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泥酔シスターの私は、救国の聖女になったらしい

作者: シアノ

 

 頭が痛い。ズキズキガンガンのぐわんぐわん。世界はぐらぐらのぐるぐるで、胃はぎゅーっと引き絞られるように痛い。


 頭を上げても下げても気持ちが悪い。とにかく楽な姿勢にしたいけど、横になっていても揺れている気がしていた。仰向けは無理、吐きそう。けれど横向きも気持ち悪い。あまり体を揺らさないように、そうっと起き上がったが最悪な気分だった。



「うぐっ……」


 ぶり返す吐き気に私は咄嗟に口を手で押さえた。しかしながら散々に出すものを出した胃はもう吐き出すものがなく、ただただ痛みと苦しみを与えてくる。





 口の中は散々に吐いたせいだろう、ひどい味がしてカラカラに乾いている。喉もヒリヒリと痛み、私は呻いた。


「み……水……」

「はい、お水ですね、どうぞロザリー様!」


 手渡されたのは冷たいグラスで、水滴が浮いているほどひんやりと冷やされているのが分かる。


 わざわざ飲み物を冷やすだなんて、修道院の誰かが氷魔法を使ったのだろうが、大事なお客様でも来ていたのだろうか。私はそんなことを考えてグラスに口を付けようとして、グラスにストロー(麦わら)が挿してあるのに気がついた。ああ、どうやら余程大切なお客様だったらしい。貴人はこうしてストローを挿して上品に飲むものらしいから。貧乏貴族出身の私はこうしてストローで飲む機会など、今まで数えるほどしかなかったが。





 とにかく喉がカラカラなので水を飲むのが先である。

 ストローを吸えば芳しく甘い味が口の中いっぱいに広がる。



 驚いた。薔薇水だわこれ。



 薔薇の花びらで香り付けして、砂糖で甘みをほんの僅か加えてある水。

 手間暇もお金もかかる贅沢品だ。



 ああ、飲みやすいし本当に美味しい!カラカラに干からびた、道端で死んでるミミズのような体に薔薇水が染み渡るかのようだ。




 私はグラスの薔薇水を全て飲み干して、おかしいことに気がついて顔を上げた。


「ってこれ、私が飲んだらまずいんじゃないの!?」



 だって私は一介の修道女。一応は貴族出身だけど、実家は笑ってしまうほどの没落貧乏貴族で、子供が二十人もいる内の一人。つまり食うにも困って修道院に娘をやって口減らしをされたほどなのだから、こんな冷やされて甘くて美味しい薔薇水にストローを添えて飲むような贅沢なんて許されない。


「いいえ。何を仰るのですかロザリー様、いくらでもお飲みくださいませ。それとも2杯目は柑橘の水に致しましょうか?」

「え、いや何を言ってるの。いえ言っているのです、シスタールーナ。私のことはシスターロザリーと呼びなさい……と……」



 私は顔を上げた。



 ニコニコした見習い修道女のシスタールーナが水差しを持って立っている。




 どこ、ここ。




 いつも見知った修道院の、掃除をどんなにしっかりとしても、さすがに古びた建物ばかりはどうにもならないわね、と笑い合うくすんだ天井ではない。

 かといって、実家の洗濯物が万国旗のようにぶら下がった兄弟の雑魚寝部屋でもない。



 まるで王宮のような広くて豪華な部屋に私はいた。


 寝ていたのもふかふかの大きなベッド。少し小柄な方の私には広すぎて半分以下しか使えなそうで勿体ないくらいの。


 そんなベッドに、私は土埃と自分の吐瀉物が少し付いているような小汚い修道服のまま寝ていたようだった。


「ここは王宮の客室ですよ、ロザリー様!」

「えええ、まずいって、こんな汚い格好で!なんで私こんなところに……!? あ、あ、ベッド汚してしまった……弁償なんて出来ないよぉ!鞭打ちされちゃう!」



 焦った私は気分の悪さも吹き飛んで頭を抱えた。


 肩あたりに切りそろえた金髪に手が触れる。修道女の被るウィンプルもどこかに行ってしまっている。どう考えても大目玉を食らうのは間違いない。


 修道院の収入は税金とお布施がメイン。あとは手作りの品物とか葡萄酒を売って、ささやかで質素な生活でなんとか生きているのだ。更に実家も貧乏では、リネン類を弁償どころか洗濯代すら出せないだろう。


「何を仰いますか、ロザリー様。貴方は救国の聖女……魔王を打ち倒したお方なのですよ! 弁償も鞭打ちもとんでもありません! むしろ褒賞をいただく立場ではありませんか! もしや、聖女のお力を使い過ぎて記憶が混乱されているのでしょうか? ロザリー様、しっかりなさってください!」


