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マーダーカラフル  作者: まんたんたん
4/6

3話 金は恐怖の色

【Jから始まる英単語】

JEALOUSY(嫉妬)·JOB(仕事)·JUSTICE(正義)

JOLT(衝撃を与える)·JUDGE(判決を下す)

JUNIOR(年下の)·JOKER(道化師、ピエロ)


「ちょいとここで待っててくれ」




 横丁後半にて優希は1人取り残されていた。

 Pは用があると、1つの建物の中に入って行ってしまったのだ。




「こわい…」




 両腕を(さす)り、身を恐怖で震わせる彼女は視線だけを泳がせる。

 何処(どこ)を見ても人が歩き、何も知らなければただの不思議でオシャレな夜の街並みと言った所だ。しかし、残念ながら優希はこの横丁に住む人々が(みな)殺人鬼だという事を知ってしまっている。だから彼女は冬でも無いのに薄ら寒さを感じていた。




「あれ可愛いお嬢ちゃん、こんな所で何をしているのかな?」




 声に顔を上げると優しそうに微笑む男性が1人、優希の顔を(のぞ)き込んでいる。そのあまりの近さに彼女は()()り、数歩ほど後退(あとずさ)る。だが、下がった分だけ男性は近付いてきた。

 優希は見てしまった。男性の目の奥にある、逃がさないとでも言いたい恐ろしい色が。




「1人ならオジサンとお菓子でも食べに行かないかい?」

「い、いえ…人を、待ってるので…」

「人?……あぁ、さっき電気屋に入って行った詐欺師の事か」




 男性はPの事を知っていたのか、建物を見下すように睨めば、すぐに人当たりの良い微笑みに顔を変える。その変わりように優希はゾッとした。それでも男性は彼女から離れようとはせず、どんどんと近付いて目線を合わせる。




「お嬢ちゃん、お菓子は好きかな?」

「お菓子…?」

「そう、お菓子。これしか持っていないんだが」




 手渡された飴玉は小ぶりで優希の小さな口でも頬張(ほおば)れそうな大きさである。彼女は不思議そうに手の上でコロコロと転がす。誰がどう見ても“ただの飴”。




「それ、オレの店で作ってる飴なんだけど…是非(ぜひ)とも試食してくれないか?」

「え?その…」




 男性の言葉に彼女はしどろもどろになる。

 それもそのはず、この横丁は殺人鬼が往来(おうらい)している。つまり、この男性も殺人鬼。それならばこの自分の手の上にある飴も“ただの飴”な訳が無いのだ。それを優希はよく理解していた。




「…ははっ、何を戸惑っているんだかなぁ?」




 男性は立ち上がると飴玉の包み紙を()がし金色の飴玉が姿を現す。宝石のような色の飴玉に目を奪われる優希の手を強く(つか)む。




「痛いっ…!」

「これはオレからの好意だ。それをお前は無碍(むげ)にするのか?悪い子だ」

「や、やめて…!!」




 無理にでも口に飴玉を入れようとしてくる男性に、優希は必死に(あらが)った。それでも男性と少女の力量の差は大きい。どんなに振り払おうと、どんなに首を振ろうと、男性の大きな手が彼女の動きを(ふせ)いでしまう。

 優希の目は街の人々を見るが、誰に助けを求めて良いのか分からない。助けを求めた所で他の殺人鬼に殺されてしまう可能性が高いからだ。




(しにたくない…死にたくないよ…誰か、お願いします…助けて…!!)




 声にならない悲鳴を心の中で叫び、頬を掴まれ無理やり飴玉が口に放り込まれそうになった瞬間。




「あぁ…神よ。無垢(むく)なる命に迫る(よこしま)な豚に、神の代行人として裁く事をお許しください」




 男性の背後に影が落ちた。淡々(たんたん)と聞こえてきた声に目を見開けば、同時に真一文字に赤い線が引かれる。赤い線は液体へと変わり、ワンテンポ遅れて真横に振られた大鉈により男性の首が飛んだ事を理解した。

 既視感(デジャヴ)…彼女は転がる首に固まり、ただただ震えながら黒い影を見上げる。




Amen(アーメン)




