44話 モフモフと大会エントリー
世界樹のリンゴリンと言えばこの世界の三大美食に数えられる、高級な果物だ。
特別な大樹である世界樹になったリンゴリンの事で、一個の値段は時価できまり、凶作のさいは百万ゴールド以上の値段も付いたことがあるとか。
俺が地上にいる間にぜひ食べてみたい一品の一つだ。
その味はとても濃厚で食べた者にしか分からない幸福感があるという。
「きゅーきゅー!(おい、こんなことしてる場合じゃない。早くエントリーしに行くぞ!)」
俺は絶望の眼差しをぼーっと野原に向ける、フランの頬をべしべしと叩く。
「何だ~、そんなにはしゃいで。もしかしてお前この大会に出たいのか? まぁ、この大会で優勝すれば借金は返せるが……お前じゃ優勝できないだろ」
あ、舐めてるな俺の事を……だったら見せてやるよ。俺の力を!
俺は尻尾を白銀色にして、くるりと回転し地面に叩き付けた。
地面を見ると叩かれた部分が抉れている。どうだこの威力!
フランは地面に出来た小クレーターを見ると目を半分ほど輝かせた。
「おおっ~、これなら、いや、うーん、でもやれるだけあがいてみるか。よし」
そういうと彼女はすくっと立ち上がり俺を担ぎ上げた。
「やるからには優勝するぞ~、こむぎこ!」
「きゅーー!? きゅ!?(よっしゃー……って、え!? 小麦粉!?)」
小麦粉ってなんだ。食材の名前か!?
「どうした驚いた顔をして、こむぎこはお前の名前だぞ~。呼ぶとき名前がないとき不便だろ」
おい、待ってくれ。いままでずっときゅーちゃんって呼ばれてきたんだぞ! いまさら変な名前を付けないでくれ、っていうかこむぎこってなんだそのセンス。俺が白いからか? そうなのか?
「よし、丁度やってるのは私が住んでいる町、アクトラーザだし。早速エントリーしに行くか」
そういうと彼女はトコトコと北に向かって歩き出した。
俺もそれに続いてトテトテと北に向かって歩き出す。
アクトラーザは魔物使いが町を闊歩している。まさに大会に向いている町だった。ドラゴン、蛇、ワニ、鷲といった強そうな魔物がうようよいる。
「えっと、ここか」
大会のチラシを元にフランが闘技場に辿り着いた。
受付に行き、用紙に魔物使いフラン・魔物こむぎこと書いた。
本当にこむぎこ呼びで統一するつもりか。
「はい、登録完了です。これはエントリーの証のタグです。なくさないようにしてくださいね」
そういうと受付のお姉さんが俺の首に137と書いてあるタグをネックレスの様にして付けた。
「ん? いや、気のせいか」
そこでフランが何かつぶやいた。
「何でもない。一瞬くそ旦那が見えたような気がしただけだ。今日はもう家に帰るぞ~こむぎこ」
そう言ってフランは俺を抱きかかえて、自分の家、つまりは宿に向かっていった。
宿の名前はリンゴリン亭といういかにもおいしそうな名前だった。
フランが木製のこじゃれた扉を開けて中に入る。
「ただいま~、母さん」
「おかえり、フラン。どこ行ってたの?」
「ちょっと馬車に轢かれに街道に……」
え? 馬車に轢かれにって言うの? 言っちゃうの?
「もうフランったらそんな危ないことして、そんなことしても百万ゴールドの賠償なんて無理よ。はぐらかされるだけだわ。絶対レストランで食中毒者のまねをした方がいいって」
おい、叱り方がおかしくないか。
「母さん、そんなまね上手くできる訳ないって、それよりは馬車に轢かれた方が……」
「いや、食中毒者の方が……」
なんて会話だろう。この娘にして母ありってやつか。
二人の会話を聞いて俺はそんなことを思っていた。