 シスタールーナに肩を揺さぶられて、私は口を押さえた。


「あ、やめてやめて、出るから、揺すらないで……あっ」



 ちょっとだけ思い出した。




 私、どうやら魔王を倒したらしい。









 この国、ファルドラン王国はわりと平凡な国だ。


 農業が盛んで、気候は穏やか。

 特に食うに困ることのない国民はわりとおっとりしている。だからか、隣国ベルナードがちょくちょく攻めて来たり、でもはっきりと戦争にはならなかったり、そんな情勢。

 


 しかしそんな国にもある脅威があった。


 ファルドラン王国の真下には地下帝国があり、魔族が住んでいる。

 しかしながら上と下なので、ぶつかり合うこともないまま、気にせず穏やかに暮らしていた。その均衡が崩れたのはつい最近だ。


 地下の魔族が地上に進出し始めてきたのだ。


 どうやら新しい魔王が誕生したらしい。




 その魔王は軍を率いて地上に来ては、誰も住んでいない荒地を勝手に開墾し始めた。


 最初はただの無人の荒野だからと放置してしまったのが悪かったらしい。

 魔王軍はどんどん開墾地を広げ、次は村や町を占拠し始めたのだ。とはいえ逃げる人間を追うことはしない。だから開墾地の近くにある村や町からは人が減り、やがて無人になり、それをまた占拠して、どんどん広げていった。


 流石に困ったファルドラン王国は軍を差し向けたけれども、あっという間に壊滅させられてしまった。とはいえ兵士でも武器を放り出して逃げれば殺されずに済んだから、士気はだださがりでみんな逃げてしまう。魔王軍はどんどん進出する、を繰り返していた。





 ファルドラン王国は困り果て、聖女がいたらなあ、と思い続けた。




 昔々、200年くらい前のことだろうか。この国にはすごい力を持った聖女がいて、その時の魔王を打ち倒し、魔族を地下に追いやった人がいたらしい。

 その聖女は、100代後にまた聖女が現れるだろうと言い残してこの世を去った。

 そんな聖女がまた現れたらいいなぁ、ふんわり思いながらのんびり戦争しているのだった。




 そして……その聖女ロザリンドの子孫と言われているのが私、ロザリー・ダルクールの実家、ダルクール伯爵家である。

 でも100代なんてずっと遠い未来のことだ。2000年後くらいだろうか。全く実感が湧かない。

 だから、せめて血筋だけは絶やさないようにと子作りにばかり励んだ私の両親はなんと子供を20人も授かった。その真ん中あたりが私。ロザリーの名前も聖女ロザリンドから取ったそうだ。


 しかしながらかつて聖女を輩出したくせに今ではすっかり没落して、貧乏貴族となっていたダルクール伯爵家は食うにも困り、義務教育である初等学校を出たばかりの14歳になる娘を口減らしすることにしたのだ。それが、私。

 それでも娼館に売るのは流石にかわいそうだからと修道女にすることにしたのだという。


 本当は奉公にでも出られたらお金も稼げて良かったのだろうけれど、初等学校を卒業して、貴族令嬢は当たり前のようにみんなが通う上級学校を出ていなければ奉公先など見つからない。しかしその上級学校に行かせるお金すらなかったのだ。仕方のないことだ。むしろ娼館でなかっただけマシ、修道院は質素ながらとりあえずご飯が3食もしっかり食べられる。余ればお代わりだってしてもいい。それだけで私は満足していた。

 むしろ実家にいた時よりも少し太ったほどだ。実家では食事は弱肉強食。それでも幼い弟妹に食べさせる為に体を張って奪い合っていたものだから、自分の取り分はそれほど多くなかったのだ。

 おかげであまり身長も伸びておらず、後輩シスターのルーナよりも低いほどだ。きちんと3食ご飯が食べられるようになってからは肉付きだけはよくなったものの、年相応に見られることは少ない。






 そして2年が経ち、16歳になった私は成人した。


 成人したところで修道女の生活はさほど変わることもない。見習い修道女の服から正式なものに変わったくらい。


 そして昨日行われた成人の儀に出席して、きらびやかなドレスを着た同い年の少女達を尻目に修道院に帰ってきた私は、先輩シスター達からお祝いにと、本来は売り物の修道院手作り葡萄酒を飲ませてもらったのだ。



 そこからの記憶は随分と曖昧である。



 最初は一口だけ、と飲んだのだが思っていたより美味しくないかも、と二口目を飲んだ気がする。そうしたら慣れたのか、最初より美味しく感じてきたし、体がポカポカして気分が良くなってきたのだ。


 そして、自分でグラスにドポドポと注いで、一気飲みをした……かも。

 瓶が空になったので、葡萄酒よりも強いという蒸留酒の瓶に手を伸ばした……のだったかな。




「……シスタールーナ」

「はい、なんでしょう、ロザリー様!」


 シスタールーナは懐いた飼い犬のように顔を上げ、目をキラキラとさせている。尻尾があれば振っていたかもしれない。

 そんなシスタールーナに、私は恐る恐る聞いてみた。


「私はどれくらい飲んでたのでしょう」

「飲んで……? ああ、お酒ですか。えっと、葡萄酒を一本飲み干された後、蒸留酒を2本空けられていたかと思います。酒精は神のお力を借りる為には必要なのでしょう? 昨日はロザリー様もそう仰っていましたよ」