 片手に大鉈、反対の手で十字を切る外国人。

 金色のネオンによって照らされた外国人の青年は、神父のような服装を身に(まと)う。金色に揺れる短い髪が印象的だった。




「あ…ぁ…!」




 その〈金色〉が、優希にとっては恐怖の象徴(しょうちょう)でしかなかった。この横丁に来てすぐに起きた悲劇。平然と(おこな)われた殺人の光景に彼女は軽いトラウマになっていたのだ。

 そんな優希の姿を見た彼は、ニコリと微笑む。怯える彼女の頭に伸びる腕。優希は固く目を(つむ)った。だが、衝撃も痛みも何も無く恐る恐る目を開ける。そこにはただ優しく頭を撫でる外国人、Jの姿があった。




「お怪我はありませんか?」

「は……は、い…」

「そうですか。君が無事で何よりです」




 返り血も浴びず、キラキラと光る金髪を見れば優しそうな人物だと錯覚しそうになる。だが彼の持つ血濡れの大鉈と、足元に転がり動かなくなった物言わぬ(しかばね)に彼が殺人鬼と、まざまざと見せつけられた。

 呼吸の荒くJを見上げる優希に、彼は(いま)だ微笑んでいる。




「おい!なんだこりゃ、どうしたってうぉっ!?」

「っ…!」




 そこでやっと優希は聞こえてきた声に弾かれたように動く。彼女は建物から出てきたPの後ろに姿を隠せば、彼は優希の行動に声を上げた。どうしたのかと優希のいた場所を見やれば、今度はPが顔を青くする。

 よく知る殺人鬼が立っていた。血塗れの大鉈を持って。足元には横丁の前半で薬局を営むGの姿があった。




「あー…」




 Pは状況を察する。

 Gの動機は【子供が好きだから】、殺しのスタイルは【毒薬の入ったお菓子を配り食べさせる】であったはずだと思い出す。(おおむ)ね優希に毒を盛ろうとしたGが行き会ったJの動機に引っ掛かり殺されたと言った所だろう。

 しかしその状況を知った分Pは、次は自分の命が危険なのだと気付いた。




「J…俺が悪かった。Kの客であるガキンチョを放って置いた俺の落ち度だ」




 だからこそ言い訳はせず告解(こっかい)する。

 それがJに殺されずに済む唯一の手段だとPは知っていたからだ。Jは殺人鬼であろうと、腐っても神父。罪の(ゆる)しを得るのに必要な儀礼や、告白である告解をすれば圧倒的に生存率が上がる。告白の内容がJの中での罪と一致していた場合のみだが、高確率で生き残れる。

 今回のPの罪は〈Kの客であり幼い子供を危険地帯に1人放置した事〉にあった。それを彼自身も状況を見て正直に反省する。




「こんな小せぇガキンチョを1人にしたのは良くなかった。そこまで頭の回らなかった(おろ)かな俺を許して欲しい」

「…理解していればよろしいのですよ。我らが女神であるKの客人に粗相(そそう)があってはならないですから」

「あぁ、Kの客は大事にしなくちゃならねぇ」




 Jは神父。ただし神と(あが)めるのは生きているKだ。彼女だけが彼の唯一神であり、彼女だけが彼の生きる理由だとPは知っている。それ(ゆえ)にKに関する告解が効果的だと、このような発言をしたのだった。それは正しく、なんとかJの殺意を消し去る事に成功する。




「彼女をKの元へ送るのでしょう?」

「え、あぁ…まぁ、そうだけど」

「なら最短距離で案内します。着いてきて下さい」

「お、そりゃ助かるぜ」




 先陣を切って歩き始めるJに視線をやると、Pは背後で服を掴み震える優希の頭を荒々しく撫で付けた。




「お前、ほんっとうに運が無い奴だな」

「あの人…こわい…」

「はぁ…安心しな。ガキンチョがKの客である限りは、Jがお前を守る事はあっても、アイツがお前を殺す事は無ぇよ」

「え?」




 そんな馬鹿なと言いたいような少女の表情にPは肩で笑う。




「アイツに殺されたくなきゃ俺みてぇにJの性質を理解しとくか、Kの(ふところ)に入っとけ。そうすりゃ、K専門の処刑人たるJに殺される事だけは無いだろうよ」


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