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もし、俺の超能力が異世界最強だった場合。  作者: 鶉野たまご
『第一章:青い炎と赤い森』
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第七話・蝶だってワイルド

 ――《遠隔視リモート・ビューイング


 洞窟の周りに広がる森の中を出来るだけ遠くまで視ることにした。

 五キロ、一〇キロ。

 森が開ける様子が見えない。

 上からはどうだろう。

 視界は森を抜け、高度から周囲を見渡す。

 森の向こうには草原が広がっていた。

 

 得体の知れない疲れたサラリーマンが何者だったのか、よくわからない。

 しかし俺は、どの超能力も今までとは比較にならないほど使えるようなった自分に気づいていた。

 と言っても、何でも思い通りに使えるわけではない。

 例えば遠隔視リモート・ビューイングは、あまり遠くを視ようとすると位置関係をロストする。

 自分が何処にいて、どの辺りを視ているのかわからないくなるのだ。

 出来ることと理解することの間には、大きな差があることがよくわかった。

 持って生まれた才能の差なのかも知れない。

 

 周辺には森と草原しか無いことがわかった。

 ここは絶対に俺の知っている日本じゃない。

 遠くに山も見えなければ、高圧線の鉄塔もない。

 仕方なく移動することにした。

 迷わないよう目印が欲しい。


(本当は地図が描けるといいんだが……)


 森と草原では地図にならない。

 カバンをガサゴソと探ると幸い油性ペンを発見した。

 これでめぼしい場所に印を付けるくらいしかやることがない。


 長い距離を歩くのはしんどい。

 カバンは抱えているのが邪魔になって背負うことにした。

 瞬間移動(テレポーテーション)で飛びたいが、移動先に木があると大変なことになる。

 位置関係がはっきりしていない場所に移動するにはリスクが高過ぎる。

 最悪、木の生えている場所に移動してしまう。

 試すのは森を出てからにしよう。

 歩いている限り、失敗して樹の幹に嵌り込むことはないからな。

 "きのなかにいる"なんてまっぴらゴメンだ。

 案外使えないな、超能力。


 二三時間は歩いただろうか、時計がないから時間の感覚がわからない。

 スマホが使えないのは痛い。

 壊れてないといいんだが。

 確認した時にガラスは割れてなかったが、修理代は結構掛かるからな。

 歩いている間、他人のスマホや時計を持って来(アポーツす)るのは何度やっても成功しなかった。


 木々が切れてきて森から抜けだしたようだ。

 目の前が開ける。

 遠隔視で見た通り、そこには広大な草原が広がっているだけだった。

 辛うじて一本の道がある。

 当然ながら舗装なんてされてない。


 つい先日、富士の樹海に行ったばかりなのに、またこんなに歩かされるのかとぐったりした。

 年寄りじゃあるまいし、森林浴がしたいワケじゃねーよ。

 健康長寿でピンピンコロリか。

 それとも、グレート・レースでも参加させようってのか。

 無駄に健脚が鍛えられちまうぜ。

 ゴールの見えない遠足に悪態をついていると、蝶が一匹飛んでいるのが目についた。

 麗らかな春の日差しに誘われたように黄色い花の周りをヒラヒラと飛んでいる。

 同じように花に寄ってきた蝿みたいな虫が蝶に近づいた瞬間、ガブリと捕食された。

 ほら、鍛えれば蝶だってこんなにワイルドじゃねーか。

 こんな蝶見たことないわ。


 疲れてもいたが現実感がまるでない。

 まさか天国なんじゃとも思う。

 ……俺って階段から落ちて死んじゃった?にしては神様も出てこない。

 ああ、でもなんか腹が減ってきたような気がする。


 学校の階段から落ちたのは夜中だったと思う。

 日差しの感じからして今はどう見ても昼を大きく過ぎている。

 そうすると一二時間以上は何も食ってない計算になるな。

 そりゃあ腹も減る。

 だけどこの辺にコンビニなんかないよな……。


 傾き始めた陽を眺めつつ移動することにした。

 アテはないがここにも何もない。

 春先と言っても夜は寒いだろう。

 ここが日本と同じ気候だったらの話だが。

 森から始まる一本道をひたすらに歩いていく。

 道があるということは誰かいるってことで、その先には町か村があるはずだ。


(せめて屋根があるところに着かないと、だぜ……)


