21話 船上のモフモフ
容疑者の三人とも魔力探知に長けているだけ合って、透明になっても隙をみせず日記どころか部屋にも入れてもらえない。透明でダメならばと、白いモフモフ状態で堂々と向かったのだが、バベル船長には追い払われ、ファボック副船長には見世物小屋につまみだされ、デリラ水夫には人のいないときは部屋に居れてもらえた。こっそりとなでなでされたが、腕から抜け出せず、日記は見ることが出来なかった。
デリラ水夫はかわいいもの好きというのを他の人に隠しているようだ。二十八歳独身だそうだが、そういうところを異性に見せれば、いい人が見つかるんじゃないかと思った。
とりあえず俺の身縦ではバベル船長とファボック副船長が怪しく、デリラ水夫はかなり白く見ている。ただ単に感情論というだけなのだが。
現在俺は、俺の入っていた檻が壊されているのと、檻に入れても勝手に何回も出てくるので、見世物小屋の連中に野放しにされている。というかずいぶん経ってから所有している魔物じゃないと気付いたようだ。いちおう夜になったら物置には帰っているが連中がどう思っているかは、俺のあずかり知らぬところだ。
そして俺とマリーは今、日記を盗み見るのを半分あきらめて、違う方法を模索している。だが、なかなかいい方法が思いつかない。それぞれの武器に血が付いていないか確かめるなどの方法もあるが、そもそも小さいナイフで切ったりした後、凶器を海に捨てればいい話だ。
他にも何か妙案がないかと探すが、俺たちは思いつかなかった。
「きゅーきゅー(マリー全然思いつかないな)」
「そうね、気分転換でもした方がいいかしら」
「きゅっきゅーきゅー?(気分転換と言っても、この船の上で景色を見る以外の方法があるのか?)」
船上員がボードゲームをして遊んでいるのを見たことがあるが、小動物と幽霊ではできないだろう。
「うーん。私は出来ないけど、きゅーちゃんはリンゴリンでも盗み食いしたらどう? ちょっとぐらいなら大丈夫でしょ!」
リンゴリンとはいつも俺がリンゴの様な果実の事だ。リンゴの様にみずみずしく俺の大好物である。
「きゅーきゅー(それはいい考えだ。どこにあるのか分かるか?)」
「確か食糧庫の樽に入っていたような。食糧庫はあっちだよ」
「きゅー!(分かった!)」
俺はリンゴリンを目指し、マリーの指さす方へ向かっていった。そこからマリーのナビゲートに従い進んでいく。
まもなくして食糧庫に到着した。鍵が掛かっていたが、俺には通用しない。鈍色に体毛を変化させてピッキングだ。
ガチャガチャと数回動かすと、カチッとなって食糧庫の扉が開く。
そしてタルを探す。樽はあっさりと見つかった。俺は匂いを嗅いでリンゴリンの樽を探し、見つけ出す。そして駆けだす。
「あっ、ちょっと待って」
ん? 何だと、俺は動きを制止しようとして。ばちんと音がして俺に鈍い衝撃が伝わった。俺は白銀色に変わったためにノーダメージだが、俺はとらわれてしまった。
俺はリンゴリンに夢中でネズミ捕りに気付かなかったらしい。
「きゅー(不覚だ)」
「だから待ってって言ったのに」
とマリーは呆れた顔で少し笑っていた。
つられて俺も少し笑う。
とはいえこのままでは動けず、リンゴリンも食べれない。多少痛いかもしれないが俺は覚悟して、体毛の色を白銀色から薄水色に変化させる。その瞬間俺の毛はぬめりを帯び、ぽにゅっと俺は弾きだされた。そのままコロコロ転がって、樽にぶつかる。
「ぷっ、あははははっ。何それ面白い!」
その様子が面白かったのかマリーは大爆笑していた。
「きゅーきゅー(ぬめぬめ形態だ。それよりリンゴリンを)」
とその瞬間に船が大きく揺れる。
「きゅー!?(何だ!?)」
揺れは止まらず、船がぎしぎしと傾く。真っ白いモフモフの俺はバランスを崩し、またもやコロコロと転がって行く。
そして、甲板の方から大声が聞こえてきた。
「エビルクラーケンだ! エビルクラーケンが現れたぞ! 戦闘態勢だ! 早く討伐しないと、船ごと沈められるぞ!!」




