23話 モフモフと殺人鬼
「なっ、そんなバベル船長が殺人鬼だったなんて!」
ファボック副船長が驚きの声を上げる。
「そうだ、俺が殺人鬼だ。だったらどうする? 殺すか?」
そう言いながらニタニタするバベル船長。
こいつ今の状況が分かっていないのか?
「そうか、だったら生かしてはおけないな」
眼を瞑り、しばらくして覚悟した表情でファボックは眼を開いた。
「皆の物、バベル船長、いや、殺人鬼を生かすな。やるぞ、デリラ」
「分かったよ、ファボック。そして船長、残念だよ。あんたが殺人鬼だったなんて」
その瞬間ファボックの首めがけてバベル船長の攻撃が襲った。
それを俺が白銀の体で防御する。
その攻撃の正体は水だった。そうバベル船長は水の魔法に長けている。今までの殺人で行われた鋭利な刃物の様なものとは、高圧で射出される水圧カッターだったのだ。これなら証拠は残らない。そしてエビルクラーケンとの戦闘に紛れて人を殺したのも、暴風雨の中なら目立たず遠距離から可能だ。
他の二人が長けているのは火と、雷。消去法でバベル船長が犯人と分かったと言う訳だ。
そして今はエビルクラーケンの討伐のために三十人ほど甲板に戦闘員がいる。対してバベル船長一人だ。それにとっておきだったであろう水圧カッターも見せてしまった。バベル船長は万事休すだということだ。
だというのにバベル船長はまだニタニタと笑ったままだった。
「ありがとう、珍獣よ。おまえがいなければ私はバベル船長に殺されていた」
ファボック副船長が礼を言う。
そして手に炎弾を浮かべると、バベル船長に向かって放った。
それをバベル船長は、水の壁で塞ぐ。そこにデリラが雷を纏わせたレイピアで突撃した。水の壁に穴を開け、その攻撃はバベル船長に……届かなかった。
黒い靄の物がバベル船長の体から溢れ、それによってデリラのレイピアはふさがれていた。
「驚いたか? これがコツコツと殺人を重ねて手に入れた闇魔法の力だ。お前のレイピアなど効かん」
そういうと黒い靄がまるで手の様な形をかたどり、デリラのレイピアを根元から軽々と折ってしまった。
「なっ!?」
「これが闇の力だよ。魔人に魂を売った俺の力だ」
バベル船長の背中から黒い靄が溢れだし、羽とも腕ともつかないような形をかたどる。そして黒い腕が甲板を薙ぎ払うと、それだけで三十人もいた戦闘員は吹っ飛ばされ各々、床や壁に叩き付けられた。
「クソッ、あれが噂に聞く闇の力か、かまうな魔法で押せ!!」
吹き飛ばされたファボックが炎弾を放つ。それに続いて戦闘員による魔法攻撃がバベル船長を襲う。しかしすべて黒い靄で作られた腕と羽ともおぼつかない翼に弾かれてしまう。
「クククっ、俺もちまちま殺すのは飽きてきていた所だ。いい機会だし、皆殺しと行こうか!」
物騒なことを言うバベル船長。そしてそれが黒い靄の翼で可能だと、今までのやり取りで分かってしまった。
「こっちが万事休すか。これはやばいね」
そう呟くデリラ。
だが、希望は一つあったそれは……。
「ん? 何故だ、何故珍獣は吹き飛ばされていない」
俺が聖なる獣、聖獣で闇の魔法がほとんど効かないということだ。
先ほどバベル船長が周りを腕で吹き飛ばされた時、俺の時だけ攻撃和らいだのだ。しかし白銀色に変わっても、ジンジンと少しだけだがダメージが俺の体に入った。
どうやら絶対無敵と信じていた俺の白銀色の体毛にも弱点はあったらしい。といっても微々たるものだが。
「そういえば聞いたことがある。闇の力は聖獣にあまり有効ではないと。もしやお前珍獣ではなく聖獣だったのか。だが関係ない、叩きのめすだけよ」
そういうとバベルの闇の翼が俺を叩き潰すために襲う。それを俺が白銀色になってやり過ごす。
ジンジンと地味な痛みが俺を襲った。
「きゅーきゅー(叩きのめすはこっちのセリフだ)」
マリーの為にもここは俺が戦って、バベル船長に勝たないとダメだろう。
こうして俺とバベル船長の一騎打ちが始まった。