 元の遺跡に戻る手もあるが、食料が無いのはとても困る。

 森の中には怪しいキノコくらいしか見当たらなかったし、果物があるとは思えない。

 こんなことなら女子ばりにカバンにお菓子を詰め込んでおくべきだったかも。


(……ああ、そろそろ日が沈むな)


 日が沈む前にもう一度遠隔視で周囲を探る。

 視えるのは森と草原ばかりだ。

 この道を進むと交差する他の道があることがわかった。

 ただし、その先にあるのはやっぱり森だ。

 人は何処に住んでいるのだろう。


 目が疲れてくる。

 慣れない能力はあまり連続して続けられないな。

 目を休めているうちに太陽が見えなくなっていった。

 いっその事、行けるところまで瞬間移動で飛ぶことにしよう。

 俺は瞬間移動をイメージする。

 身体全体が遠くに移動するイメージ。

 この道を行けるところまで移動するイメージ。

 迷わず行けよ、行けばわかるさ。


 《瞬間移動(テレポーテーション)


 ふわりとした浮遊感。

 視界の一瞬の途絶。

 ドスンッ、バシャっと水っぽい音。

 尻から落ちた。

 嫌な予感。

 移動先のイメージが足りなくて、水溜りに落ちたようなヒンヤリとした感触。

 よく考えて飛ばないとそのまま崖下にダイブすることだってあり得る。

 先天的な瞬間移動者(テレポーター)は移動先が視えているらしいが、俺のようなニワカにはまだ出来ない。


「くっそ、ちくしょう。制服が汚れちまう」


 急いで水溜りから這い出した。

 何だかゴタゴタしたものが散らばっている。

 暗くてよくわからないが尖ったものの上に落ちなくてよかった。


 周りは相変わらずの草原だ。

 しかし、一〇キロくらい飛んだだろう。


(もう何回か飛んでみれば違った景色も視えるかもだな)

 

 と、そこまで考えて手に妙なヌルツキを憶えた。

 そして、すぐ近くからガサゴソと草を掻き分けるような音、そしてなんとも言えない匂い。

 そう、子供の頃、動物園で嗅いだことのあるようなキツイ匂いがすぐそこにある……。

 何年も洗っていない犬のような獣の匂いが周囲に立ち込める。


 俺は制服のポケットから急いで油性マジックを取り出した。

 結局目印に使わなかった油性マジックだ。

 もどかしくキャップを外すと火をイメージする。

 この世界のどこかにある火をちょっとだけ借りていくるイメージ。

 懐中電灯はダメでも火ならイケるかも。


 《物体引寄(アポーツ)


 油性マジックの先端に淡い火が灯った。

 今度は上手くいった。

 瞬間移動を応用した物体引寄せ。

 インドあたりでは別名、物体引寄(サイババ)というらしいが由来は不明だ。

 引き寄せるものが上手くイメージできれば物体じゃなくても引寄せられる。

 油性マジックが非常時に蝋燭代わりになるのはテレビで見たことがあった。

 テレビも少しは役に立つことがある。


 腰高の草原に灯った小さな明かり。

 目の前には赤黒い水溜りと横たわった生き物の死骸。

 目を背けたくなるようなまさに残骸が転がっていた。


「ぎゃああ!うぇぇ!」


 思わずリバースしそうになって、口元に寄せた掌も赤黒く塗れている。

 

(――これは血だ)


 俺は死骸から流れ出た血溜まりの真上に飛んで、落ちたのだ。

 そして、照らす明かりの先には何頭もの野犬のようなものが周囲を取り巻いていたのだった。


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