第三話 体をはる
ジェニファーの示唆で自分が異星人の拉致対象であることに気づいた智美は、囮となって異星人のもとへ飛び込み彼らの意図を探ろうとする。そこで智美が得た驚愕の事実とは?
「ウッ、ウ~ン……」
智美が頭を左右に振り目を覚ました。真っ白だ。はっきりしてくる視界と背中の固くて冷たい感覚から、白い天井を向いて鉄板のような硬い素材でできた台の上に仰向けで寝かされていることが分かる。大の字になった四肢を戻し起き上がろうと試みるがビクともしない。拘束具で台に磔状態になっているようだ。ハッとして首を起こし着衣を確認する。SDTU隊員服のオレンジ色が目に入りホッとする。フ~ッっと溜め息。
「気が付いたかね?」
驚いて声のする先に顔を向けるとやはり真っ白。いや、瞬きすると白い壁を背に白いヒト形が立っていた。首のないかまぼこ板みたいな頭部の異星人ではない。きっと人間、声からたぶん男。なぜ真っ白?彼は白衣の前をきちんと留め、白髪で大きなマスクを付けていた。一歩二歩とこちらに近付きそこだけ白くない眼鏡の奥の茶色の瞳が、智美の顔を覗き込み全身に視線を走らせる。
「ここはどこなんですか?あなたは?」
相手が人間であることに驚愕しながらも、生真面目な智美は敬語を選択した。
<望んで招いた結果とは言え、こう完璧に嵌まり込むとはこの身の不覚だな>
白装束の男の舐めるような眼差しを顔を背けて避けてから、自嘲の笑みを微かに浮かべすぐに消した。
「いたぞ、あそこだ!」
これまでの出没場所の共通点を探し出し、予め智美が指揮するパトロール隊を配置していた地区にお誂え向きに異星人が現れた。
今回は一体だけの異星人はバディを組んだ智美と高木の威嚇射撃に退却を始める。
<だめだめ、そんなに早く引っ込んじゃ。ほらほら私を見て!>
“女と認識されてないんじゃない?”とのジェニファーの指摘を重く受け止めて、今夜の智美は出動時から長い黒髪を束ねずに変身後のヒロイン同様に肩になびかせ、普段はさっと薄化粧のところ濃い目のルージュやアイラインまで引いたバッチリメイク、男勝りの颯爽とした歩様も控え気味にして若い女であることをアピールしようとしているが、隣の高木の無反応に誘因作戦の失敗を自覚せざるを得ない。
<お前もあいつも鈍感すぎるぞ!>
「撃ち方止め!」
「どうしたんすか、丘さん?」
「いつも鼬ごっこじゃ拉致が開かない。私が行って話してみる」
「だめっす、危険です!」
高木の制止の声を背中で聞いて智美はゆっくりと物陰から路上に踏み出し、右手に掲げたショットガンを放り出した。
「ちょっとあんたたち話しようよ!」
智美の普段より一オクターブ上げたソプラノボイスに、背を向けていた異星人がこちらを向き、美声の主の容姿を見定めるように凝視してから満足そうに鋏状の両腕を上げる。
「あんたたちの目的は何?何のために若い女性を拉致してるの?こっちの言葉は解るんでしょ。さあ答えなさい!」
声をかけながら歩を進める智美と異星人の距離はあと三m。とその時、一陣の旋風が智美の左側路地から吹き付け、異変を察した彼女に反撃の間も与えず脇腹から抱きかかえて右側の路地にすり抜けた。
「えっ!丘さんが消えた?」
何が起きたか理解できない高木に一瞥をくれ、正面にいた異星人も全速力で逃亡していった。抱きつかれたもう一体が口吻から発したミストに不覚にも気を失った智美は、その小柄な身体を楽々と運び去られたのだった。全てが終わりようやく我に返って走り寄ったバディの高木は、誰もいない前後左右を見回し呆然と立ち尽くすのみ。
