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シロモフ転生  作者: あめふらし
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18話 船の中のモフモフ

 俺が檻の中に入って侵入した船は、間もなく動き出した。今は物置の様な一室に入れられているため、外は見えないが揺れでそのことが分かった。俺はまもなして、檻をするりと抜ける。別にずっと檻の中にいてもよかったのだが、十分もせずに暇と感じたからだ。

ドアノブを器用に開けて出ようとしたが、ガチャガチャという鍵が掛かっているという事実だけが帰って来た。

 どうしたものか? 別に檻の中に戻ってもいいのだが、いつまでかかるか分からない航海中、ずっと檻の中は窮屈すぎる。

 ここは俺が旅で新しく見つけた力を使うべきか。俺はそう決心すると、右手を掲げて鍵穴の前まで持ってくる。そして右手の体毛だけを逆立てる。その後、逆立てた体毛を鍵穴に突っ込み鈍色に変化させた。

体毛を逆立てることと、新しい効果のある色の体毛は俺が旅先で見つけた新しい力だ。ちなみに鈍色の効果は、毛の硬質化である。だが白銀と違い針金ほどの硬さしかない。そのかわり軽く、重くて動けないという事はない。

俺はそのまま鈍色の体毛をガチャガチャと適当に動かす。すると、少し経った後にガチャッとドアが開く。

「きゅー!(やったぜ!)」

 俺はこんどこそと、ドアノブを器用に開ける。

 とりあえず、退屈と部屋から脱出できそうだ。だが俺は見つかったら、見世物小屋の檻から逃げ出した動物と思われて、檻に戻されるかもしれない。

 なので透明色に体毛を変えて外に出ることにした。これなら見つかることはないはずだ。足跡も肉球の力の入れ方次第で自由に消すことが出来るし、俺の姿は目には見えない。あとはクローズの時の様に魔力で探知されることだが、そこまでの対策は流石にできない。いちおう砂の色の体毛は魔力を一切関知できなくするという力が有るが、透明と両立できないので却下だ。それに魔力で探知するのは、相当の達人でないと無理だということが分かっている。さすがにそんな人物と出会ったら、俺は檻に戻されても仕方がない。

 というわけで探検開始である。前世から合わせて船に乗るのは何年ぶりだろうか。少なくとも五年は乗っていない。だが、船に乗ったらぜひともやりたいことがあった。

 それはタイタニックのポーズをして、エンダーイヤーっと叫ぶのだ。一人しかいないし、キューとしか言えないけど。それにエンダーイヤーはタイタニックの主題歌ではないけど。。

ともかくやるったらやるのだ。甲板に出ると俺はさっそくやってみた。なんか虚しかった。

それが終わると俺は次にやってみたいことを実行した。それは帆の上の見張り台から景色を眺めることだ。

本来上るのには苦労するのだろうが、俺には旅先で見つけた肉球の力が有る。俺の肉球は特殊でヤモリみたいに壁を垂直に上ることが可能だ。さらにはヤモリを超えて蝙蝠の様に天井にへばりついて、そして歩くことが出来る。これの力で俺はやすやすと見張り台へと到達した。俺の種族は目がいいようで人間の時はおよそ見えなかっただろう遠方まで見ることが出来た。

何処までも広がるマリンブルーの海、後ろを振り返るとうっすらと元の大陸が見えた。そのまま海を見続けていると巨大なサメがまるでイルカの様に跳ねる。さらにトビウオみたいな魚が、波から滑空して飛んでいる姿が見て取れた。

元の世界とは違う海の光景にやはりここは異世界なんだなと思い知らされる。

その夜、俺は檻に戻って眠っていた。

ちなみに見世物小屋の奴らはご飯として干し草を持ってきた。うん、干し草だった、ザ・乾燥した草って味だった。リンゴの様な果実を食べさせろー。あのジューシーな味が忘れられないんだ。この船にあるだろうか、だったらこんど盗み食いをしてしまおうか。

そして俺は本来、というかこれも旅先でわかったことだが、眠る必要がない。だが眠ってしまうのは前世の癖である。野に出ているときは白銀になって寝るのだが、今は檻の中で安全だから真っ白のフワフワのままで寝ている。

そうしていると、どこからともなく声が聞こえてくるではないか。それも少女のすすり泣く声だ。これには俺もつい反応して起きてしまう。

だれかが泣いているのだろう、と見渡してもその姿は見えない。

一体誰がどこで泣いているのだろう。

とその時だ。俺が部屋の角を見たのは、そこには青白く半透明で体操座りをする少女の姿だった。


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