 ああ、そうだった。


 ロザリーは昨日のことを少しずつ思い出し始めていた。





 先輩シスターに止められても飲み足りない私は口から出まかせを言ったのだ。


「いま何か、神のお力の一端に触れた気がするのです。このままもう少し飲ませてはいただけませんか? 私の一族は聖女を輩出する家系。もしかすると多少なりとも聖なる力に目覚めるかもしれません」


 先輩シスターは半数がニヤニヤと、もう半数の敬虔なシスターはなるほどそうかも、と頷いて、大事な蒸留酒を開けてくれたのだ。


 蒸留酒は舌が焼けるかのようだったが、飲んだ時のふわふわとした気持ちよさと、楽しい気分が倍増され、なんだか本当に聖女の力に目覚めたような気がしたのだ。



「なんらか、ほんとーに聖女の力に目覚めた気がするのれす!」

「いやいや、お水飲んで寝なよ、シスターロザリー」


 サバサバした姉御系の先輩シスタードロシーが私から酒瓶を奪おうとしたのだが、私は胸に抱き込んで離さなかった。


「いーえ、ほんとーなのれす! シスタードロシー! 私のしめいはここに!!いってまいりまーす!!」

「ああっシスターロザリー! 待て! 待ちなさい!」


 そして私は瓶を片手に握ったまま、先輩のシスタードロシーを振り切って修道院を出て、ひたすら駆けた。



 走ったとして、魔王軍が開墾した土地は遥か遠くの荒地の方である。

 ファルドラン王国王都市街地の修道院から走って行ける距離ではない。



「わ、私はどうやって魔王のところまで行ったのでしょう」

「ああ、市街地外れの移動魔法陣を使われたそうですよ! 王国軍が魔王軍を攻めいるのに使っていたものだそうです。それを思いつくとはさすが聖女ですね!」

「な、なるほど……」


 移動魔法陣を使えば確かに遠方の魔王軍の側までひとっ飛びだ。


 そこからどうやって魔王と相対して倒したのかは分からないが、確かに魔王は敗北宣言をして、魔王軍を最初に開墾した辺りまで引いたらしい。





 そして私は、吐瀉物にまみれて転がっていたところをファルドラン王国の偉い人に発見され、王宮に連れ帰られた……とな。




 私はさあっと血の気が引いた。


 はっきり言ってどう考えても酔っ払いの馬鹿げた行動で、危うく死ぬところだったとしか思えない。


 なんだかよくわからないけれど酔っ払ってたまたま本当に聖女の力に目覚めて魔王を打ち倒したからなんとかなったものの、普通に考えて死んでてもおかしくなかったはずだ。



「ん……?」


 あれ、ふとなにかを思い出しかけて、しかしあっさりと脳みそをすり抜けてしまったらしい。結局何も思い出せずに私は再び頭を抱えた。

 こめかみの辺りをぐりぐりと揉みほぐす。



「ロザリー様……それから、おめでとうございます!」

「え、何がですか、シスタールーナ。あ、お水もう一杯いただきますね」


 私はシスタールーナの言っていることが分からず、首を傾げた。


 そしてシスタールーナに注いでもらった冷たい薔薇水の2杯目を飲み干す。

 ぷはぁと息を吐けば、ようやく人心地ついてきた気がする。


「え、魔王様ですよ! ロザリー様とご結婚なさるのでしょう」


「はぁああああ!? どういうこと!!」




 私は叫んだ。



 だって私は聖女として魔王を打ち倒したはずだ。



 そんな私の驚愕に気付かず、シスタールーナは恋する乙女のような胸に手を当てたポーズでくねくねと身をよじらせた。


「やだ、ロザリー様ったらそれも忘れてしまったのですか? 私はご本人から聞いたのですよ! 魔王様はご自分を打ち倒した強く美しくそして清らかな聖女ロザリー様にすっかり惚れ込んでしまわれて……一度打ち倒されたことで魔力の半分は減りつつも、まだまだ強大なお力を持っているらしいのですが、ロザリー様との結婚を許してくれるならば、この力をファルドラン王国の平和のために使うと誓われたのです」


「は?」



「その通りだ、我が愛する聖女よ!」



 バン、と扉を乱暴に開く音がして誰かが部屋に入ってきた。




 それはまるで太陽が部屋に飛び込んできたかのようだった。




 光り輝くような美形がそこにいた。


 艶々の白い肌はシミひとつなく本当に輝くほど、大きな瞳も弓なりの眉も、高い鼻梁もまるで作り物のように美しい。それだけでも芸術品のような唇の端は左右に持ち上がり、微笑みの形を作っていた。



