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もし、俺の超能力が異世界最強だった場合。  作者: 鶉野たまご
『第一章:青い炎と赤い森』
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超能力のつかいかた

「――イテテテテ……」


 気が付くと頭が割れるように痛い。

 何かで激しく打ち付けたような痛みが走る後頭部を撫でながら立ち上がる。

 タンコブが出来ている気配はない。

 一安心だ。

 目の前には見たことのない古めかしい階段のホール、続いているのは石造りの階段だ。

 辺りはやけに薄暗く周りを見通せない。


「……?ここ、どこ?」


 記憶が混乱している。

 俺は今何処にいる?

 私は何処?ここは誰?今は何時?西暦二〇十……?

 そう、そういえば俺はカバンを取りに夜の高校に行ったはずじゃあ……。

 制服を来てるし上履きのままだ。

 上履きの裏は煤で黒くなっている。

 火事場だったからな。

 足元には確かに教科書が詰まったカバンが落ちている。

 拾って確かめると俺の物だ。


 目が徐々に慣れてきて周囲を見回す。

 まるで古代遺跡のような建物だ。

 その内部にいる。

 薄暗いが明かりが灯っていた。

 電灯があるようには見えない。

 よく見ると所々で壁面自体が発光しているのだった。


(何だか知らんが、随分と手の込んだ演出をしているな……)


 と思ったが、そもそもここは俺の知っている高校じゃない。

 寝ているうちに何処か知らない場所に運び込まれたのだろうか。


 階段の正面には祭壇のようなものが設けられていた。

 壁面には何か複雑な文様が書き込まれている。

 魔法陣のようにも見える。

 五芒星や六芒星が書かれているわけではなく、文字も読めない。

 よくわからないが宗教施設だろう。


「なんか……どうなってんの?」


 もう一度声に出してみる。

 声は建物に反響してわんわんと響いた。

 実感が湧かないが、どうやら見知らぬ場所に連れて来られたらしい。

 咄嗟にスマートフォンを取り出して時間を確認する。

 が、スマホは暗転(ブラックアウト)したまま何の反応も示さなかった。

 電池切れか、壊れたのか、とにかく動かない。

 結構暗いな、もう少し灯りが欲しい。

 懐中電灯が必要だ。

 この際、超能力で持って(よそからかりて)来ることにした。


 俺は右手に懐中電灯をイメージする。

 できればアメリカ軍で使っているような頑丈なやつだ。

 ついでに武器にもなると尚良い。

 大きくて黒くて硬い、懐中電灯のイメージ。


物体引寄(アポーツ)》 


(……?)


 右手が空を掴んだ。

 掌をグー、パーと何度も開閉する。

 重さも感触もない。

 ……物体引寄に失敗した?

 本来だったら、誰かの所有している懐中電灯が右手に引寄せられているところだ。

 頻繁にやると窃盗で捕まるから使うのはたまに、だ。

 腹が減った時とか。

 それにしても、この程度の大きさで失敗することは珍しい。

 別に冷蔵庫を丸ごと持って来ようってんじゃないんだ。

 頭を打って感覚が狂ってるのだろうか。

 とにかくここが何処かわからないのは不安だ。

 どうにか外に出られないだろうか。

 カバンを掴むと俺は階段を上がってみることにした。


 長い階段を登り切ると狭い通路に通じていた。

 その先が明るい。


(おっ!?) 


 どうやら外につながっているようだった。

 明かりを頼りに進んでいくと、建物の外に出た。

 扉のようなものは無い。

 外は鬱蒼とした木々が生い茂る森のようだった。

 振り返ると小高い山の麓に今通ってきた洞窟の入り口、と言った趣だ。

 苔生した壁面が年季を感じさせる。


(なんか、日本じゃないみたいな……)


 見渡す限り見たこともないような木々が生えている。

 樹木に詳しいわけじゃないが、目の前にある木々は杉や松には見えない。


(ひょっとして誘拐?拉致監禁……?)


