30話 モフモフと始まる陰謀
魔王の籠手に白銀色の尻尾を叩き付けた、数時間後。俺とネクロは牢屋に入れられていた。
まぁ、当たり前か。派手にショーケースをぶっ壊し、魔王の籠手に傷を付けたんだからな。その騒ぎで俺とネクロは傭兵に捕まった。
ネクロが傭兵に捕まるときに、「これで何回目だ全く」と言われていたのが頭に残っている。どんだけ牢にぶち込まれているんだ、ネクロは。
そのネクロは不服そうに壁ドンしていた。
「ちくしょー、いいじゃないか、壊せなかったんだし、牢屋に入れなくても」
俺を片腕に抱きながら、ネクロはそういった。
「きゅーきゅー(いや、傷はついたんだし当たり前だと思うが)」
ちなみに罰の牢獄行きは一か月とのことだ。
さりげなく長い。いや、魔王の籠手という国宝級の物体に傷を付けた罰としては軽いのか。
まぁ、いつでも脱出できるが甘んじて罰は受けよう。
何事もなければいいのだが。
あと皆既日食をじかで見たかったな。
そうしてあっという間に皆既日食の日まで、時は過ぎた。
皆既日食が始まると言われる時間の三十分ほど前の事である。ヒスイはネクロの面会ときゅーちゃんにリンゴリンをあげるために、牢屋に向かっていた。
「ん?」
そこでヒスイは不思議な事に気が付いた。水路の水が赤く染まっていることに、どうやら血ではないようだがこれは不気味だ。
町の人たちもこの現象に驚いていた。
「まさか、お姉ちゃんの言っていた陰謀論が本当だったの!?」
その突如、地響きと共にヒスイは息が苦しくなる。
「うっ、何これ」
ヒスイは周りを見渡すと、街の人々は倒れて動かなくなっていた。ヒスイは息が苦しくなる程度で済んでいるが、街の人は気絶して倒れている。
「もしかして私はきゅーちゃんとよく関わっていたから?」
疑問に覚えながらも、ふと羽音が聞こえて上を見上げる。
そこには町の中心に向かって飛ぶ、黒い蝙蝠の様な羽を生やし、青ざめた肌を持つ人の姿があった。
俺がそろそろ皆既日食かと、牢屋で残念がっていた時である。
突如地響きが鳴り響き、牢屋が揺れた。これには俺もネクロも反応せざるを得なかった。
「何だ一体!? やはり私の推測は正しかったのか。くそっ、牢屋から脱出したいが……」
ネクロが牢の外をみると見張りが気絶し倒れている姿があった。
「きゅー(これは緊急事態だな)」
ネクロの陰謀論が正しかったと俺は思うと、右手を牢の鍵穴に突っ込み鈍色に変化させて、鍵を開けた。
「きゅーちゃん! そんなことができたのか! よし、目指すは町の中央だ。そこに陰謀道理なら魔人がいるはず、それを何とか阻止するんだ」
そこまで言ったところで俺とネクロは牢屋を飛び出していった。
牢から中央広場まではそこまで遠くなく、二十分もすれば町の中心に到着した。
するとそこには一つの人影があった。
その人物は背中に蝙蝠の様な羽があり、肌は青ざめていた。黒の腰巻を腰につけ、上半身裸で、その肌には無数のタトゥーがあるのが見て取れた。こいつが魔人で間違いないだろう。
魔人は皆既日食が迫る中、魔王の籠手をガラスケースを強引にぶち破り手に取った。
「あ? 何で魔王様の籠手に傷がついてんだ? 高位の聖魔法でも傷一つ付かない代物だぞ、ん?」
そこまでいうと魔人は、俺たちの事に気付いたようで、俺たちの方に振り向く。
「ああ? 何で人間が気絶せずに立ってるんだ? っっ!!」
ネクロを見ていぶかしげの表情を見せた魔人だったが、ネクロの肩に乗っている俺を見ると表情が一変した。
「あ? なんでフェルエーラの幼体が!? まさか籠手に傷をつけたのはてめぇか?」
「きゅーきゅーきゅー!(その通りだ。とにかくこのクソ魔人まちのひとをどうにかしろ!)」
「あ? なにがクソ魔人だ。最上級の聖獣とはいえ、幼体なら恐くないぞ、オラ!」
そう叫ぶ魔人からは常に嫌な感じが漂っている。こう何とも言い難い、負のオーラというべきものが魔人を中心に渦巻いている気がした。
そして俺の言葉は魔人にちゃんと聞こえるのか、予想外だ。
「とにかく、そこの人間が魂を取られてないのはクソ聖獣のおかげだと分かった。だが一人と一匹で何が出来る?」
「きゅーきゅー!(お前をぶっ飛ばすぐらいだ!)」
そうして魔人と俺たちの戦いが始まる。




