29話 モフモフと陰謀論
「魔人、少しだけだが聞いたことがある」
俺はそう答えた。魔人というキーワードはバベル船長が一回だけ口にした言葉だ。たしか魂を魔人に売っただのなんだいっていた気がする。
「なら話は早い。この町、王都サザンロックを巻き込む陰謀の話なのだが」
そこでさえぎるようにヒスイが口を刺した。
「お姉ちゃん! またその話? そんなことないから大丈夫だってば!」
「いや、しかしだな。本当なら大変なことになる訳で……」
「もう、心配性だな。お姉ちゃんはだったら気のすむまで話すといいよ。私はきゅーちゃんをなでなでしてるから」
そういうとヒスイは俺がいる魔法陣の中まで入って来て、俺を抱きしめて撫で始めた。
「そうか、なら遠慮なくさせてもらおう」
そこからはネクロの話が続いた。
まず魔人とは太古の昔に人間たちと争っていた種族で、他の種族を見下し世界征服を企んでいたのだとか。魔王という絶対的な力を持った王を崇め、王を中心に世界征服を開始した。だが、人間や獣人、エルフや聖獣と言った種族たちは協力し合い。何とか魔王を封印し、魔人たちは滅んだ。
だが四天王とよばれる魔人は不老不死の不滅で今もどこかで、魔王復活のために暗躍しているという。
その一つがこの王都サザンロックだという。この王都サザンロックは数千人が住む王都で、その歴史は新しく百年ほど前から水の都をつくり、そこを王族は王都した。
問題はこの水の都の形だという。ネクロはこの町生まれだが、この水の都の水路が規則性を帯びていることを疑問に思い、研究することにした。
すると、水路は魔法陣の形をとっており、これは発動すると中にいる人々の魂を捧げる魔法陣だということが分かった。
さらにこの魔法陣は皆既日食がトリガーという事も分かったらしい。
それでネクロは水路を破壊しようとしたり、陰謀論を唱えることで何とかしようと思ったが、妹にまで信じて貰えていない始末だ。
「と言う訳なんだが、気味は信じてくれるか、きゅーちゃん」
「んー、にわかには信じがたいな」
と俺は答える。
この町全体が魔法陣になっているとなれば、それは王族までかかわっている大規模な計画だ。
本当にそんなことがありえるのだろうか、しかし
「だけどこの前、魔人に魂を売ったという闇魔法使いに出会っているんだよな」
半信半疑だが俺は一応、ネクロの話を信じてみることにした。
「それでどうすればいいんだ?」
「この町の中心にかつて魔王が使っていたと言われる籠手が飾られている。それを皆既日食までにきゅーちゃんの力で破壊してほしい」
そういうとネクロは頭を下げた。
「私は本当に魔人の陰謀がこの町を襲おうとしていると思っている。協力してほしいんだきゅーちゃん」
そこまで言われたら答えないわけにはいかないだろう。
「分かった。出来るだけの事は協力しよう」
「そうか、ありがとうきゅーちゃん。ではさっそくだが、魔王の籠手を破壊しにいこう!」
「うぇえ! 本当に実行する気なのお姉ちゃん! きゅーちゃん! 私はどうなっても知らないからね」
「大丈夫だ。ヒスイを巻き込む気はない。これは私ときゅーちゃんで解決する。行くぞ、きゅーちゃん」
そういうとネクロは地下室を飛び出していった。
俺はヒスイの腕をするりと抜けるとネクロについて行った。
ネクロの後に続き、街を歩く。一時間もすれば、俺たちは王都の中心に辿り着いていた。
そこは円形の広場になっており、カップルがイチャイチャしている姿も見えた。
そして広場の中心に、ガラスのショーケースに飾られている籠手を見つける。
それは漆黒の籠手で、まがまがしい容姿をしていた。よくこんな籠手が飾られているところでイチャイチャできるものだと俺は、カップルに尊敬の念を覚えた。
「これをどうにかすれば、計画もくそもないはずだ。やってくれ、きゅーちゃん!」
びしっとネクロが籠手を指さす。そしてその声で街の住人の注目も集まる。
「きゅーきゅー(これ大丈夫なのか、国家反逆罪とかで囚われないだろうな)」
「何を戸惑っているきゅーちゃん、さぁ早く!」
「きゅーきゅ(夜中とかの方がいいんじゃなかろうか、まぁいいか)」
そう思うと俺はふよふよと籠手の入ったショーケースの真上まで飛ぶ。そしてくるりと回転しながら、白銀色に変えた尻尾を叩き付けた。