 その身長は部屋に入る時に頭を下げなければ扉を通れないほどに大きい。体は筋骨隆々としているのが服の上からでも分かる。というかズボンは履いているものの、上半身は素肌に丈の長いジレのような上着を羽織っているだけで、まるでその体を見せつけるかのようだ。確かにそれほどに美しい体であるとはいえ、ほぼ変態である。美形でも変態は変態。


 私は修道女の心得にある通り、大きな声で叫んだ。


「うわーっ! 変態よー!! ほら、シスタールーナ、股間を狙うのですよ!」

「ななな何を仰っているのですか! 魔王様ですよ! ほら!」

「え」


 よくよく見ればその美形変態男の頭にはゆるくウエーブした菫色の長い髪だけでなく、左右にくるりと巻いた羊のような角が生えている。

 そして瞳。真っ赤な色をした瞳の中央、その瞳孔は縦長の猫の目のようで、明らかに人とは違う。



 何よりも、一瞥しただけで震えが走りそうなほど強い魔力が全身から陽炎のように立ち昇っている。




 強大な力を持つ魔王……確かに私はこの姿に見覚えがあった。






 そして、本当は魔王を倒していないことも、思い出していた。






「ロザリー様、私はお邪魔になってしまいますから、外に出てますね! ごゆっくりどうぞ!」

「えっ、いやっ、待ってくださいシスタールーナ!!」



 私はあろうことか、魔王と二人きりにされてしまったのだった。



 魔王の赤い瞳がキラリと光る。

 あれは獲物を狙う目だ。






 私は全身からさあっと血の気が引くのを感じていた。






※    ※    ※







 私の名はヴァサゴア・ディアニス・トリエンナーレ。


 とはいえ魔族であるので基本的に名前を名乗ることはない。この名を知るのは大切な人だけだ。



 今は魔王と呼ばれている。




 生まれた時から強大な魔力を秘めていた私はそこにいるだけで魔族の全てから傅かれていた。



 持つものは持たざるものを導かねばならない。私は至極面倒ではあるが、魔王としての役割を引き受けていた。





「魔王様、地下麦の生育が悪いです」

「魔王様、魔鶏と魔羊の仔が中々育ちません」

「魔王様、井戸水が枯れています」




 しかしながら近年は平和なはずの地下帝国にも異常気象が続いていた。



 太陽光を浴びずとも育つはずの地下麦は生育が悪く、収穫しても実がスカスカ。食べ物が悪いせいか魔家畜も弱り、肉質も良くない。更に井戸が枯れたり水質が濁ったりと、トラブルばかりが続いていた。

 こうなると民も不平不満が溜まる。元々地下に追いやられた苦労もあるから尚更だ。






「分かった。地上に出よう」


 私は食糧調達と、それから不満を溜め込んだ民のガス抜きのために地上に出る決心をした。






 地上は地下のような異常気象からは縁遠く、平和で穏やかな気候のままであった。


 一応地上の人間に迷惑をかけないよう、誰も使っていないらしい荒れ果てた土地を開墾すれば、面白いほど簡単に麦が獲れる。お腹を空かせた魔族の腹を満たすため、私自ら鍬を取り畑を耕した。






 最初はそれだけでよかったはずなのに、目の前に美味しそうな物があったとして、魔族に我慢はそう簡単に出来るものではない。


 気がつけば開墾する土地を広げ、打ち捨てられた無人の村や町を占拠して魔族の街に作り変えて行った。それが悪かったらしい。

 地上の国、ファルドランが攻めてきたのだ。

 それを返り討ちにすれば活気付き、我々魔族は更に土地を広げていった。







 そのうちにまだ人の住む村や町を脅かして住む場所を奪い取る魔族が出てきた。出来るだけ人を殺すなという命令だけは守っているようだが、確かに少しやり過ぎだ。だが箍の緩んだ魔族達を押さえるのは少し面倒だった。

 上手いこと治めるために聖女とかが来ないかなぁとふんわり思いながら、私は畑を耕していた。





 伝説の聖女。


 2代くらい前の魔王の前に美貌の聖女が現れたそうだ。


 その頃の魔王は力は強いが頭は悪かったらしく、地上で人間に蹂躙の限りをし尽くしたそうだ。そんなことをして何が楽しいのかわからないが、暇だったのかもしれない。魔族は寿命が長いから、長く生きれば生きるほど暇を持て余している。まあそんなわけで、調子に乗っていたその魔王は、美貌の聖女にワンパンで負け、ボッコボコにされたらしい。

