第3話 初めての非常識
今回から、この世界の説明を混ぜていきます
倒した人間の短剣が光となって消えていく
「なんだ?これは?」
「なんだ、こいつら神気使い《しんきつかい》か」
「神気使い?」
「ん?知らないの?」
もしかして知らないとおかしいことなのか?
今の段階で転生者だと気づかれるのは避けたい
どうする?
「神気使いとは神の加護を受けて武器などを創造するモノの総称です」
すぐに黒い娘が説明してくれる
「でも、笑っちゃうよねぇ。神の加護を受けた人間が盗賊なんてやってるんだからさぁ」
「まぁ、仕方ないですよ。所詮神ごときですから」
「おいおい、いいのか。神にその言い方は」
でも、もしその加護があの女神からならその扱いでもいいのかもなぁ
あ、そういえば
「改めて、ありがとう、助かった。今更感もあるが名前を聞いても?」
「星魔だよ」
「黒羽です。あなたは?」
「俺は・・・」
前世の名前を素直に答えるべきか?
いや、この際だ、新しくやり直そう
「月下だ」
前世のファミリーネーム「芳乃」は丸々省いて名前の「一月」は
「月」を残して「月下」
この名前は、俺がまだ小さい頃、一緒に遊んでくれた奴がつけたあだ名だ
悪口が挨拶のような関係だったがあの時間は楽しかった
いかん、感傷に浸って二人を意識から外してしまった
二人が急に黙った俺を見て首をかしげている
「すまん、ちょっとぼーとしてしまった」
「いえ、大丈夫ですよ
それより、どこから来られたのですか?」
「あ、私も気になってた
森から出てくるし、旅にしては荷物少ないし」
「あー、いや、なんというか・・・」
しまった、どうしよう・・・
何も思い浮かばない、なにかいい言い訳はないかなぁ
「装備を何も持っていないところを見ると
もしかして、あなたも神気使いですか?」
「いや、違う」
「じゃあ、魔法使い?」
「魔法使い?そんなものまであるのか?」
「本当に何も知らないのですね
魔法使いは、魔力を使って事象を起こす者の総称です」
「なるほど」
「お兄さん、まるで異世界から来た人みたい」
「!!そんなことは・・・」
もしかしてこの世界で転生者は珍しくないのか?
可能性はある、それならいろいろ楽になる
「まさか、そんな存在がいるのか?」
「まさか、あまりに知らなすぎるからそう思っただけ
いるわけないのにね、異世界人なんて、あはは」
まぁ、そうだよなー。そんな気はしてたよ
くそ、ちょっと期待してバカみたいだ
もういいや、適当にごまかそう
「まさかとは思いますが、東方の方ですか?」
「あ、なるほど
あっちはこっちみたいに神気も魔力も少ないんだっけ?」
「そうです、というか全くないそうですよ
私も行ったことがないので聞いただけですが」
お?ごまかせそうな話題してるなぁ
ニヤリ
「そうなんだ、その東方から来たんだ」
「でも、東方の方は黒髪に黒い瞳と聞いています
あなたはどれも当てはまらない、その水色の髪に紫の瞳はどういうことですか?」
「この容姿のせいで迫害されてな
嫌になって旅に出たんだ」
「まぁ、それは失礼しました」
「ごめんね、つらいこと聞いて」
「いや、気にしなくていい」
よし、同情を誘う結果になってしまったがどうにかなった
さて、さっきから非常に気になっていたことを消化するか
「なぁ、さっき言ってた神気使いと魔法使いってのは誰でもなれるのか?」
「いいえ、どちらかにしかなれません」
「そうか、ちなみに君たちは?」
「あ~、私は神気使いかな」
「・・・私は、魔法使いです」
星魔のほうは歯切れが悪そうにそう答える
黒羽は妙に間があった
まぁ、気にするほどではないか
「ちなみにどうやったら分かるんだ、自分がどっちかなんて?」
「力が使いたいと思ったときに自然に思い浮かぶ言葉次第かな?」
「と言うと?」
「最初に「創造」に分類される言葉がつけば神気使い
「破壊」に分類される言葉がつけば魔法使いでしょうか?」
「具体的には「創作」「錬金」「鍛冶」そして「撃滅」「崩壊」「粉砕」などでしょうか」
「なるほどなぁ、・・・何も思い浮かばねぇ」
「あはは、力がうまくイメージできないんだね」
「それか、どちらも使えないかですねぇ」
「え?そんな場合もあるの!?」
「そりゃ、あるよ」
「残念ながら、たまに両方の適性を持たない人がいます」
「ちなみにその逆は?」
「両方の適性を持つ人ですか?いませんね、断言できます」
「なぜ?」
「創造と破壊を同時に使うと対消滅するからです」
「なるほどなぁ、なら納得だ」
「まぁ、残念だったね、お兄さん」
「まぁ、持ってないなら仕方ないな」
「意外に軽いね」
「悩んでどうこうなりそうにないしな」
「切り替えの良さ、なかなか好感が持てますね」
「そりゃどうも」
さて、自分に力はないようだ
まぁ、ないものねだりは見苦しい
とりあえず今後の方針でも決めるか
「なぁ、君たちはこれからどうするんだ?」
「ん?今後?黒羽、何か決めてた?」
「いえ、何も決めていませんよ」
「そっか」
ん~、どうしようかなぁ
この子たちが街に行くなら同行させてもらおうと思ったが
・・・自分より小さい子に守られるなんて情けない
「じゃあ、とりあえず街にでも行く?」
「あなたはいつもそうやって適当なんですから」
「いいじゃん、久々にベットで寝たい」
「ちなみにどっちが街か分かっていますか?」
「え?え~と・・・・すみません、分かりません」
「でしょう?これだから・・・はぁ」
ん?まさかこの子たちも迷子か?
「なぁ、君たち家族は?」
「いないよ、私たちは二人だけ」
「あ、すまん、いらんことを聞いた」
「気にしないで、これでおあいこね」
「そう言ってもらえると助かる」
「でも、どうしようか?街に行きたくても道が分からないからなぁ
どこかに地図でもないかなぁ」
あ、そういえば
コートのポケットの中を漁る
あった
「なぁ、この地図は役に立たないか?」
ポケットから地図というか紙切れというべき紙を取り出し見せる
「まぁ、地図を持っていたのですか」
「見せて見せて」
「神樹があちらでこの道ですから、この道を西ですね」
「神樹?」
「ええ、この地図に書かれている木はおそらくそこに見える少し高い木のことだと思います」
「神気に満ちた木だから神樹
まぁ、あまりの純度に近づけるのは高位の神気使いだけだけどね」
「ちなみにこの反対側に見えるあれが魔樹です
あちらも同じく純度が高すぎて、近づける人は限られます」
「・・・」
俺その神樹から来たんだよなぁ
おかしいなぁ、少なくとも神気使いになれてもおかしくないと思うんだけど・・・
「どうしたの?急に黙って?」
「いや、何でもない」
考えるのはやめよう
使えないなら考えるだけ無駄だ
「とりあえず、街へ向かいましょう」
「そうだね」
「「さぁ、行きましょう、月下」」
「あぁ」
俺がお願いするまでもなく自然に連れて行ってくれる二人には感謝してもしきれないな
次のことは街についてから考えよう
待っていてくれた人お待たせしました。
失踪は間違ってもしないので次回も気長にお待ちください