8話 旅に出るモフモフ
あれから一週間の時間が過ぎた。俺の回復の効果は近くにいるだけで効果があるらしい。
今ではお嬢様もクローズも、普通に歩けるようになり、お嬢様に至っては完全に病気を完治した。
バーンズはお嬢様の両親を暗殺した罪とお嬢様暗殺未遂の罪で、牢獄送りへとなった。気がかりなのは何故そんなことをしたのかだが、これは頑として話さなかったらしい。何か深い事情が、あったのだろうか。
だが、そんなことはどうでもいい。
今、俺は二つの心で揺れ動いていた。
それはここに残るか、天空の島を目指して旅立つかである。
天空の島を目指す場合、一つだけ聞かされた情報があった。それはここからずっと東に向かった先にある天空の塔という場所だ。お嬢様が読んでくれた書物によると、天空の塔は遥か昔フェルエーラが降り立った場所とされているらしい。そこならばきっと帰る手がかりもあるかもしれない。
けれども俺はここでの生活が名残惜しい。お嬢様は俺の事を大層気に入っているようだし、ここでの生活は楽しい。
お嬢様と戯れて、本を読んでもらって、美味しい果実を食べて過ごす。それも悪くない。だが、俺にも現世の親がいるだろうし、心配しているかもしれない。
いつかは旅立たなくてはならない。だったらお嬢様の病気も治ったし、早めに旅立った穂王がいいかもしれない。
もっと名残惜しくなる前に。
***
私の名はレイチェル・アルフォード、アルフォード家の一人娘だ。私は最近まで病に侵されていた、本当は毒を盛られ続けられていたからなんだけど、そんなことはどうでもいい。
きゅーちゃんのおかげで元気に成れたんだから。
今日はきゅーちゃんと一緒に何をして遊ぼうか。
そう思って朝起きたら、いつもいるはずのベッドの脇にきゅーちゃんはいなかった。
「あれ? きゅーちゃん?」
それから使用人や調理人、クローズに話を聞いてもきゅーちゃんの場所は分からない。
「きゅーちゃん、どこにいったんだろう」
「たしかにあの珍獣の行方は気になりますが、勉強の時間です。お嬢様」
「もう! そんな場合じゃないでしょ、それに珍獣じゃなくてきゅーちゃんよ、きゅーちゃん!」
わたしは午後の勉強の時間になっても、キューちゃんを見つけることが出来なかった。
クローズに勉強勉強と言われて、渋々私は自分の部屋に戻った。
一日ぐらい勉強しなくてもいいじゃない、と思うだけどな。クローズのけち!
そう思いながら部屋に入って、いつもどおり机に向かう。本来ならそこにクローズが持ってきた教科書で勉強するところなんだけれど、今日は何故か先に机の上に本が置いてあった。
置いてある本はナターリエの冒険日記の第一巻だ。
おかしいな、ナターリエの冒険日記は全巻本棚にしまっているはずなんだけど。
「クローズ、あなたナターリエの冒険日記が今日の勉強内容って訳じゃないわよね」
「その通りでございます。ちなみに私はナターリエの冒険日記を机を置いた覚えはありませんな」
不思議に思い、ナターリエの冒険日記を手に取ってみる。
すると、一枚のしおりが挟まっていることに気が付いた。
そのページはナターリエが田舎の村から村の人々の反対を押し切って、ある日突然いなくなった両親を探すために、村から旅立つシーンである。
「そっか」
「どうしたのですかな、お嬢様」
「いや、きゅーちゃんの居所が分かっただけよ」
「ほう、してあの珍獣は?」
「珍獣じゃないわ、きゅーちゃんよ! ほら見て、このページにしおりが挟まっていたの。きっときゅーちゃんは両親に会うために旅に出たのよ」
「そうですか、あの珍獣は旅に、この屋敷にいた期間は三週間ほどでしたが、いやはや考え深いですな」
「そうね……そうだ! わたしもやりたいことがあったんだった」
そう、私は病気が治ったら冒険者になりたいという夢があったんだ。それをきゅーちゃんに思い出させられた。
「クローズ、あなた武術指南役もしたことがあるのよね。だったら明日からそっちのほうも頼んでいいかしら」
「それはよいですが……なぜに?」
「私の夢が冒険者だという事を思い出したからよ!」
「え!?」
「クローズが文句も言わないほど強くなったら、冒険者になってもいいわよね」
「それは……、まったく珍獣に影響されたのですな。しかし、私の指南は厳しいですぞ」
「望むところよ!」
第一章 完