いので、上手く羽ばたけているかはわからない。
滑空もしていない所を見ると、やっぱり上手く羽ばたけずに落ちているらしい。
みるみる近付く地面を見つめながら心の中で叫ぶ。
何で、翅があるのにちっとも飛べねぇんだよぉぉぉぉぉぉ!!




