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もし、俺の超能力が異世界最強だった場合。  作者: 鶉野たまご
『第一章:青い炎と赤い森』
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第九話・熊と鎧とライフル銃と

 馬車が手前に見えている。

 少し離れたところから、グルルルッとギャンギャンの混ざったような声が響いている。

 熊の群れが馬車の前面に六七頭は目視できる。

 馬の嘶く声が聞こえたと同時にターンッと銃声が響き渡った。

 おおう、やっぱりアメリカは危険だぜ!

 銃弾、危険、当たると死ぬ。

 これは思ったより近づけないかもな。

 予定通り遠距離射撃が一番だ。

 右手に力をイメージする。

 さっきと同じ要領だ。

 デカイだけに強力な奴をお見舞いしないとダメージにならない。

 熊に小石をぶつけても単なる威嚇にもならない。


「……Run! Run! Hurry up! ――!!」


 焦ったような男の叫び声が聞こえてくる。

 必死に手綱を引いて馬を走らそうとしているようだ。

 ここに来てさっきの恐怖が蘇ってくる。

 やっぱり来なければよかったかも知れない。

 この人がこの熊を追い払った後にもう一回来ればいいんじゃないか。

 馬車なんかで移動してるんだから、この人きっとこの付近に住んでるはずだ……。


 ガシャーン!と何かを叩きつける音が聞こえた。

 遠目に熊が馬車に攻撃しているのが見える。

 ガンガンと派手に腕を叩きつけて幌馬車が見る間に破壊されていく。

 とうとう、熊たちの襲撃が始まってしまったらしい。


 ターン、ターンッと激しく銃声が響き渡り、カーンと金属に跳ね返ったような高い音が返ってくる。

 馬車の近くにいる熊の頭部が揺れるのが見えた。

 馬車の先端に取り付けられた灯火に銀色の熊の頭や身体が鈍く反射する。

 銀色?銀色熊?それともこの熊何か被ってる?


 もう一頭、棍棒(・・)を持った熊がおもむろに御者に近づいて行く。

 

「Roaaaar!! Roaaar!」


 角の突き出た金属製の兜を被った熊。

 よく見ると鎧を着ているような、角ばった体型をしているのがわかる。


(熊!?棍棒!?なんだこいつら!人間か!)


 人間と思っても今更、躊躇していられない。

 御者が今にも棍棒を振り下ろされようとしている。

 ライフルが間に合わない。

 人間だって構うもんか。


「あぶないー!!」


 右手に溜めていた念動力(サイキック)の塊を撃ち出すと共に思わず声が出ていた。

 ガツンと金属に硬い物をぶつけたような鈍い音がして、俺の攻撃は棍棒を手にした鎧熊の身体を直撃した。

 御者への一撃は辛うじて免れたようだ。

 鎧熊が崩れ落ちるのが見える。


 御者のピンチは何とか切り抜けたようだがまだ終わってはいない。

 むしろたった今、戦闘開始のゴングが打ち鳴らされたようなものだ。

 俺が派手に打ち鳴らしたのだ。

 低くて鈍い、失敗したようなゴング音だったのだけれど。


 周りにいた他の鎧熊が一斉にこちらに振り向いた。

 奴らは俺を見つけると四つん這いの猛ダッシュで近づいてくる。


(ちょ、お前らやっぱ人間じゃねーのかよ。

 熊のスピードに人間なんか敵うワケねーだろ)


 あっという間に追いつかれた俺は殆ど逃げる間もなく鎧熊からの棍棒を食らった。

 今まで受けたことのない痛みに悲鳴を上げる。

 アニメのように、殴られたらふっ飛ばされるなんてのは演出上の嘘だ。

 叩きつけられた衝撃で俺はその場に這いつくばった。

 鎧熊がさらに追い打ちをかけるよう棍棒を振りかぶる。


(あ、死んだ)