 誘拐にしては犯人が見当たらないし、手足が縛られてもない。

 そもそも誘拐される程俺の家は裕福じゃない。

 おかしな連中に目を付けられるような事をした覚えもない。


 外に出られたのだから、ここが何処か周囲を探索してみることにした。

 こんなときに役に立つのが超能力だ。

 今度は成功することを祈る。


 俺は目を瞑ってイメージする。

 自分の視力が遠くに行くイメージ。

 遠くの風景が映し出されるイメージ。


遠隔視リモート・ビューイング》――


 俺の高校は国家のためのエリート超能力者を養成する高校だった。

 超能力――そう言えば聞こえはいいが、実際は五〇〇人に一人くらいは持っている能力だ。

 足が早いとか暗算が得意とかと同じような、ちょっと特殊な能力と思えばいい。

 スプーンを曲げる、なんとなく他人の考えがわかる程度の奴は子供の頃からいくらでもいた。

 今思えばその頃から英才教育が始まっていたのだろうが、その程度の力は実生活ではスカートめくりにすら役に立ってなかった。

 その中で特に強力な超能力を持った人間を選別し、養成するのがこの高校の狙いだ。

 技術開発や産業育成、犯罪抑止に生かすための制度でもある。


 超能力の評価は能力なしのレベルゼロから測定限界のレベル九まで十段階。

 高校に入学する際には以下の基本的な五項目の能力が試される。


 ・念動力(サイキック)・・・・・・・・・・・物体を移動することが出来る。

 ・精神感応(テレパシー)・・・・・・・・・・他人や動物の思考が読める。

 ・遠隔視リモート・ビューイング・・・・・・・・・・遠く場所や隠れた場所を見ることが出来る。

 ・未来予知(プレコグニション)・・・・・・・・・・未来を知ることが出来る。

 ・瞬間移動(テレポーテーション)・・・・・・・・・・自分や物を瞬間的に移動出来る。


 エリート教育を受けられる特進クラスは最低でも一項目で測定限界が必要だった。

 当時の俺は念動力(サイキック)で入学基準ギリギリのレベル四を記録し、他は殆どゼロだった。

 レベル四の念動力(サイキック)は自分と同じくらいの物体を移動させられることが条件だ。

 レベル一では消しゴム程度の小さなものを僅かに移動させられる程度の力しか発動しない。

 入学試験で出した俺の全力の念動力(サイキック)は、巨大なダーツの的、あるいは体力測定のボール投げのような同心円の中心にある丸めたマットを十メートルふっ飛ばした。

 その結果、俺は翌日まで動けなくなる程疲労した。


 超能力は遺伝の影響が大きい。

 といっても同じ超能力が遺伝するわけじゃない。

 基本五項目が影響することで他の能力を開花することも多い。

 簡単な応用が物体引寄(アポーツ)遠隔聴(リモート・ヒアリング)などだ。

 人の代わりに物を持って来る、遠くを見る代わりに遠くの音を聞くのだ。

 その他、小説に映画にと出番のよくある、ファイアスターターやサイコメトリーなど様々な能力を持つ者がいた。

 俺の両親は共に超能力系の大学を卒業して、その力を仕事に活かしていた。

 精神感応(テレパシー)で国立の心療内科に勤める母、政府の外郭団体で未来予知(プレコグニション)を使った株価予測をする父。

 両親の超能力レベルがどの程度だったのか聞いたことはない。

 仮にレベル九の能力を持っていても、誰の心でも読み解けるわけではないし、どんな未来も予測できるわけではない。

 人の心は心理状態や環境、相手との人間関係に左右されるし、未来は常に一定の変動幅を押さえ込むことが不可能なのだ。

 しかし、高レベル超能力者と一般人との間には圧倒的な差があることもまた事実だった。

 

 俺は男ばかり年子の三兄弟の三番目。

 両親は随分とお盛んだったんだなと改めて思うと反吐が出る。

 俺だけが小中高、一度も告られないくらいの普通面(フツメン)で、いつでも女の子達に囲まれていた兄達とは違った。

 高校の入学式で新入生を迎える言葉を語る、生徒会長の一番上の兄を横目に、


 (もしかして俺って"種"が違うんじゃねーの?)


 と思わず過ぎった思考を読まれて以来、母親と会話した記憶がなかった。

 勉強も出来て、超能力でも特進クラスに進学するような二人の兄といつも比べられた。

 超能力者として落ちこぼれた俺の将来は家族にとって絶望的であり、両親は俺を見えない君扱いした。

 勉強の出来不出来なんて関係なかった。

 我が家にとっては超能力を持たざる者は家族として認められなかった。


 それでも俺は諦めきれなかった。

 高校に入った事だって自分から望んでだった。

 あの頃の俺はまだ純粋な中学生だったし、俺にも憧れの先輩がいたのだ。

 

 中学までの義務教育期間に何度か行われる超能力検定。

 そこで有為な成績が認められた生徒は放課後や週末を使って特別授業が受けることが出来た。

 先輩は二番目の兄と同学年。

 特別授業の時にはいつも近くにいて、何かと気にかけてくれていた。


 その先輩も高校では特進クラスに進み、俺とは接点がなくなっていた。

 先輩を振り向かせられなくてもいい、あの時はただ、近くに居たかっただけだったと思うんだ。

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