3話 お嬢様とモフモフ
その子は、俺が真っ先に思い描くような、絵に描いた様な、西洋風のお嬢様だった。青と白のドレスに白い傘をさしており、髪は流れるような金髪の美少女である。
そう美少女である、つまり人間である。よかったー、グロテスクな宇宙人じゃなくて本当によかった。というか肌が紫色ぐらいは覚悟していたのだが、そんなことはなく彼女の肌は透き通った綺麗な肌色である。
前世なら余りの綺麗さと可愛さに緊張して碌に喋ることさえできなかっただろう。だが今の俺は真っ白い獣だ。なんてことはない。
そんなザ・お嬢様は俺の姿を見つけると、
「あら、見たことのない魔物ね」
とそう呟いた。魔物か、俺は魔物に分類されるのだろうか。RPGのゲームをやり込んでいた身としては、魔物と聞くと悪いイメージ、討伐されるイメージしかないのだが……。
ん? 今、この子、何て言った?
「白くてモフモフして、触り心地がよさそう。触ってもいい?」
凛とした声でお嬢様は俺に向かって喋ると、近づいてしゃがんだ。いや、そんなことより人間の言葉が分かっただと!? ゴリラの雄叫びは何言っているのか分からなかったのに。
「わぁ、思った通りモフモフでフワフワしてる!」
混乱している俺の頭をなでながらお嬢様はやいのやいのと騒いでいる。
そういうお嬢様の手も柔らかくて気持ちいいが。まぁ、言語が通じるといういいことだ。ここがどこかも分からないし、天空の島に変える方法も分からなかった。せっかくだし聞いてみようじゃないか。
「きゅーきゅーきゅぅ?(ごめんだけど、ここってどこかわかる?)」
撫でられながら俺は鳴き声を上げる。
「ん? どうかしたのかな? もしかしてお腹空いてるの?」
残念ながら言語は一方通行らしい。非常に残念だ、会話出来たら色々分かったかもしれないのに。
落ち込む俺を彼女は抱きかかえる。俺の体は非常に軽く、女の子でも楽々持ち上げることが出来た。
それから彼女に抱きかかえながら、庭園を進み屋敷に到達した。そこも絵に書いたようなザ・お金持ちの屋敷という感じだ。二階建てで、手入れされた汚れ一つない真っ白い壁、赤い屋根のお屋敷だった。
彼女は辺りを見渡し、まるで見つかってはいけないと言う様にこそこそと屋敷の裏口らしきところから中に入っていく。
高そうな絵画が飾ってある廊下を進み、彼女は一つの扉を開ける。そこはキッチンだった。ただ俺の知るようなハイテクなキッチンではなく、まるで中世ヨーロッパのようなキッチンだった。
冷蔵庫や水道といったものはなく、かわりに水の入った桶やかまどが設置してあった。
お嬢様はキッチンの端にある果物かごを見つけると、その中の赤いリンゴの様な果実を一つ手渡してきた。
俺はそれをテーブルの上でむしゃむしゃと食べる。うまい! お腹が減っていたこともそうだが、みずみずしく丁度良いリンゴのような甘みがじつにおいしい。
お嬢様はそれを微笑みながら見ていた。
「そういえば、あなた名前はないのよね? 私が付けてもいいかしら?」
俺はリンゴの様な果実にむしゃぶりつきながら、こくこくと頭を振って答えた。
「え!? あなた私の言葉が分かるの?」
返答されるのが予想外だったのか、お嬢様は驚きの表情だ。俺はその問いにもこくこくと頭を振って答える。
「すごい! 人の言葉が分かるなんて……もしかして本当にフェルエーラなのかしら」
ん? 何だ、フェルエーラって聞いたことないぞ?
俺は首をかしげる。
「んーとね、フェルエーラってのは天空の島に住む伝説の聖獣なの。ずっと天空の島にいて会えること何てほぼないんだから! でも地上にいるってことはあなたはフェルエーラじゃないのかしら?」
いや、たぶん俺がそのフェルエーラとかやらです。地上に落ちた聖獣です。
「そんなことより名前よね。そうね、あなたの鳴き声がキュー、だからきゅーちゃん。これでどう?」
安直だが変な名前を付けられるよりはマシだろう。
俺は食べ終えたリンゴの様な果実の芯だけを残して、こくこくと頷く。
「よかった、気に入ってもらえたのね。じゃあ今日からあなたはきゅーちゃんね!」
「きゅーきゅー」
と、その時であるキッチンの扉が開き人が入って来たのは。