43話 モフモフと絶望の瞳
第六章 始まり
その日、俺はいつものごとく天空の塔を目指すため、東に進んでいた。
街道に沿ってトテトテと歩き、ゆったりとした日差しを楽しんでいた。
「きゅー(散歩日和だなぁ)」
雲の間から差す日差しと緩やかな風が気持ちいい。
こういう日は歩いていくにかぎる。
「きゅっきゅー(あっ、ちょうちょだ、おーい)」
たまには幼体らしく遊んでもいいだろう。風船のように膨らんでぽよんぽよんと鳥著を追っかける。普通に逃げられたが楽しかった。
「きゅ? きゅー(人生? 楽しいなー)」
「あ~、馬に轢かれないかな私」
何だ、今のネガティブな発言は。
俺が声のした方向を向くとそこには、街道に横たわる赤髪の美少女がいた。
そう街道に横たわっていた。このままでは馬車に轢かれる可能性がある。
「こいこい~、馬車~、そして私を轢け~」
ごろごろと転びながら街道の真ん中でとんでもないことを少女は呟いていた。
俺は取りあえず馬車に轢かれたらいけないと思い。彼女を引っ張って街道から外すことにした。
俺はふよふよと浮き、彼女の服の袖口を口で咥えてずりずりと引っ張る。
「んん? 誰だ。私の邪魔をする者は、今から私は馬車に轢かれるのだ」
そう言って彼女は俺の方を向いた。
その瞳は今日の天気に比べてとっても暗い。なんか闇落ちとかしてそうな目をしていた。恐い!
ずりずりと街道から離れた所まで俺は彼女を引っ張った。
抵抗もせずただされるままにされていた彼女は、ふぅー吐息をつくと
「なんだ? この珍獣。魔物? もしかして私の発言を聞いて助けたつもりになったのか」
助けたつもりとは何だ、ちゃんと助けたつもりだぞ。
ほらみろ、今馬車が街道をすごい勢いで走って行ったぞ、轢かれたら骨の一つや二つでは済まないだろう。
「ああ~、馬車が言っちゃった。どうしてくれるんだこの珍獣。私は今、絶体絶命のピンチなのだ~」
どういうことだ? あとずっと横たわって行ってるけど、起きる気はないのか?
「こんなことを珍獣に愚痴っても仕方ないが、私は宿屋の娘でな。この前まではそこそこ幸せに暮らしていたのだ~。だがしかし離婚したはずの母さんの元旦那のクソ野郎が先日やって来て借金だけ残してどこかに消えやがったのだ。おかげで宿屋は質に入り、あと三日の間に百万ゴールドを払わないと売り払われる始末。さらにはそれでも足りず私たち一家は奴隷行きになるかもしれないんだぞ~」
なんか話が重いな。そりゃ絶望した目にもなるわ。
「もう私が馬車に轢かれて、お詫びとか難癖つけて百万ゴールド手に入れるしかないのだ~」
なるほど、お金に困ったこの子は文字通り身を張って金を稼ごうという手段に出たわけか。やってることは当たり屋だけどな。
「私の名はフラン。悪いと思うなら、百万ゴールドを渡すのだ~。いや、無理か」
うーむ。これは何というか。何とかして協力してあげたいな。俺が聖獣という事を伝えて俺の作った布団を貴族とかに売れれば百万ゴールドを稼げないだろうか。
しかし俺は未だ人化も人の言葉も話すことは出来ない。身振り手振りでも限界がある。
まだ生まれて一年も経っていないだろうちびっ子なのだ、出来ないことも多い。
「もうどうすればいいんだ~、やっぱり馬車に轢かれるしか……へぶっ」
絶望に打ちひしがれゴロゴロとするフランに、一枚の紙が彼女の顔を叩き付けた。
彼女は絶望した目で、その紙を見ると、突然目がキラキラと希望に満ちた目に変わる。だがそれもつかの間すぐに絶望した目になった。
なんだ、なんて書いてあったんだ?
「きゅーきゅー(気になるから見せてくれ)」
「なんだ、この紙が見たいのか」
そういうとフランは俺に紙を見せてくれた。
それはとある大会のチラシだった。
魔物使い大会、○○月○○日開催!
優勝賞品は百万ゴールドと副賞の世界樹のリンゴリン!
魔物と言わず、家畜、召喚獣、妖精、精霊、奴隷、聖獣、使役できるなら何でもオーケー。
ただし武器と鎧は使用不可なので奴隷を使役する場合は注意だ。
「きゅー! きゅー!(世界樹のリンゴリンだと! しかも開催日は明日じゃないか!)」
何だこのご都合展開! これは出るしかねぇ!




