54話 モフモフと敵国の王子
それはある晴れた日のこと。小国モルグランの王子である俺ことエルフィンは自室で悩んでいた。それは敵国のザッハオルテとの関係についてだ。ザッハオルテとは五十年前から国境を巡る小競り合いというなの戦争が続いている。俺はその戦争をただ国の兵力を落とす無駄な戦いだと常々思っていた。
何せなにもない平凡な草原ひとつを取り合っているのだから。
しかも原因は当時の王の言い争いの末だという。本当に戦う価値があるのか、俺はそれを調べるべく直々に潜入調査を行ったほどだ。
潜入の結果、俺の目にはザッハオルテが戦争をするほどの悪い国ではないと感じた。王たる父上にその事を進言したのだが聞き耳を持たずだ。それどころかこの戦いには必ず勝たないといけないという使命感まであるようだ。なぜ和平を結び戦争を終わらせようとしないのか。俺は理解に苦しむばかりだ。
悩みはそれだけではなかった。あれは潜入調査をしたときのことだ。ごろつきに絡まれている美女を助けたのだが、どうやらおれはその娘に一目惚れをしてしまったらしい。彼女のことが時々頭のなかでフラッシュバックし、考えると胸がいたい。だが悪い痛みではなかった。
どちらもどうにかならないものか、そう思いながらうなだれていると、ノックをする音が聞こえた。
ただそのノックは扉からではなく窓からであった。ここは三階だぞ、いったい誰が?
そう思いながら窓を開けるとそこには宙に浮かぶ白いモフモフとした生物の姿があった。
それは聖獣フェルエーラだった。
珍しいこともあるものだ。ただでさえフェルエーラに会うなんて珍しいことなのに、六日前にも俺はフェルエーラに会っている。
たしかあの時も天気が晴れていた。
自室で悩みながら、この国特産品であるマスカッシュを食べていた時の事だ。マスカッシュとは房からなる数十の粒をつけた薄緑色の果実である。
その時はたまたま窓を開けていて、気が付くとテーブルの上にちょこんとその生物は乗っかっていた。聖獣フェルエーラだと気が付くのにそう時間はかからなかった。
マスカッシュを眺めていたので、試しに一粒上げてみると、もきゅもきゅと食べた。その姿が愛らしかったのでついつい全部上げてしまった。そのご、撫でたり、俺の悩みを聞いてもらったりして過ごし、夜には窓から出てどこかに行ってしまったのだ。
その際に小さい体毛で作られたお守りの様なものを貰った。幸運な出来事だと思っていたがまた会うとは。
俺は聖獣フェルエーラに少し待ってくれというと、従者にマスカッシュを用意して貰った。
そしてマスカッシュを一粒ちぎってフェルエーラに渡す。
それを受け取る前にフェルエーラが手に何か持っていることに気が付いた。
手に持っているものは巻物の様に丸められた紙だった。それなりの量がある。それをフェルエーラはこっちに渡すと代わりにマスカッシュを手に取った。
もきゅもきゅとマスカッシュをフェルエーラが食べている間に、俺は丸められた紙を伸ばし、内容を読んでみた。
読んで数分衝撃を受けた。これは恋文だ。しかも俺があの時一目惚れしてしまった彼女からのだ。これが事実ならば両想いという事になる。その場で飛び上がりたい気持ちをぐっと抑え続きを読む。
なるほど、そうか。
彼女はザッハオルテの姫君だったのか。これは困った。非常に困った。
何せ敵国の姫だ。身分さがある相手よりも敷居が高い。
いやこれは逆にチャンスか? こちらから手紙を送り、和平を結ぶ条件で彼女とついでに結ばれるとか? 問題は和平交渉ができるのかということだ。最近、父上が秘密兵器が手に入った。これで奴らに勝てると言っていたし、交渉は無理かもしれない。
はてさてどうしようか。
「どうしたらいいかね。君はどう思う?」
「きゅーきゅー?(国の事は良く分からんが、それよりマスカッシュもう一つ食べていい?)」
「そうか、やはりそうだな。これはもう俺がこの二つの国を仲良くさせるしかない。協力してくれるよな」
「きゅー? きゅー(まじで? まぁ、いいけど)」
こくりとフェルエーラが頷いた。
「まずはありがとう。マスカッシュはいくらでも食べていい。それで国を良くできるなら、安いものだ」
よし、聖獣フェルエーラの協力は得た。これで……。
「さて、どうしたものかな?」
これで……どうしよう。
さて、どうしようか(展開に困ってる)