 そして自業自得ではあるが、地下帝国に追いやられたのだそうだ。




 ボッコボコは勘弁願いたいが、美貌の聖女には会ってみたい。


 魔族は基本的に綺麗なものが好きなのだ。もちろん私の顔が最高に美しいのは知っている。けれど自分の顔を鏡で見るだけというのは長い年月の間に飽きが来ていたからだ。


 そろそろ臨時の食糧調達には目処が立ちそうだから、聖女と話が付けば地下に帰ってもいいかな、とさえ私は思っていた。









 私は最初に占拠した村に、魔改造して建てた自分の城で寛いでいた。


 広さは地下帝国の城ほどではないが、そこそこ居心地もいい。


 昼間はせっせと畑仕事をしているから、夜はのんびり過ごす。麦から作った蒸留酒をちびちび飲んで過ごすのは中々にいい。贅沢を言えば独り寝が寂しいくらいだ。

 けれど女を複数侍らせるのはあまり好きではない。左右から団扇で仰がせたり、お酒を注がせたりするより、どうせなら最高に好みに合う理想の美少女一人と結婚とかしたい。



 小柄で華奢で、でも肉付きは良くて、おっぱいは大きくてふかふかしてて、清楚で丸顔の可愛い系がいい。くりくりとした瞳の幼顔で、そう、金髪幼女!


 しかし私の好みを言えば友人はみんな眉を顰めるのだ。

「幼女に乳はない」などと当たり前のことを言ってくる。それはもちろん分かっているとも。だからいいんじゃないか。



 しかしそんな幼顔の巨乳美少女がふりふりのエプロンとかしながら家で待っていてくれて、帰宅した私に「おかえりなさい!」って言ってくれる生活、控えめに言っても最高ではないだろうか。





「ああ、空から金髪ロリ巨乳美少女が降って来ないだろうか」



 私の独り言を聞いた扉を守る鴉頭の魔族が、何言ってんだコイツ、という目で見てくるが、私は気にせずに蒸留酒を飲んだ。


「あ、そういえば魔王様、先程人間が空から降ってきたそうっすよ」

「へー」


 私は話半分で聞いた。

 移動魔法陣を使って人間が突然現れるのはまあ良くあることだ。


「それが若い女らしくて、意識がないから寝かせてるらしいんすが、大人か子供か分かりにくいみたいっす」

「大人か子供か分からない……まさか!?」



 伝説の、ロリ巨乳が……?



 私は慌てて蒸留酒の杯をテーブルに置いた。



「その女を連れてこい! 急いでだ!」








 連れてこられたのは、小柄な少女のようだった。


 意識はない。そしてやたらと酒臭い。

 しっかりと空の酒瓶を握って離さないことから理由は察せられる。



 しかし、私はまさに理想を体現したかの少女に、歓喜に震えてすらいた。






 魔族の基準で言えば子供にしか見えない身長。丸顔に低めの鼻も愛らしい。眠っているから目は見えないものの、幼顔と言って良いはずだ。

 なによりも、横抱きにすれば腕に伝わるぷにぷにとした体の柔らかさと、暗く地味な色合いな修道女の服をぐぐっと押し上げている豊かな胸部。それでも決して太っているわけではないのは、首や手首、足首の折れそうなほどの華奢な細さが物語っている。


「奇跡だ……」




 私はそっと眠る少女の被る修道女のベールに手を伸ばした。

 ぱさりと音を立てて外すと、ベールの下からはサラサラとした金髪が幼げな少女の顔を彩る。肩のあたりで切られているが、まさに私の好みの金髪ロリ巨乳美少女なのは間違いない。それも実に清楚そうな修道女の格好というギャップもあり、全てが相乗効果で私の心臓にクリティカルヒットをしたのだった。





「ぅ……ん……」



 少女の閉じられていた瞳がゆっくりと開かれる。


 南国の海のような色彩をした瞳が水の膜を張りキラキラと煌めいた。



 私は決めた。



 この少女をお嫁さんにしよう。

 もしも駄目ならこの国を、いや世界ごと潰してでも彼女を手に入れる。



 私にはそれだけの力があるのだから。






※    ※    ※





 あー世界がぐにゃぐにゃするー。眠くて瞼を開けておくのがしんどいほどだ。でも理由もなくなんだか楽しくて、笑いだしたいくらい。



 私は目を開くと、どこだか知らないところで知らない人が私の顔を覗き込んでいた。


 めちゃくちゃ美形だ。ハイパーイケメンだ。

 シスタードロシーが引き出しの奥にこっそりと隠し持っている舞台役者の絵姿よりもずっとカッコいい。



 作り物みたいに綺麗な顔に、長い菫色の髪の毛は柔らかそうにウエーブしている。艶々でいい匂いがしそうな髪の毛。



 そして頭の左右には羊のようにくるりと巻いた角が生えていた。真珠のような光沢の綺麗な角に、私は触ってみたくて手を伸ばした。


 しかし全くもって届かない。私の手はすかすかと宙を切った。


 私の腕が短すぎるのか、それともこのイケメンさんが大きすぎるのだろう。




「……お前、名前は?」



 そのイケメンさんは私にそう問いかけてくる。


 私はムッとして、ぷうっと頰を膨らませた。


「お前ってなんですかあ! 名前を尋ねるときはあ、さきにぃ自分からなのるものなのですよ! わたしは、シスターロザリーともうします。シスタールーナ……じゃなかった、あなたはなんというお名前なのですかー?」


