36話 モフモフと角ウサギ
体の半分が黒い水晶となっても角ウサギは生きているようで、その場でいきなり暴れ出した。目を赤く充血させ、口からよだれを垂らす様子は尋常じゃない。
どうにかして、黒い宝石を取り出さないと。
「ゴォアアア!!」
角ウサギが似合わない低い声で叫ぶ。
そして一直線にロルルの方へと突進していった。
「あわわわわわわーー!!」
ロルルが手を振って、こっちに来ないでのポーズをしているが関係なく、角ウサギはロルルに向かって突進を続ける。
そこに俺が割り込み、白銀色の体毛で角ウサギの角をガードする。その衝撃に俺はデコピンで小突かれたような痛みを覚えた。
なんだ!? ちょっとだけ痛かったぞ、あの黒い宝石は闇魔法に由来するものなのか。
でもそんなに強くはないようで、角ウサギの角は俺にぶつかった衝撃で折れてしまった。
「ゴォアアア!!」
立派な角が折れて角ウサギが叫ぶ。そして、あらぬ方向に走り去っていく。
「あ、ありがとうきゅーちゃん。危なかった……って早く角ウサギを追いかけないと!」
ロルルが冷汗をぬぐった後、箒にまたがる。箒に乗って空中から追おうという判断の様だ。俺はそれを見た後、箒の後ろに乗っかり、その後、ロルルの体を駆け上り肩に乗った。
「しっかり掴まっていてね、きゅーちゃん! いくよ!」
そういうと箒が空中に浮かび上がり、角ウサギを追って前進する。
箒は中々のスピードで空を飛び、乗っている俺も風が気持ちいいと感じるくらいだ。
「くぅう。結構早いね、あのウサギ」
しかし角ウサギには追いつかない。通常の角ウサギならとっくに追い付いているスピードなのだが、宝石を飲み込んだ角ウサギは身体能力が強化されているらしい。普通ならあり得ない速さで走り去っていく。
街道から徐々に離れていき、気づけば角ウサギは森の中に入ってしまった。
ロルルも必死で追いかけるも、入り組んだ木々が邪魔でスピードは自然と落ちてしまう。半面角ウサギは入り組んだ木々をひょいひょいと躱して、ついには見失ってしまった。
「あうう、どうしよう。見失っちゃったよ」
「きゅーきゅー(しかも入り組んだ森か、探すのは大変そうだ)」
箒から降りて歩いて探すも、角ウサギは見つからずあっという間に日は暮れてしまった。
しかも森の中で俺たちは迷ってしまったようで、ロルルは凄い不安そうな顔をしていた。
「うーん、どうしよう。これってかなりやばめ? 取りあえず夜になって森を歩くのは危険だから、行ったん探索をやめようか」
そういうとロルルは野宿の準備をし始めた。といっても薪を集めてきただけだが。
「きゅーちゃん。火って起こせる? 私は風魔法しかできないんだけど」
魔女っ娘のイメージで勝手に火属性が得意と思っていたけど、風属性しかできないのか。しかし心配はご無用だ。俺は火を起こせる。
俺は体毛を深紅色に変えた。すると俺の体毛が炎のようにゆらゆらと燃え始めた。
「きゅー!(薪にダイブ!)」
そしてそのまま俺は薪の中に突っ込んだ。すぐにメラメラと炎が燃え移る。焚火があっというまに完成だ。
「ありがとうきゅーちゃん! 野宿って初めてだけどきゅーちゃんが居れば何とかなる気がしてきたよ」
そうだろう、なんたって俺は聖獣フェルエーラだからな。
こんなことも出来る。俺は白いモフモフの状態に戻ると、毛をありったけ伸ばして抜いた。藁のベッドの様な、俺の毛で作った簡易モフモフベッドだ。
「きゅーちゃんすごい! こんなことも出来るなんて!」
そうだろうそうだろう、もっと褒めてくれてもいいんだぞ。
時間さえあれば、ネクロとヒスイに作って上げた様にちゃんと編んだモフモフ布団とモフモフ枕ができるんだがな。今はこんだけだ。
「あー、もふもふできもちいい。今日の疲れがとれていくーー」
横になったロルルが喜びの声を上げる。実際俺の体毛には人を元気にさせる力が有るからな。飯抜きの分もこれでチャラになればいいのだが。
「それにしても、まさかこんなことになるなんてね。本当はフィメルの町に届ける簡単な要件だったんだけど」
フィメルの町か、俺もここに来る際に通り過ぎた町だ。八百屋さんのおばちゃんにリンゴリンを貰ったな。相変わらずおいしかった。
「でもぶつかったのがきゅーちゃんで良かったよ。いろいろ助かったし、きゅーちゃんじゃなければ今頃泣きながら師匠の下に帰ってるよ」
俺たちは夜の森で会話? して過ごした。そして夜が更けていく。