 頭を抱えて丸くなる。

 棍棒が振り下ろされようとした寸前に、ターンッ、ターンッと銃声が響いた。

 鎧熊が仰け反って倒れる。

 俺は背中の激痛に耐えながら腹ばいで逃げ出した。

 念動力(サイキック)で反撃しようにも痛みが邪魔して集中できない。

 目の前の奴以外の鎧熊も近づいてくる。


 ターンッ、ターンッ、ターンッ。

 御者台の男がライフルを続けざまに撃ち始めた。

 何連発式の銃なのだろう。

 弾丸が尽きると万事休すじゃないか。

 幸い今夜は月が出ていない。

 この薄暗さと草原ならばじっとしていれば即発見にはならないだろう。

 連中が犬みたいな嗅覚をしていなければだが。


 蹲って懸命に痛みに耐える。

 今まで生きてきて味わったことのない強烈な痛みだ。

 これは確実に骨が折れている。

 呼吸が苦しい。


 ターンッ、ターンッ、すでに何発目かの銃声が響く。

 元々何頭いたのか知らないが鎧熊が立て続けに倒れる音がする。

 こちらに向かって来た鎧熊も銃撃されないように身を伏せたようだ。

 やはり、こいつら只の熊じゃないな。

 鎧を着込んでいるようだし、銃弾で倒せているとは限らない。

 さっきの奴だってどうなっているのか。


 一瞬の静寂が訪れる。

 獣の荒い鼻息だけが響いている。

 これが馬のものか、鎧熊のものかは知れない。

 鎧熊たちは銃撃の連射を恐れてか動く気配がない。

 背中の激痛は一向に収まらないが、何とかしなくては。

 ここまで来て逃げ出すわけには行かない。

 この馬車を助ければ俺もここから救われるかも知れないのだ。

 少なくとも人には会える。


 ここではた、と思いついた。

 この馬車はさっきから御者以外が銃撃に参加している風に見えない。

 鎧熊共は俺が草むらに逃げたのを知っている。

 俺が馬車に逃げ込めば鎧熊を撹乱できるはずだ。

 攻撃手が三人になったと思えば奴らも退散するかも知れない。

 このままでは御者のライフルが俺に当たらないとも限らない。

 それならば、幌馬車に飛べばいいのだ。


 イメージは幌馬車の中。

 距離は三〇メートルもない。

 この程度ならピンポイントで飛べるはず。

 今度ばかりは綺麗に飛ばないとただでは済まない。

 きっと背骨が折れる。

 ――集中しろ。


瞬間移動(テレポーテーション)!!!》


 ガサッと麦わらの上に落ちる。

 ぐう、ぎりぎり何とか耐えられる痛みだ。

 目の前に破壊された馬車の幌が見えた。

 幌馬車の荷台ど真ん中だ。

 素早く周囲を見回すと馬車の前方、御者台の真裏辺りに何かある。

 小さく蹲った人影か。


(……御者の他にも人がいたのか)


 痛い背中を庇いながら人影に近づく。

 暗がりの中、頭を抱えて震えている。

 長い髪、田舎っぽいスカートから足が見えた。


(これは女だよな。御者の奥さん?娘?声を掛けた方がいいのか?

 ……でも、なんて声をかければ?アメリカ人?英語?)


 口をついて出たのは中学校教科書の英語の例文だった。


「ハ……ハロー、ナンシー!?アイ・アム――」

「!!!! Eeeeeeeek!! Fxxk! Fxxk!! Get out!! Get out!! Get out!!」


 最後まで言い終わらないうちに英語の絶叫が耳に刺さる。

 背中にも刺さる。

 ちくしょう、ファックだぜ。

 御者台の男が慌てて客車を覗きこんできた。

 あ、ヤバイ。目が合った。

 今度は棍棒じゃなくて弾丸が飛んで来るぞ。


「GROAAAAA!!」


 女の叫び声を契機に鎧熊が雄叫びを上げる。

 心なしか全部英語に聞こえる。

 鎧熊が再び馬車に攻撃しようと近づいて来た。

 棍棒をやたらと振り回して馬車を破壊する。

 馬車の台車部分が見る間に壊されていく。

 大小の木片が容赦なく俺と女に降りかかってきた。

 せっかくの奇襲攻撃が大失敗(パー)だ。

 だけど、こいつに攻撃すれば御者台の男も客車の女も分かってくれるに違いない。

 俺はあんた達の敵じゃないんだ。


 棍棒の攻撃範囲から逃れながら力を集中する。

 イメージはかめはめ何とかだ。

 波動何とか拳でもいい。

 両手にでっかい力を溜める。

 熊を一撃必殺出来る超パワーだ。

 レッドゲージで必殺技を叩き込む。


 一瞬、呼吸を止めて背中の痛みを忘れる。

 鎧熊に狙いを定める。

 馬車の後部が破壊され尽くし、鎧熊が見る間に乗り込んで来そうだ。

 大きく振り上げた棍棒を叩きつけるその間際――


「痛ってーんだよ、オラぁ!ぶっ飛べ、この野郎!」


 過去に放ったことの無いような強力な念動力(サイキック)

 目の前に突き出した両手から青白い炎にも似た巨大なエネルギーが放出された。

 ギャンともグシャンとも聞こえるような壮絶な音と光。

 振動が馬車を激しく揺らす。


 直撃を食らった鎧熊の身体が馬車から弾き飛ばされ、全身が引き千切られて消滅した。


 エネルギー弾は光跡を残して遙か彼方に飛んで行く。

 ――またしても静寂。


(そのまま、死ね。ざまあみやがれ!)


 まだ、鎧熊は何頭か残っているはずだ。

 だけど、痛みでもう身体が持たない。

 俺は前のめりに崩れ落ちた。

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