 おっと、うっかり後輩のシスタールーナに教える時のようになってしまった。


 しかし全く知らない人相手である。



 しかもなんでかふわふわと宙に浮いている気がする。お酒のせいかと思ったが、少しおかしい。

 いや、これはどうも抱っこしながら運ばれているらしいと気がついた。


 私は身長が低く、後輩のシスタールーナよりも年下のような外見のせいで、よく子供扱いされてしまうので、余計に腹立たしい。でも体がぐにゃぐにゃしてて動きにくいから、今だけは許そうかな。




 私は抱っこされたまま運ばれて、ふっかふかの気持ちいいソファにそっと降ろされた。体が沈みそうなほど柔らかくて気持ちがいい。普段修道院で使っている寝台の何倍も柔らかい。出来ることならここを寝台にしてしまいたい。





「ね、シスタールーナ……じゃなかった、名前の分からないイケメンさん。れーぎは大切なのですよぉ。シスタードロシーの拳骨はとっても痛いのです」


「そうだな、名乗らずに失礼した」



 イケメンさんは私に怒られて、しばらく考えた後、こう言った。



「私の名はヴァサゴア・ディアニス・トリエンナーレだ」


「ゔぁ……で? ……デアゴスティーニ?」

「違う……魔王でいい」


 頭がふわふわするせいか呂律も回らない。そのせいなのか長すぎる名前が頭に入ってこない。


 であ? ゔぁさ? なんだっけ……まお?




「ま、魔王!?」





 私はガバッと跳ね起きた。


 しかし未だにイケメンさん……ではなく魔王の腕の中である。


「魔王ー! 離しなさーい! 聖女の私が成敗してくれるー!」


 私はずっと握りしめていたらしい酒瓶で魔王をポコポコと叩いた。しかしがっしりとした胸板には全くダメージを与えられていなそうだ。魔王も全く痛がっているそぶりがない。


「こらこら、暴れては落としてしまう。怪我などさせたくない……私の可愛いロザリー」


 魔王は暴れる私から酒瓶を奪い、ぎゅっと抱きしめて、顔を近づけた。



 唇に柔らかなものが触れる。




 キス、された。





 私の初めてのキスは……ものすごく酒臭かった。



「わ、わ、私……初めてだったのに!」




 涙がじんわりと浮かんで視界を歪ませる。

 あっという間に飽和した涙は決壊してポロポロと零れ落ちた。



「ああ、泣くな……ロザリー。悪かった。本当に清らかな乙女なのだな、可愛いロザリー。ああ清楚最高! いや、責任は取るから許してくれ」

「せ、せき、にん……?」


 私はしやくり上げるほど泣きながら、魔王に聞き返す。


「ああ。責任を取って、私のお嫁さんにしてあげるよ。ロザリー」





 お嫁さん、その言葉に私の涙はひゅんと引っ込んだ。



「……本当にお嫁さんにしてくれますか?」

「ああ、もちろんだ。ロザリーがいいなら今日からでも」

「やったあ! こんなに素敵な人が旦那様になるなんて嬉しい」


 私は魔王の腕にぎゅっと抱きついた。


 小さい頃の夢はお嫁さんになることだったのだ。お父様お母様みたいにたーっくさん子供を作って、賑やかな家にするのだ。


 けれど修道女になると決まった時点でその夢は絶たれたのだと思っていた。


 修道院だってたくさんの修道女達で毎日賑やかだから、普段はあまり意識していないけれど、本当は家族と一緒にいられなくて、寂しくて悲しかった。厳しいけど優しいシスタードロシーや、慕ってくれるシスタールーナには言えない悩みだった。





「あ、でも、私、修道女だからお嫁さんにはなれないのです……」


 しょんぼりしている私の額に、魔王はちゅっとキスを落とした。


「大丈夫だ。私に任せてほしい。ロザリーは聖女として私……魔王を打ち倒したのだ。聖女ロザリーは倒した魔王をこれからの人生をかけて見張るために結婚する、ということにすればいい」

