6話 モフモフと怪しい人物
俺が怪しいと思う人物それは、クローズだ。理由は簡単だ。クローズの勉強が終わった後に、お嬢様の容体が急変したからである。
前々からクローズは何か怪しいと思っていた。俺が嫌われているという逆恨みかもしれないし、勘の様なものだがクローズは怪しい。クローズの部屋を調べれば何かが分かるのではないか。
そう思い立った俺はクローズの部屋に侵入することにした。クローズの部屋は離れの一室だ。俺は特技の体毛変化で体毛を透明にする。すると俺の姿は鏡にも映らなくなった。後ろが透けて見えるようになったのだ。
俺はバーンズの部屋の鍵を起用に前足で開けて、部屋を出る。クローズの部屋を目指しトテトテと音を立てないように歩いていく。
といっても俺の足には肉球があるため、音は出ないが。まぁ、これは人間の頃の癖の様なものだ。
そんなこんなでクローズの部屋についたさっそく、と扉のドアノブを回す。
がちゃがちゃ、という音がする。そして部屋には鍵が掛かっているようだ。
これはどうしたものか。神経質なクローズの事だ。きっと窓の方も閉まっているだろう。
悩むこと数十秒、俺は妙案を思いついた。
透明になったままがちゃがちゃとドアノブを捻る。何回も何回も捻る。すると当然、クローズが部屋の扉を開けた。
「何だ。さっきからガチャガチャと、要件があるならノックして扉の前で行ってくれといつも……」
とその隙に俺は中に入る。
クローズは辺りをきょろきょろ見渡すと、
「何だ、誰もいないじゃないか気味の悪い。まったくこっちはどうすればお嬢様の容体が回復するか考えるので忙しいというのに」
と言ってドアを閉めて鍵をかけた。
計画通り!
俺は侵入に成功した。あとはクローズが寝静まるのを待って部屋を探索するだけだ。
とその時である。
「ん? この気配は……」
そう呟いた後、クローズは机から羽ペンを一本取り出すと、
「魔力が漏れていますぞ。使用人はごまかせても私はごまかされませんよ。今すぐ姿を現しなさい!」
魔力!? 魔力ってなんだ!? 俺の身からあふれ出してるのか!? 魔法という概念は、ナターリエの冒険日記で知っている。魔法というものがあるという事を。しかし魔力がどうのこうのという知識は俺には一切ない。
「はぁっ!」
クローズは掛け声とともに羽ペンを俺のいる方角に投げつけてきた。
反射的に俺は白銀色となり、羽ペンを弾く。
「おや、お前でしたか。やはり珍獣、まさか姿を隠せるとは。しかし武術指南役を仰せつかったこともあるこのクローズの気配察知からは逃れはせぬ」
「きゅー(やべぇ、ばれちまった)」
羽ペンを弾いたはいい物のクローズに居場所がばれてしまった。これでは毒を探すことが出来ない。
さて、どうする?
「まぁ、珍獣にしては頭がいいようですな。私を怪しいと思い、この部屋を調べに来たようだが。私は毒をお嬢様に盛ったであろう犯人ではない。証拠にこの部屋をくまなく探すがいい。それでお前の気がすむのならな」
んん? 予想外の展開だ。だが、もし本当にクローズが犯人ならばこんなことをするだろうか。でも確証はない。俺はお言葉に甘えて部屋をくまなく探索することにした。
といっても調べられる場所は本棚と机の上と引き出しぐらいだが。
数分後、俺は本棚から全ての本を抜きめくり、机の上も仲もくまなく探した。けれども毒どころか、粉や錠剤一つ出てこなかった。
これはクローズが犯人ではない?
「まったくくまなく探すがいいといったが、散らかしおって片づけるのは誰だと思っている。まぁ、いい。これで分かっただろう。私が犯人ではないと」
ではいったい誰が犯人なのだ?
「では、話そうか、私が犯人と思う人物の話を」