31話 モフモフと魔人
「いうじゃねぇか、聖獣の幼体風情がよ。あ?」
威圧するように魔人が言い放つ。だが、ここで怖気づいては町の人たちがどうなるか分かったものではない。俺はネクロの肩から飛び降りるとくるりと回転する。そのまま尻尾の先端だけを白銀色にして、尻尾を伸ばし、魔人に向かって叩き付ける。
それを魔人は余裕を持って回避する。不意打ちとはいえこの程度じゃだめか。
「あ? 何だ、その間抜けな攻撃は、ブレスやスケールスはどうした? キヒヒヒヒッ、変な戦いをする珍獣だな、こりゃ」
ブレスは分かるがスケールスってのは何だ? そして俺の戦い方は正規の戦い方とは違うのか。分からないが俺は魔人を倒すだけだ。尻尾をフレイルの様に使い、しっぽフレイルで俺は魔人に向かって横に薙ぎ払った。それを魔人は飛んで回避する。
「私を忘れてもらっては困るぞ!」
そこにネクロの手から出現した光の球体が飛んで行き、魔人に命中した。だが魔人は平気な面をしている。
「なんだ、そのへちょい聖魔法は、避ける必要性もないぞ人間」
そこまでいうと魔人は壊れたガラスのショーケースの台座に降り立った。
「これは自己紹介しても余裕そうだな。俺は狂暴凶悪の凶を司る四天王アレクサンドニア、通称凶運のアレク、さぁここからは俺のターンだ」
そういうとアレクは持っていた魔王の籠手を腕にはめた。
「お前ら、街の人を助けたいんだろ、だったら簡単だ。この籠手を破壊すればいい。そうすれば町の人の魂は戻って来るぜ。だがそれも皆既日食が終わるまでだがな」
舐めきった態度で言うアレク、それもそのはず皆既日食はもう始まろうとしていた。あと一、二時間もすれば皆既日食は終わり町の数千人は全員死んでしまうだろう。
「さぁ、どうする? 俺はただ傍観しているだけでいいんだがよ」
そういうとアレクは台座を壊しながら、空へと飛び立つ。そしてバサバサと飛び俺の攻撃の射程が今で移動した。
「鬼ごっこでもするか? お前らが鬼でな」
そういうとアレクは俺達から離れていく。しかしネクロは何故か逆方向に走り出した。
「あいつの戯言を真に受けるなよ。きゅーちゃん! この現象を止める方法はやつが言ったのとは別にもう一つある。それは魔法陣を壊すことだ。皆既日食を終わるまでに致命的に魔法陣を壊せれば、街の人々の魂は元に戻る!」
「ちっ、気づいていやがったか! それなりに賢いようだな人間! だがさせると思うか?」
アレクが飛ぶ方向を急転換して、こちらに迫って来た。そして魔王の籠手をネクロの顔面向かって突き出す。
そこに俺が飛びかかり白銀色の体毛でガードした。
「きゅー(うぐっ)」
ガードしたつもりだったが、鈍い衝撃と共に俺に殴られたような痛みが走る。どうやら白銀色の体毛でもダメージが入るらしい。さすが魔王の籠手と言ったところか厄介だ。
「すまないが、そっちは任せたぞきゅーちゃん! 私は水路を破壊して回る!」
そういってネクロが走り去る。それを追いかけようとアレクが飛ぶがそこを俺がしっぽフレイルで邪魔をする。
「あ? 邪魔する気か珍獣!」
「きゅー(そりゃそうだろ)」
「いいだろう、先にお前から片づけてやる」