「んーと、よく分からないけど、結婚出来るのですか?」


 魔王が頷く。私はなんだかとても嬉しくなって、にっこりと微笑んだ。



「あー可愛い……ロザリーマジ天使……」



 魔王は時々よく分からないことを言いながら、私を抱き締めたり、額や頬に何度もキスをしてくる。


 私はそれがくすぐったくて笑ってしまったけれど、嫌ではなかった。






「ロザリー、君からも私に誓いのキスをして欲しい」

「えっ、でもそんな、恥ずかしいです……」


 私は恥ずかしくて、両手で顔を覆った。お酒のせいだけではなく、頰が熱い。


「顔じゃなくてもいい。この角はどうだ?」

「あ、角、触りたい」


 魔王は屈んでくれて、私に真珠のような光沢に輝く角をすぐ近くで見せてくれた。

 触れば見た目の通り、ひんやりツルツルとして気持ちがいい。


「綺麗……」

「ロザリー、誓いのキスを」

「はぁい!」



「私、ロザリーは、魔王さんのお嫁さんになりまーす」



 いくら綺麗な角とはいえ、顔ではないから恥ずかしくないし、やりやすい。




 私は躊躇いもなく、ちゅっと魔王の角に口付けをした。




「ああ、嬉しいよ、ロザリー。これでロザリーは私のものだ。ロザリー、少しだけ待っていてくれ。今からちょっとファルドランに話を付けてくる。それから、一緒に湯浴みとかしちゃったり……あっそれはまだ早いかな!」



 魔王は笑い声を立てながら部屋から出て行く。



「おい、湯浴みの準備と、それから女性用のドレスをいくつか……」




 魔王のよく通る声はだんだんと遠ざかっていった。







「あーなんか眠い。でももっとおさけ……あれー空っぽだ」


 私はまだまだ飲み足りない気がして、テーブルに置いてある、魔王に一度奪われた酒瓶を取り戻したが、生憎と空になっていた。


 しかしテーブルには他の酒瓶らしいものが置いてあり、蓋も開けられている。飲みかけのようだが杯もある。


「あー! こっち飲もうっと!」



 私は魔王が戻ってくるまでちょっとだけ飲むつもりで、気がつけば酒瓶を空にしていた。






「ふわっふわ〜きもちいい〜〜。なんだっけ、なんかあったようなー? まあいいかー」



 しかし気持ちいいのは最初だけで、しばらくすると、胃のムカムカを呼び起こし始めた。



「うっ……あれ……なんか……きもちわるっ……ッぷ」

 

 だんだんと血の気も引いて、世界がふわふわ、ぐにゃぐにゃからぐるぐるに変わっていく。


 目を閉じてもぐるぐるしているかのようだ。



「あ〜、だめ、きもち、わる……御手水……どこ……ぅぐッ」



 私は慌てて手で押さえた。ひどい吐き気がする。気を抜けばそのまま吐いてしまいそうだが、室内はマズイ。部屋も綺麗だし怒られてしまう。せめて厠で済ませたいが、どこもかしこも綺麗で厠の場所がわからない。




「ッ……う、外……そと……どこ……ぅっ、ぎぼちわるい……ッ」




 私は外に出るためにフラフラと彷徨い始めた。





※ ※ ※






「あ……思い出した……」



 酔っていた時の記憶が怒涛のごとく押し寄せる。そのこじ開けられた記憶に、さあっと血の気が引いていくのがわかる。


 私はあろうことか、べろんべろんに酔っ払い、魔王の居城に運ばれ、訳の分からないことを散々喚いたり泣いたりした挙句、魔王のお酒を呑み逃げしたのだ。




 そして飲み過ぎて気分が悪くなり、室内で吐くのは憚られて外に出て彷徨い、おそらく外の何処かで吐いた後に力尽きて眠ってしまったところをたまたまファルドランの偉い人に拾われて無事に帰ることが出来たのだろう。



 なんてことをしてしまったのだ……!


 今更後悔したってどうにもならない。




 私は聖女なんかじゃない。

 たまたま魔王に気に入られただけ。


 倒してもいないどころか、倒せるはずもないほどの強大な魔力が私のようなへっぽこな修道女にだって分かるほどなのだから。




「思い出したようで何よりだ、私のロザリー」


 魔王は喜色満面の笑みで、両手を広げ、ベッドにへたり込んだままの私の方へと近づいてくる。


「や、あの、そのですね……私は、随分と酔っ払っていたようでして……」

「ああ、そのようだな、今もそんなに青い顔をして」


 近付いてくる魔王が恐ろしくて、へたり込んだ姿勢のまま、お尻でジリジリと移動する。しかしナメクジ程度のスピードしか出ない私は逃げられそうにもない。


「何故逃げる。ロザリーは私の求婚を受け入れたはずであろう。お嫁さんになるのってあれほど喜んで愛らしい顔を見せてくれたはずだが?」

「ひっ、そ、そうですが……ええと、私、汚れてますから! もう土とか泥とかゲロとかで!!」


 ピタリ、と魔王の手が私に触れる寸前で止まる。

 流石に小汚い私に触れるのは憚られたようだ。


「確かにそうだな……分かった」


 分かってくれたのだ、よかった、と息を吐いた私は数秒の後、それは間違いだったと知る。






 気が付けば全身がもこもこの泡まみれになっていた。



「あわわわわわ!?」


 完全に泡に包まれ、これが洗浄の魔法だと気がついた時にはそれはもう消え失せていた。


 私の体も髪も服も、汚れという汚れは一瞬でスッキリと落とされる。泡に塗れていたのに、髪の一本だって濡れてすらいない。そういう魔法だからだ。

 簡単そうに見えて非常に難しい魔法なのは初等学校を出ただけの私にだって分かる。それも一瞬で何も言わずに魔法を発動させる、それが魔王なのだ。はっきり言って桁が違いすぎる。



