16話 モフモフと聖獣様
体長はサタンコングと同等の三メートルの背丈をほこっていた。赤は赤でもサタンコングとは違い美しい深紅の体毛をしている。二足歩行で立つ狼といった感じで、サタンコングのつきだされた腕を片手で受け止めていた。
この狼が村人がいう聖獣様だろう。凛々しく立つ姿はまさに聖獣だった。
そこから聖獣様とサタンコングのデスマッチが始まった。
サタンコングが聖獣様を殴り、それに負け時と聖獣様もやり返す。五分の戦いに見えたが、サタンコングにはウルカに右目をやられている。聖獣様のほうが僅かに有利だった。狩人たちの支援もあり、ほどなくしてサタンコングは地に伏した。
被害はほとんどなく我々の大勝利である。
「しかしなぜ、サタンコングがこんな山から離れた所に? 何かを追って来たのだろうか? それとも何かの災いの前触れか?」
いや、災いとかではなく単に俺を食べに来ただけだと思います、はい。
村人たちが歓喜の声を上げる中、俺はトテトテと聖獣様に近づく。とりあえず言葉が通じるか試してみよう。聖獣同士なら言葉が、通じるかもしれない。
「きゅーきゅーきゅーきゅっきゅ(えっと助けてもらってありがとう。俺の名前はきゅーっていうよろしく)」
その言葉に聖獣様はすぐに反応した。
「そうかきゅー殿、わたしは深紅の聖獣ドギルガン、普段は祭壇の奥の森に住んでいる。会話が出来るという事は魔物ではなく聖獣ということかな」
おおっ、言葉が通じた! 久しぶりの一方通行ではない会話に少し感動を覚えた。
その傍で聖獣という単語に村人が驚きの表情をしている。
「きゅーきゅーきゅー(そうだと思う。たぶんフェルエーラって種族なんだけど、何か知らない?)」
「なんと、まさかとは思ったがきゅー殿は聖獣フェルエーラであったか。われら下級の聖獣と違い、世界の秩序を見守る三大聖獣のひとつであり、上級の聖獣であるフェルエーラ族。だが残念なことに私はそれぐらいの事しか知らぬ」
そうか、それは残念だ。手がかりの一つでもと思ったのだが。
そこからはサタンコングの後始末が始まり、深紅の聖獣ドギルガンは祭壇の奥へと帰って行った。
そして翌日、改めてウルカの試練突破とサタンコング狩猟のお祝いの宴が開かれることになった。
「サタンコングの襲来にも驚いたけど、きゅーちゃんが聖獣様より偉い聖獣だったなんてね、そっちの方が驚きだったわ」
宴の席でウルカに抱きかかえながら、俺は撫でられていた。撫でられながら俺は昨日のドギルガンとの会話の続きを思い出していた。
それによるとフェルエーラは自由自在に空をとび、天空の塔に向かわなくても天空の島に帰ることが出来るらしい。その話を聞いて何とか飛ぼうと跳ねたり、跳ねたり、具体的には跳ねたり、してみたのだが一向に空を飛ぶことは出来なかった。どうやら空を自由自在に飛ぶには幼体の俺では無理なようだ。
結局はっきりとしたことは分からず、天空の塔を目指すしかないということが分かった。
そして俺は聖獣様を介して、村の皆に天空の塔を目指して旅立つと伝えてある。フェルエーラの情報も入ったし、ウルカもまだ危なっかしいとはいえ一人前の狩人になった。特に弓の腕前だけならば一流の狩人に並ぶほどになった。翌日にはもう旅立とうと思っている。
「きゅーちゃんは両親の元に行くために旅立つんだよね。旅立った後も私の事忘れないでね!」
「きゅきゅー(もちろん!)」
こうして俺とドギル族の出会いは終わり、俺は旅立つことになった。ここもまたお嬢様の時と同じように名残惜しくなったが、心配している親がいるかもしれないのだ、ずっとここにいる訳にはいかない。
俺は翌日、選別にリンゴの様な果実を貰い、旅立つこととなった。
俺の旅は出会いと別れに満ちており、そしてまた俺は何かと出会うに違いない。
俺の旅はまだまだ続く。
第二章 完
ネタが無くなったよ。第三章どうするかな。




