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絶望的な超負け組に生れたんですけどっ!?

古事記<産巣日(むすび)神>


挿絵(By みてみん)


本作では一柱の御霊(みたま)を神という外来の概念に当てはめて権威化したという説。


「むすび」という共産と共存で平等な援助で支え、富を公平に分配をする「本来の意味の支配」の概念を司る御霊(みたま)を否定して

征服と服従という暴力と脅迫と収奪による統治を王権が造り上げていったという民俗学の説が正しいものとしている。


その過程でむすびの御霊(みたま)は、本来の教えを捻じ曲げられて


高御産巣日神(階級の存在を正しいとする概念)と

神産巣日神(神という存在が人の上の階級として存在する事を正しいとする概念)

に分けて思想統制で伝承させ征服者は古代共産社会に階級主義の考え方を導入していった。







 致命的な運命(シナリオ)の流れを、起死回生の秘技で先延ばしにした俺は、虫除けの燻し草の上に敷かれた簀の子の寝床で、今世の人生をどう生きるかの対策について考えていた。


「アメツチは、本当に大丈夫なの? 薬司祭(オモダル)


 同じ幕家の中では、俺達<盟守(ムスビ)の一族>の諮政者であり、産巣日(むすび)御霊(みたま)での祭祀を行う祭主の<日巫女(ヒミコ)>でもある義母の(エニシ)が、(さと)の薬師の長老である婆さんに俺の容態を尋ねている。


 まあ、<日巫女(ヒミコ)>に薬司祭(オモダル)なんて言っても、今では伝説の中で神話化して敬遠されたあげくに忘れ去られた役職だから、(アメツチ)にとっては愛する義母と近所の婆さんだ。


 エニシ(かあ)さん、今日も綺麗で、いい匂いだよ。


 婆さん、今日も皺くちゃで、漢方薬臭いな。


「殴られて目を回した程度よ。子供の力じゃて、少し打ち所が悪くても死にはせん。今日一日寝かせておいて眩暈がなくなれば良い。貴方(ぬし)は気に病みすぎよな。さあ、もう行くぞ」 


 そういって婆さんは仕事に戻れと義母(はは)追い立(せっつ)き、二人は幕家から出て行った。


 義弟や義妹は、(すで)に婆さんに追い出されているのでこれでゆっくり考えられる。


 すまん、エニシ(かあ)さん。


 けれど、若くていい女にあんな顔をさせた事を前世までの俺が悔やみ、マザコンの(アメツチ)に至っては罪悪感を(おぼ)えていた。


 (アメツチ)エニシ(かあ)さんはぎりぎり干支一周(ひとまわり)以下の年齢差で、もろに俺の好みのタイプだから仕方ない。


 それに、前世までの記憶を想いだして直ぐなので、まだ精神が不安定なのだ。


 15歳をすぎていた一回目のときほどではないが、複数の記憶の統合は色々とキツイ。


 自分が今までの自分でなくなる恐怖と、自分とは何かというアイデンティティーが崩れる不安は、2度目でも同じだ。


 その反動で愛情や執着といった情念が強くなるのもだ。


 年齢で強まる理性のせいで消えそうになる(アメツチ)が縋るものが情念だからなのだろう。


 違うのは、それに押し潰されない事だけに全力を傾けないですむということだが、やはり辛いものは辛いし、痛いものは痛い。


 苦しみ(それ)を感じなくなるのは死んだ時だけだ。


 だから義母には申し訳ないが、俺にはとりあえず時間が必要だったのだ。


 俺には、人格の統合とかそういう意味でも、破滅の未来を回避するという意味でも時間が足りなかった。


 とりあえず一日程度の時間は稼げたが、不安定な精神を立て直し、早急に今後の事を考え、対策を考えねばならない。


 そうでないと、前世で主人公が悪役を倒すまで生き延びるというファーストミッションすらこなせず、モブとして瞬殺される破目になったように、今世(こちら)でも(さと)ごと灰となるだろう。


 あの時は現実逃避や環境に適応するのに時間をかけすぎて、<志念>を覚えるのにも手間取ってしまった。


 そのせいで、悪役の殺人鬼野郎(サイコキラー)に手も足も出ず、家族を逃がす囮となるしかなかった。


 そのあげくに追い詰められて戦ったけれど瞬殺だった。


「残念、君は失格(^▽^) うん、問題外m9(^Д^)」


 というマンガの台詞をリアルで聞かされたよ。


 射撃系、武闘系、付与系 属性系、具象系、呪法系、傀儡系、 復元系の八系統の内で、直接戦闘の苦手な呪法系だった上に、俺には能力者としての(')(')(')(')(')があったのだ。


 それで主人公の宿敵レベルの属性系殺人鬼に勝てるわけがなかった。


 前世では、主人公が来るまでの時間を稼いだから家族を救う事ができたはずだが、今世では(さと)の壊滅を避けなければ、義母や義弟や義妹達を救う事はできないだろう。


 今世の俺にとっては大事な人間で、不思議だがその想いは70年分の人生を経験した今も薄れたりはしていない。


 それどころか、前世までの家族への思いと重なるようにして、大切な想いは降り積もるように重なって強くなっていた。


 逆に前世までの憎しみや苦しみといった悲惨な負の想いは薄れているが、今世の未来への不安は一族への想いの分だけ強く感じられた。

 


 <志念>能力は存在エネルギーである<波気(デュナム)>を力の源とするから、このアメツチの肉体で再度修行をし直さないと使えない。


 それに、最強レベルの能力者でも単純な暴力で軍勢から(さと)を護るのは無理だろう。


 自分が生き残れても、豪族を滅ぼせても、日本中の武士を相手に、たった一人で(さと)を護るなんて無理ゲーだ。


 <まつろわぬ民>と朝廷勢力の関係は、前々世の世界に例えるなら欧米諸国に対する武装勢力<IS>とかみたいなものだ。


 もちろん、<まつろわぬ民>が<IS>な。


 もっとも、盟守(ムスビ)の一族に限れば、基本として専守防衛なんで<IS>の立場に立った60年代の平和団体みたいな微妙な存在になるんだが……。


 まあ、そういうわけで<まつろわぬ民>が末端の豪族や農民を虐殺したり、戦国大名を暗殺する事はできても、そんな事をして相手が本気になれば、簡単に滅ぼされてしまう。


 欧米諸国がテロ組織相手に軍隊は派遣しても大量破壊兵器を乱発したりせず、軍事費のための税金を増やす理由に利用するように、今まで<まつろわぬ民>も武士の立場のために‘ 手軽な敵 ’として利用されてきた。


 でも、戦国乱世となって<まつろわぬ民>が敵対する朝廷勢力も征夷大将軍も力を失い、<まつろわぬ民>の利用価値も完全に消えてしまっていた。


 <まつろわぬ民>を利用する側が分裂して争い合い始めたら、共通の敵とはいえ、勢力を一豪族レベルにまで弱めた相手など滅ぼす手間さえ惜しい存在になる。


 だから、<まつろわぬ民>は今まで無視されて辛うじて生き延びていた。


 だが、大義名分としてではなく、武家同士で殺しあうための戦力が必要な乱世では、力のない<まつろわぬ民>は消え去るのみだ。


 少なくとも前々世の歴史ではそうだったんだよな。




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