53話 窓辺のモフモフ
第七章 始まり
私の名前はオルガナ、とある小国ザッハオルテの姫です。年齢は二十二歳で、姫として結婚してもいい年ごろなのですが、心配性の父上のせいで碌な出会いもなくお城から出してももらえません。今はもっぱら窓辺で黄昏るばかり……。
ああ、どうしたらあの人に私の思いを伝えられるのでしょうか。
そう、碌な出会いのない私ですが、一度だけ嫁ぎたいと思った人に出会ったことがあるのです。それはお城からこっそり抜け出して街に出かけたときの事、麗しいまさに王子様と呼ぶべきかっこいいお人と出会ったのです。それは町のごろつきに絡まれ困り果てていた時の事。颯爽と現れ、私をごろつきから助けてくださいました。今は世を忍んでいるからとのことで、すぐに分かれてしまいましたが、あの出会いが忘れられないのです。
「ああ~、どうにかならないものでしょうか」
そんなときです。私の部屋は三階にあるのですが、その窓辺から白い何かが見えるではありませんか。私は父上に部屋に入っている様にと言われた時は、本を書いているのですが、その時は筆も止まっており、何より白い何かが気になったのです。
窓辺に近寄り、窓を開けました。するとするりと何かが中に入ってきました。
それは白いカワウソの様な生物でした。そして私はその生物の事を少しだけ文献で読んだことがありました。
「まさか、聖獣フェルエーラ!?」
聖獣フェルエーラとは聖獣の中でもとっても高位の存在で人前にはほぼ姿を現さないのです。
これはとっても幸運な事です。実物は初めて見ましたが、とっても愛くるしい姿をしていますね。
私は思わず手を伸ばしてフェルエーラの頭を撫でました。フェルエーラは撫でられることに慣れているようでされるがままに撫でられてくれました。触り心地は抜群でいつまでも撫でていたいような感触です。
ふと私はフェルエーラの目線が私のテーブルの上に注がれていることに気付きました。
まさか私の書いた本に興味があるとか……いや、そんな訳ないか。
注意深く観察すると、フェルエーラは私のテーブルにあったオレンジュナという柑橘系の果実に目移りしていることが分かります。
この国の特産品で私はいつもおやつにこのオレンジュナを食べているのです。そして今日もオレンジュナを食べるため机の上に置いていたのですが……。
どうやらそのオレンジュナがフェルエーラにはとても気になるようです。きっと食べてみたいと思っているんじゃないでしょうか。
そう言えば聖獣様には供物を捧げることで願いを聞いてくれることがあると文献に乗っていました。これは低位の聖獣が基本的に人間との共存関係のためにやっていることらしいのですが、高位のフェルエーラにも通用するでしょうか。
私は自分の頼みを聞いてくれたらオレンジュナを上げると、試しに言ってみました。
そうするとこくんと小さくうなずいてくれました。
「ありがとうございます。はい、オレンジュナです」
わたしはテーブルの上のオレンジュナを皮を剥いて渡してあげました。もきゅもきゅとオレンジュナを食べる姿もまた愛くるしいところがあります。
おっと忘れてました。私は戸棚から隠していた恋文を取り出しました。本を書く間に募らせた思いを書いた恋文。それを私はフェルエーラに渡します。
「これを私の愛しい人に届けてほしいのです。何とかできませんか?」
名前も知らないあの人、に届けるのは流石に無理だったのか、フェルエーラは困ったように首をかしげました。
「えっと、似顔絵もあるんですけど、見覚え有りませんか?」
私が紙で書いた似顔絵を見せると、フェルエーラは見覚えがあったのかこくんとうなずきました。
「本当ですか、ありがとうございます!」
そう言って私は礼を言います。
するとフェルエーラは
「きゅーきゅー(おい、これ敵国の王子の顔だぞ)」
と可愛く返事してくれました。きっと私の思いを愛しいあの人に届けてくれるでしょう。