「指令室こちら高木、丘さんが異星人に拉致されました!」
「ここに連れてくる前に、金属探知機をかけさせてもらい身に着けていた通信機や武器の類は全て外して破棄させてもらったよ。いくら対象性別年齢に当て嵌まるからって、何も自衛隊員を運び込まなくてもいいのにね」
今回の出撃に際し、智美は敢えてあの大切なスマホはジェニファーに預けてきた。その代わり彼女に未だ研究段階の直径二mm樹脂製骨伝導式超マイクロ送受信機をアメリカから急遽取り寄せてもらい後頸部に埋め込んでもらっている。
(智美、大丈夫?話せないなら、頭を一度振って)
目の前の男に覚られぬよう言われたとおりにする。
(OK、現在位置トレース中。これにはしばらく時間がかかるので、できるだけ会話して引き延ばして)
「先ずは君の問いに答えよう。私のことはプロフェッサーKとでも呼んでもらおうか。察しのとおり地球人類の端くれで、資格は医学博士。ここは私の私的研究施設。周辺住民は”ゴミ屋敷”と呼んでいるようだが」
「あなたと私をここに連れてきた異星人はどういうご関係なんですか?」
神経質で、コンプレックス過多と相手の気質を読んで、言葉の端々にリスペクトを乗せる。
「私はマッドドクターとして医学界を追われた身。そんな私を彼らイプシロン星系人は見い出し、私に新たな研究課題を与えてくれたのだよ。地球人類の体内生成物による異星人の不治の病の治療法の開発という究極の課題をね」
(異星人の病気の内容を訊いて)
「イプシロン星系人の病とは具体的にはどんな症状を呈するのですか?」
「それは秘密だ」
そう言いながら地球上で自分だけが知る異星人の症例を話したくてしょうがない眼鏡の奥の瞳の揺れを見て取り、溜め息を一つついてひと際アンニュイな声音で智美が問いかける。
「どお~せ、私は間もなく死ぬ身ですよね?誰かの役に立つというならその内容を承ってから死にたいですわ」
大きなマスクがヒクついて、Kが満面の笑みを浮かべているのがわかる。
「間もなくではないのだがね。君も簡易検査で陽性反応が出た。他の拉致された女性同様ここの地下室で凍結保存され、彼らの母星に連れて行かれるのだろうから、疑問に答えてあげよう。彼らイプシロン星系人たちは、突如発生した急性老化病に苦しんでいる」
「急性老化病?」
Kも学者の性癖として専門分野を語り出したら止まらなくなるタイプのようで、長広舌で智美に説明を続ける。イプシロン星系人も有性生殖によりその遺伝子を繋いでいる。彼らの星で蔓延した急性老化病は文字通り彼らの老化を数百倍に加速させるもので、各個体が生殖可能体となって間もなく死に到るため、遺伝子の世代交代を大きく阻害、つまりこの病気への対抗策を見いだせねば、イプシロン星系人は子孫が残せず近い将来絶滅してしまう。そこで彼らの全科学力を結集して調査、研究が進められ、急性老化病がウィルス感染によるもので特殊ワクチン接種により感染を防げることが判明した。すぐさま開発に着手したがワクチン化の過程で、病原菌の毒素を弱めるためにはある生体系タンパク質から成り立つ酵素が必須であることが解った。
「酵素の名は”ゲンロン”」
「ゲ・ン・ロ・ン?」
(ゲンロン……聞いたことあるような?)