「さあ、これで良いだろう」


 小刻みに震える私は、魔王の筋肉に覆われた腕で軽々と抱き上げられた。



「ああ、やはり軽いな。羽根のように軽い」


 いいえ、そんなことありませんっ! 一昨日シスタードロシーからお代わりし過ぎだと怒られたばかりですし! 子豚寸前と呼ばれております! と言いたかったが、それは声にはならなかった。


 恐怖で、ではない。


 間近で見た魔王の美しい顔にすっかり見惚れてしまっていたからだ。

 大きな目に弓なりの眉、高い鼻梁に芸術品のような唇。この世のものとも思えないほどに美しい。

 そしてその鮮やかな赤い瞳に見つめられると、体がじわりと熱くなる。


 抱き上げられるほど側に寄れば、先程飲んだ薔薇水よりもいい香りがするのが分かった。

 それだけで蒸留酒を飲んだ時のようにふわふわとした心地になる。


「ロザリー、私と共に来い。もし地下が嫌なのであれば、少々手狭だが荒地にある地上の城で生活しても構わない。欲しいものはなんでも用意しよう。何不自由ない生活をさせると約束する。魔族には人間を傷つけないように言い含めるし、この国が隣国から攻められないように守ることもしよう」


「あの……でも、私……」


 私は不思議と胸が苦しくて、胸に手を当てた。心臓がドキドキどころかばくばくと激しい音を立てている。


「どうした? 何かあるのか」


 魔王の声は思いの外優しい。

 私の意見を聞かずに無理やりに攫うことはせず、ちゃんと意見に耳を傾けてくれるようだった。それに少しだけホッとして、私は口を開いた。


「ええと、その……私は修道女なので、結婚は出来ないのですが……」

「ああ、それは問題ない。ロザリーは聖女として力に目覚め、打ち倒してもなお強大な力を持つ魔王である私を抑えるため、その身を捧げることをこのファルドランの国王からも認められている。つまり私が娶っても問題はないのだ。安心するといい」


 どうやら本当に外堀から埋められてしまったらしい。

 きっとこのファルドランの王宮にいた時点でもう決まっていたことなのだろう。

 私はどこにも逃げ場がないことに気が付いて、ゴクリと唾を飲み込んだ。



「それからドロシーとルーナという女が、ロザリーの身の回りの世話をしたいと申し出た。人間の知り合いも側にいた方が心強いだろう?」

「シスタードロシーとシスタールーナがですか!?」

「ああ、お前が頷いてくれたら、彼女らにも不自由な生活はさせない」


 シスタードロシーとシスタールーナは私が修道院で一番仲の良いシスター達である。離れ離れになるのは寂しいと思っていたから嬉しいような、申し訳ないような複雑な気分である。


「そうだ、ロザリーのために、世界中の美酒も用意させよう。魔族の作る酒も、今以上に味の良いものを作らせる。ただし私の前で以外は飲まないように。その愛らしい顔が蕩けている様を他の誰にも見せたくはない」



 魔王の言葉に思わずゴクリと唾を飲んだのは、先程の緊張とは違う意味であった。


 しかし私は慌ててブルブルと首を横に振った。



「お、お酒は要りません!」



 散々に飲み過ぎて失敗したのは昨日の話。未だ二日酔いも残っている。



 それに――



「だって……私は……お酒よりも、貴方にすっかり酔ってしまっているようなのです……」


 恥ずかしさで囁き声になってしまったけれど、魔王はしっかり聞こえたらしい。


 ぎゅうっと強く抱き締められて、私は魔王の胸に押し付けられる。



「本当に……本当に、私のお嫁さんになってくれるんだな、ロザリー」

「……はい……私、魔王のお嫁さんになります」



 ああ、本当に酔っ払ってしまいそうなほど。

 クラクラとした私の耳に、魔王の声がねじ込んでくる。



「ああ……よかった……可愛いロザリー。これで私はこの国を滅ぼさなくて済んだとも。ロザリーは本当にこのファルドランにとって救国の聖女だな」




 そして魔王は私にキスをした。





 改めて私は酷く危険な、まるで薄氷の上を歩いていたも同然だったのだと思いつつも、酩酊したかのような頭でその口付けを受け入れた。


 だって魔王の口付けは、どんな美酒よりも私を酔わせてくれるのだって、もう知ってしまったから。





 泥酔シスターの私は、本当に救国の聖女になったらしい。




 めでたし、めでたし

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