12話 モフモフと練習の日々
「そんな、危ないよ。だめだってきゅーちゃん!」
俺は勝菓子から的を持ってきて撃ってくださいとばかりに、ウルカの前で走り回った。といってもトテトテからとっとことっとこに変わったぐらいだが。どうやら俺の体は走るのに向いていないようで、とっとこ走るよきゅー太郎レベルが限界なのだ。
だけども俺の意思は伝わったらしく、ウルカに注意された。本来ならウルカを手伝う切りも何もないのだが、せっかくであった何かの縁だ。俺は聖獣様の情報を集めるとともにウルカが一人前の狩人になるまで一緒にいようと思っていた。
これはその一人前の狩人になるための第一ステップだ。動く的を用意できるなんて中々あることじゃあるまい。
「きゅーきゅーきゅー(大丈夫だから、矢が当たる前に硬質化するし)」
きゅーきゅーきゅーきゅー、とやいのやいのと言い争うことしばし、ウルカが根負けし、俺自身が的になることで練習することになった。
「大丈夫、キューちゃんにあてずに的に当てればいいんだし、大丈夫大丈夫!」
そんなこんなで俺が練習場を的を掲げて、とっとこと動き回る。それをウルカが鋭い目つきで見ながら、弓を構えた。次の瞬間、矢が放たれ見事……俺の体に命中した。まぁ、予想通りだったし、白銀の体毛で矢を弾き飛ばしたが。
「あわわわわ! 大丈夫キューちゃん!」
弓を放り出して、駆け寄るウルカを俺は右手で制止する。ワンスアゲインだ。
「きゅーきゅー(平気だから次に行こうぜ)」
その日は結局、俺が的になり練習したものの、的に掠っただけで中心には一回も当たらなかった。しかしウルカは俺の練習方法がしょうにあったのか、その次の日には的にガンガン当てていき、その翌日には中心に当たることが多くなり、さらに次の日には百発百中で矢が的の中心に当たるようになった。
これには村の人々や爺やも喜びの表情で、矢が上達したのはウルカ自身の努力の成果なのだが、俺も少しだけ誇らしかった。
「ふう、これで少しは弓が上手くなったかな」
「きゅーきゅー(まだまだだろ、俺に考えがある)」
動く的に当てられるようになったからと言ってそれは横に平行移動してとっとこ走る小動物の場合だ。
これならどうだ、と言わんばかりに俺は風船のように膨らみぽよん、ぽよん、ぽゆんと跳ねまわった。
「な、何それ、きゅーちゃんそんなことも出来るの?」
生憎、的を持つことは出来ないがこれなら俺撃つのも不規則で難しいはずだ。
そう思ったが、案外あっさりと俺の風船形態は命中させられた。
案外動きがとろいせいで、簡単に次の動作がばれるからだ。
ぺちっ、矢が又命中し、俺は居ても立っても居られなくなった。ウルカの成長は喜ばしいが、まさかお気に入りの風船形態がこんなにもあっさり負けることになるとは。
旅の道中で膨らんでぐるぐる転がって移動したり、ぽよんぽよんぽゆんと跳ねて遊んでいたから風船形態にはかなり愛着があったのだが。
これでは俺の気が収まらん。風船形態のかたき討ちじゃ!
そうして考える事しばし、思いついたのがバネ形態だった。
尻尾をクルクル巻いて、ばいんばいんと高く跳ね上がる。
これにはウルカもそして俺も苦労した。
まず俺が上手く尻尾を操れないせいでばいんばいん、どてっという感じになってしまったからだ。バネ形態は風船形態と違って、跳躍の距離もスピードも高さもまさっているのだがコントロールが難しい。自分自身でもどこに行くのか分からない。
だが、ウルカに負けていられないという事で俺は三日でこのバネ形態をマスターした。ばいんばいん、びょいんびょいんと跳ね一気に三メートルは跳ねれるようになった。
さらにコントロールも完璧だ。
次に苦労するのはウルカの番だった。何せ的が縦横無尽に動くのだからなかなか当たらない。まぐれで当たることはあるものの、的の中心には一切当たらない。
そんな日々が一週間続き。ウルカがコツを掴みかけたのはその次の日の事だった。まぐれではあるが的の中心に矢が命中したのだ。
そしてさらに一週間後、ウルカは俺のバネ形態を完全に突破した。
百発百中である。これには村の人々も驚きの声を上げていた。他の狩人も俺のバネ形態に挑戦していかに的に当てるのかが難しいと分かっているからだ。
そしてこれを機に、ウルカはフォレストタイガーに挑むことを決心した。




