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もし、俺の超能力が異世界最強だった場合。  作者: 鶉野たまご
『第一章:青い炎と赤い森』
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第六話・帰るまでが遠足です!

 高校では大した事を教えてはくれなかった。

 能力別に小手先の技術の向上に主眼が置かれていたからだ。

 超能力は十五、六才までに使える力の上限が決まると言われている。

 体内にゲージがあると思えばいい。

 ゲームで言えばSPみたいなものだ。

 使えばなくなる。

 才能がある奴はゲージの数値が高いってことだ。


 俺は何とか一発逆転の方法を考えていた。

 普通のやり方ではダメだ。

 もっと、格闘家が山篭りで熊を倒すような劇的な何か。

 ならば山篭りだと、キャンプ用品店で山籠りの道具を探しに行って店の親父に説教されたりもした。

 何が「山は遊びに行く場所じゃない!」だ。

 やられるギリギリ、レッドゲージにならないと超必殺技は使えないんだよ。


 それじゃあ、と富士の樹海に行くことにした。

 電車賃は痛いがキャンプ用品より安くつく。

 日帰りで行ってこれるのも魅力的だ。

 いっそのこと帰って来なくてもいいんじゃないかとさえ思っていた。


 「命を粗末にしないでね!」とか「ハードディスクは消したのか?」みたいな、自殺を思い留まらせる看板がいくつも目についたが死体には出会わなかった。

 遠隔視リモート・ビューイングで定期的に巡回をしているのかも知れない。

 誰だってハイキングの途中で第一発見者になりたくはない。

 「早まるな!只今、監視中」といった注意書きを見ると俺も只今監視中で、今にも補導されるのだろうか、と内心びくびくしていた。

 こんなところで捕まったら家族に何を言われるかわかったもんじゃない。

 

 山篭り+死にそう=富士の樹海という安易な発想だった。

 具体的に何をすれば良いか、思いつかないまま歩き続けた。

 いつの間にか周りは暗くなっていた。

 最終バスの時間までに帰らなければ、ここで夜を過ごさねばならないだろう。

 一日家に帰らない程度では捜索願も出ないはずだ。

 どうせ見えてないしな。

 家族の誰かが遠隔視リモート・ビューイングで見つけて放っとくかもな。

 そんなことを考えてフラフラと歩いていると、前方から何だか疲れたサラリーマン風の男がやって来た。

 こんな時間に、こんな場所で他人と出会うとビビる。

 しかも疲れた感じの負のオーラが出ている。

 精神感応(テレパシー)がなくてもこのサラリーマンのマイナス思考は読み取れそうだ。


 ところが、疲れたサラリーマンは俺の目の前に来て突然素っ頓狂な声を上げた。


「残念ながら、キミは選ばれましたー!」


 第一声がこれである。何だこいつ。

 矢鱈と陽気な声だった。


「何なんですか、あんた」

「キミには悪いですけどー、キミは選ばれたんですー」


 目付きがおかしい。

 なんかおかしなクスリでもやってるんじゃないか。


(これは、目を合わせない方が良さそうだな……)


「いやいや、キミ。そんなこと思わずにこっちを見て下さいよー」


 ハッとして、咄嗟に口元を押さえた。

 独り言が口から出たのか?いや、心が読まれているのか。


(……?この人、精神感応者(テレパシスト)?自殺防止連絡会の巡回員とか?)


「ブーッ。違いますー、そんなじゃないですー。ただの疲れたサラリーマンですー」


 ネジが飛んだような話し方を除けば、たしかに疲れたサラリーマンにしか見えない。

 死に場所を探しているのでなければ、樹海にいるのが不釣り合いなことこの上ない。


「死に場所を探してじゃないですー。山籠りでもないですー。キミにね、ちょっと残念なプレゼントを渡しに来たんですー」

「残念なプレゼント?っていうかなんでこんな富士の樹海で渡す必要があんですか、ていうか他人の独白(モノローグ)を読むあんたは誰だよ!」


 どう考えてもおかしい。

 そもそも俺が樹海に来ようとしたのは今朝のことだ。

 誰にも言ってない。

 誰が俺の行動を予知するって言うんだ。

 やっぱり、自殺防止連絡会か?

 樹海行きのバスに乗った若者の行き先を監視するとか。

 結構ありそうなことだな。


(つまんねー話だな。結局大したことは出来ないんだな)


 ため息が出る。


「そんなんじゃないですー。キミらのそういう勘違い、良くないよ―?よくなくなくなくなくなくないよー?」


 他人の神経を逆なでするような口調にカチンと来た。


「うっせーな、何がだよ。

 俺はもっと自分を何とかしてみたかったんだよ。

 あんたらのお節介で家に通報されて、親が謝りに来てとかされると益々居場所が無くなるんだよ」


 八つ当たりだったと思う。

 誰にも相手にされず、能力は足りず、認めてももらえない。

 超能力を持たない友達は高校に入る前から近づいて来なくなった。

 超能力を持った友達は高校に入ってあからさまに見下してくるようになった。

 半端な力を持っている事がこんなに辛いのならば、最初から無い方が良かった。


 ……でも、そうしたらもっと辛かったかも知れない。

 先輩には会えなかったに違いない。

 

 俺はサラリーマンの目を見据えた。

 サラリーマンは疲れた顔でニコニコしている。

 何だこいつ。

 何がしたいんだ?


「おい、あんた。何か知らないが俺にくれるんだろ?何が目的なんだよ。

 俺みたいな小僧に何をさせたいんだよ」

「んー、本当はですねー、キミは特殊ケースなんですよー。スペアですー」

「スペア?それはどういう――」


 と質問を言い切る前に激しい衝撃を食らった。

 ビッターンッとまるで全身に食らう平手打ちだ。

 鼓膜が破れるような衝撃。

 体ごと何回転かして元に戻る。

 脳みそが洗濯機に掛けられたように足元が覚束ない。

 視界が揺れてサラリーマンの輪郭が怪しくなる。

 手を振っているようにも見えるが次第に原形を留めなくなっていく。

 身体の色が混ざったかと思うと、とぷん、と溶けてなくなった。

 そして、誰もいなくなった。


「面倒くせーから色々聞かないで下さいね―。プレゼントは差し上げましたー。

 返却は出来ませんー。

 ちょっと体調が不安定になるかも知れませんが、後は自宅で安静にしてくださいねー(はーと)」


 サラリーマンの声が脳みその奥から聞こえた。俺は何故かその言葉に逆らえず自宅に引き返した。


「帰るまでが遠足ですよー!」


 サラリーマンの声がしつこく響いた。

 俺の超能力が今までとは見違えるように強力になったのは翌日からだった。

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