通信機の向こうでジェニファーは研究室のPCに飛びついた。
「クマムシという生き物をご存知かね?」
話しの方向性が見えず首を傾げるのみの智美。
「体長一mmほどのイモムシ状の緩歩動物なのだが、危険を察知すると身体を仮死状態化し無水、無酸素でも命をつなぎγ放射線をも跳ね返す、つまり宇宙空間でも生きられる驚異の生物だ。それらを可能にしているのがクマムシだけが体内に持つ特殊タンパク質酵素だとつい最近解明されて、将来人類が恒星間航行を行う際に役立てようと研究者たちは躍起になっているようだ」
この地球のそんな小さな生き物に計り知れないスーパー能力あることを知り、巨大化したクマムシと対戦しあらゆる武器が通用せず途方に暮れる我が姿を想像して、金属台に預けた智美の背筋に冷たい汗がひと滴。
「ゲンロンも性質は異なるが系統は同じ生体タンパク質、元来応用用途は少なからずあったはずなのだ」
「なぜ、過去形?」
語尾に違和感を感じ智美が問い返す。Kのマスクが少し歪み、眼鏡の奥の目が眇められる。何らかの悔恨の情が浮かんでいるようだ。彼は再び口を開いたが智美の問いには触れず。
「イプシロン星系人たちは自らの体内を皮切りに星系内のあらゆる生物にまで手を広げ、ゲンロンを捜し回った。しかし、その特殊タンパク質は見つからない。そこで彼らはイプシロン星系と似た環境の他星系に目を向け、ゲンロンの存在可能性を探った」
Kの語り口調がだんだん芝居がかってくる。人間相手に自らの知識を開示するのは久しぶりなのだろう。もう智美の誘引は必要なさそうだ。一呼吸の沈黙。
「そして彼らはある仮説に到達した。ゲンロンはこの地球に、それもある遺伝子配列を持つ人類女性の活性化された子宮内に存在しうると」
今度はKのマスクに覆われた口角が上がっているように見える。彼の語りによると、直ちに調査員が地球に派遣されたが、女性に限っても人類の人種的遺伝子配列は多種多様で適切な対象を制約された期間で見つけるのは雲を掴むような話だった。彼らには協力者いや共同研究者が必要だった。
(ビンゴ!かなり前の論文でゲンロンの発見を記したものがあったわ。ただその酵素は人類に活用用途がないと看做され、子宮内に発生する垢としてその存在を研究者とともに葬り去られた。研究者の名は……)
「糀谷先生、そしてあなたが異星人に協力したのですね」
眼鏡の奥の目が大きく見開かれる。
「君の脳内には検索エンジンが搭載されているのかね?まあいい。地球上でゲンロンの有効性や利用価値を認めるものは今は誰もいない。クマムシも以前は同様で見棄てられ、踏み潰されるだけの生物だった。しかし、ゲンロンはイプシロン星系人にとって種の存続のため欠くことのできない宝物。私の知識は地球ではなく宇宙の役に立つのだ。医者として科学者としてこんな栄誉はない」
「そのために多くの地球人類女性を犠牲にしても構わないんですか?」
「今のところ酵素を培養するために相当量の現物ゲンロンが必要だ。限られた時間内で生体を傷つけず所定量を取り出すのは難しい。残念ながら冷凍保存した女性たちを彼らの母星に連れ帰り、一気に処置するしかないのだよ」
“やっぱりあんたはマッドドクターそのものだ!”と、怒鳴り散らしたい衝動を抑え込む智美の脊髄をジェニファーの声が震わせる。
(OK、そこからは私の仕事。他の有効なゲンロンの急速多量培養方法は何とかして考える。先ずはあなたの脱出ね。場所は概ね特定できた。ウエハラたちに出撃してもらうわ)
智美が予めジェニファーと決めていた”No”の符牒を送る。
(智美大丈夫なの?そこから一人でどうやって脱出するっていうの?)
ひと際大きな声で智美が糀谷に呼びかける。
「糀谷先生、私のスマホを返して欲しい」
「スマホ?そんなもの君は持っていなかったじゃないか」
大声に面食らった糀谷が答える。
「そんなはずは、それは私の傍にあるべきなのに……」
今度は囁くようにつぶやく。
(わかったわ智美、いつ鳴っても大丈夫なようにスタンバっておく!)
コツンと一つ智美が後頭部を金属台に打ち付けた。
<女性たちが捉われているここをSDTUが大人数で取り囲んで異星人と戦闘という事態は避けねば。変身したいが糀谷は人間、彼の目の前では変身できない。そしてそもそも骨伝導送受信機経由の変身なんてできるだろうか?いや、可能性を信じてやってみるしかない!>
「糀谷先生、私の体内には特殊な発信機が埋め込まれていて、間もなくここに私の仲間が私を救出に来るでしょう」
「何だと!」
優秀な研究者が有能な危機管理者とは限らない。糀谷の場合もその典型のようだ。
「あっ、えっとどうしたら……」
自らの先見性や栄誉を誇るさっきまでの姿はどこへやら、糀谷が小刻みにその場で足踏みをしつつ、震える両手で身体をさすっている。
「助けを呼んだほうが……」
智美が相手の耳にギリギリ届くトーンで優しく囁く。
「そうだ!先ずはイプシロン星系人に緊急通報。あとはこいつの始末……」
血走った眼をしばたたかせる糀谷の耳ではなく脳内に直接メッセージを流し込むように。
「貴重なゲンロンを抱いた大切な生体。殺さないで隠した方が……」
(声が小さくて何を言ってるか聞こえないわ。智美どうしたの?)
「そうだその通りだ!瞬間冷凍して他の生体サンプル同様地下室へ運ぼう。凍結保存用カプセルを取りに行かねば」
既にパニック状態の糀谷は智美に誘導されていることにも気づかず、何かに憑かれたようにそそくさと部屋を出て行ってしまった。
「よし、今なら!」
目を閉じて集中力を高めた智美が強く心に念じる。
<変身!>
五秒経過後目を開いたが、身体はオレンジ色の隊員服のまま。
「やっぱりだめなのか?」
そこへ糀谷の急報に接したイプシロン星系人が飛び込んできた。台上に拘束されたままの智美に一歩二歩と近付いて来る。智美絶体絶命のピンチ。
<いいえあなたを待ってました。このシチュエーションなら!>
だんだん視界に大きく広がる異星人を映し出す眼を静かに閉じた智美が、骨伝導送受信機の向こうへともう一度意識を集中する。
<へ・ん・し・ん!>
すると彼女の後頚部を微かながら聞き慣れたお囃子が震わせ始めた。コンコンチキチンコンチキチン……
(スマホが鳴り出したわ)
「ジェニファー、スマホのスピーカーを通信装置のマイクにピッタリくっつけてくれ!」
(わかった)
お囃子の音量が上がり智美の脳内に充満していく。
「ジェニファー、通話ボタンオン!」
(了解!)
コンコンチキチンコンチキチン……ソ~レ!たちまち智美の身体を強烈な金色の光が包み込み、突然の異変に墓石頭に赤ベストの異星人は腰を抜かせて三頭身の短い脚を投げ出して床に尻餅をつく。ゆっくり光が消えた台上には、シルバーボディにグリーンの幾何学模様ストライプ、真っ赤なロングヘアをゴールドティアラで纏めたヒロインが、その漲る力で両手首をグイと返して拘束具を断ち切り、次に足首の縛めを引きちぎろうと身体を起こすはずが。ド~ンッ!圧し潰されそうな衝撃とともに視界が暗闇に包まれる。
「グフッ……」
苦し気な呻きを上げる小柄なヒロインの質量比二倍近くはありそうな異星人が、素早く態勢を立て直して彼女にボディアタックをかまして覆いかぶさっていた。上体を起こした異星人の腕の鋏がヒロインの喉元に突き立てられようと振り上げられる。ガシッ!自由になった両手でこれを受け止め、両足首を上下に振って拘束具を外し両膝を畳んで彼我の身体の空間に滑り込ませると、両足で赤ベストの腹を一気に跳ね上げた。台上から転げ落ち際、異星人が鋏の間から真っ赤な熱球を発射。拘束台の向こうのコンソール制御パネルがパッと火花を上げ、次にジュルジュルと音を立てて溶け落ちる。台の反対側に寸でのところで身を交わしたヒロインも反射的にアームレットに右手を添えて反撃に、いや、う・つ・ら・な・い。
<違う!ちがうよな、仁子>
仁子の慈愛に満ちた笑顔を思い浮かべ一つ頷いたヒロインは、架台に預けていた背中をクルリと返して、次弾発射の素振りのイプシロン星系人に台の陰から両掌だけを広げてゆっくりと差し上げる。
「ちょっと待って、話し合お!」
手を上げたまま更に真紅ロングヘアと黄金のティアラに包まれた頭を出し、やがてシルバーボディ全体を相手に無防備に晒して立ち上がった。彼女の背後では壊れた制御パネルがまだパチパチとスパークしている。異星人を見つめるヒロインのオレンジ色の瞳は、あらゆる敵愾心を捨て去り仁子の慈愛を受け継いだ今の智美の気持ちを溢れさせて、ユラユラと潤んでいるようにも見える。一秒、二秒、三秒。手を上げる仕草は全宇宙共通だったのか、はたまたヒロインの瞳に魅入られたのか、イプシロン星系人はこちらに向けていた鋏状の両腕を静かに下ろしたのだった。
「あなた方の窮地は糀谷から聞いた。そして多量のゲンロンを必要としていることも。しかし目的のために地球人類に犠牲を強いるのは間違いだ」
イプシロン星系人は墓標のような頭部の天辺から、品質の悪いボカロのようなキーキーとした声で答える。
「シュノソンゾクノタメニハヤムヲエナイノダ。ゲンロンホユウシャを30ニンホドサシダシテクレレバ、ワレワレハキミタチニコレイジョウキガイハクワエナイ」
「一人ひとり違った人格や個性、そして愛し愛される家族を持った大切な地球の生き物。それは”数”ではない。そんなの認められるわけない!」
「ナラバホンイデハナイガチカラズクデウバウノミ」
異星人が再び両腕の鋏をヒロインに向ける。しかし、彼女はそれに対抗して左腕のアームレットに右手をやるかわりに、その掌を開いて彼に向って突き出して左右に振る。
「待って!私は困っているあなた方と闘いたくないの。私の相棒のスーパー科学者がゲンロンの急速培養法をきっと考案できるはず。少しだけ猶予をちょうだい」
彼らの考える仕草なのだろうか、ヒロインの提案の後前後に振っていた異星人の頭部が止まり、鋭い視線を彼女に返す。
「ワカッタ。タダシワレワレニノコサレタジカンハワズカダ。72ジカンダケキミタチニアズケヨウ」
「ありがとう。お互いにとって良い成果を持って必ずここへ戻ってくるわ」
(姿は見てないから聞いててもいいんだよね智美。ってもう聞いちゃってるけど。委細了解、胸に秘策あり。トライマイベスト!)
ジェニファーの頼もしい声がヒロインに確信と勇気を与える。
「頼んだぞ、ジェニファー!」
そうつぶやいてひとつ頷き、今度こそアームレットに手を添え再度光に包まれて変身を解除した智美は、通り道を開けた異星人と一瞬眼を合せサムアップしてから部屋を出て行った。それを見送るイプシロン星系人の両腕を上げた姿は、彼女のあまりに大胆な行動と提案にあきれたようにも期待しているようにも見えたのだった。
「さっきの破裂音は何だ?ともかくあの女を早く凍らせねば!ハア、ハア……」
冷凍保存カプセルを積んだストレッチャーを一心に押して来た糀谷は、既に息も絶え絶え。すると廊下の向こうからオレンジ色の何かがこちらに向かってくる。根は臆病で生真面目なドクターは慌ててストレッチャーを脇に寄せる。
「また来るね。先生!」
すれ違いざまこちらに向かって親しげにVサインを送り、見覚えのある小柄なコンバットスーツ姿が弾むような足どりで駆け去って行った。
「あれ、今のはもしや?」