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もし、俺の超能力が異世界最強だった場合。  作者: 鶉野たまご
『第一章:青い炎と赤い森』
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第二話・面接万歳!


「……それではそちらから順番に名前、種族、年齢、性別、志望動機をお願いします」


 春の午後、柔からな日差しが差し込む会議室のような部屋で木製の長机に男が三人並んで座っている。

 三人共に宮廷に仕官でもしているような揃いの綿シャツを着ている。

 彼らは一民間業者の面接官だと思うのだが、この気合の入れようはなんなのだ。

 正対するのは俺を含めて七人。

 今日の午前中から募集を始めて既に七人もの応募があったということか。

 やっぱり人気の求人だ。

 三銀貨も出れば当たり前だな。

 しかもやることは軽作業。

 応募しない方が損だ。


 俺は応募者の一番左端の椅子の座っている。

 両手は軽く握り拳、両足は開き過ぎないように注意だ。

 男の場合は拳一つ分くらい隙間を作るべし。

 背もたれ……はないから顎を引いて背筋をまっすぐに。

 足先は平行になるように揃える。

 これで完璧、パーフェクト。

 きっと面接官に、間違いなく「こいつっ、デキる!!当選確定!!」と思われてるぜ。

 他の連中が適当すぎるからな。


 面接官の他にこの部屋にいるのは右から順番に、ソフトモヒカンに棘々しい肩パットの世紀末の下っ端風黒豚(オーク)

 スケイルメイルに(ヘルム)を小脇に抱えた、チロチロとひっきりなしな赤い舌の鬱陶しい蜥蜴人(リザードマン)

 煙管を咥えて貫頭衣に青い毛並みの狼族(ウェアウルフ)

 小汚い、フードを目深に被った人族。

 神経質にハンマーをコツコツ叩く、顔がヒゲだらけのドワーフのじじい。

 真っ赤な(スタッフ)を弄っているダークエルフの男。

 そして、綿の服に綿のパンツ(ぬののふく)、完全街人ルックの俺――だ。

 本当なら制服とネクタイの正装にしたいんだがちょっと目立ちすぎるから無理だ。

 俺は今、単なる一般市民として擬態化している。

 意味もなく目立ったところで俺に全く利益がない。

 俺以外は腕を組んだり、足を組んだり好き放題だ。

 お前ら面接受ける気ないだろ。

 俺が一番上品で真面目で賢いのは絶対に確実だ。


 それにしても、この世界はちょっとした街を歩いているだけで本当に異世界だと実感できる、できてしまう。

 でなければファンタジー映画の撮影現場だ。

 この世界に来た当初は猫や犬の顔した連中が喋ってるだけで唖然としたもんだ。

 特に爬虫類なんかどうやってしゃべっているのか、声帯はどうなっているのかと首をかしげた。

 もっとも、慣れればどうってことはない。

 非日常が日常ですってだけだ。

 CGもVFXも最初はスゲーと驚くが、そのうち当たり前のものとして受け入れてしまう。

 人間は慣れることで進化してきたのだ。


 それにしても、この世界(ここ)には実に様々な人種が住んでいる。

 肌が白いとか黒いとか黄色いとか、そんなちっぽけな違いは誤差の範囲だ。

 髪が長いか短いか、あるかないかくらいの差でしか無い。

 いや、髪は長い友達、とっても大事だけどな?

 ここでは太くて立派な角が生えているとか、全身がモサモサの毛で覆われているとか、身長が三メートル位あって血を見ると性格が豹変するとかの目に見えて大きな違いがないと人種が違うと思えない。

 それほどに多様な人種に溢れている。

 人種は大きく分けて三種類いる。

 まずは無毛族。

 人族、ドワーフ、エルフ、小人族のような見た目が人間に近い種族。

 ハゲが多いとかじゃなくて体毛が短いからそう呼ばれている。

 俺にとっては比較的親しみやすい部類だ。

 見ていて違和感がない、というか不安にならないからな。

 とってもファンタジーだが。


 次に長毛族。

 狼族(ウェアウルフ)虎族(ウェアタイガー)、オーク、蜥蜴人(リザードマン)のような獣人。

 リザードマンが長毛族って言われると不思議だが、祖先が鳥人なんだからだと。

 猫とか犬なんかが二足歩行して、服着て喋ると思えばいい。

 ちなみに鳥人は絶滅したわけじゃなくて連中も現役だ。

 鶏よろしく明け方にコケコッコーと喚くので、周りからよく怒鳴られている。

 本物の鶏が鳴いた時も勘違いされて怒鳴られているので、ちょっと涙を誘う。

 話が逸れた。


 最後が魔族。

 俺は今まで見たことが無い。

 南の大陸には魔族の国があるらしい。

 聞いた話では連中はとてつもなくオラオラ系で人類最強なんだそうだ。

 "ババーン、キャー!触るな危険!"って感じだな。

 是非とも、遠くで幸せになって欲しい種族だ。

 今後一切、俺には関わらないでくれ。


 面接官に指し示されたオークから自己紹介が始まった。


「オレはポルコ、鮮血(ブラッディ)・ポルコ、屠殺者ポルコポルコ・ザ・ブッチャーだ。『赤い森』を知ってるな?ここだけの話、あれは俺だ。」


 おおう、三〇秒かそこらの自己紹介で二つ名が二つとかすげーな。

 二つ名ってのはそういう意味じゃねーぜ、ポルコさんとやら。

 アンタは翔べる豚なのかよ。

 それと赤い森の話はすんな。


 面接官は初っ端からの飛ばした自己紹介にも特に失笑するでもなく、何かメモを書き付けている。

 志望動機も年齢もないけどいいの?どうなの?

 彼らの目線はすでに隣の蜥蜴男に向かっている。

 実は年齢とかどうでもいいんだな?この面接。


「私はカミーロ・カミーロ・イグレシア、蜥蜴人(リザードマン)、年齢は一二四才、男だ。訳あって流浪の中にある。

 過去には宮廷剣術指南を務めていたこともある」


 パチパチと瞬きを繰り返しながらしっかりとした話し方をするトカゲ。

 意外と緊張しているのか、このトカゲ。

 表情の読めない奴だな、随分とじじいだし。


 この世界では種族毎に寿命が全然違う。

 六〇才の人族はヨボヨボの年寄りなのに比べて、一〇〇才になっても元気ハツラツ!な種族もいる。

 トカゲは脱皮する度に肌スベスベなんだろう、きっと。

 一〇〇年分の脱皮した皮を使って自分のスケイルメイルを作ってるわけではあるまいな。

 スケイルメイルが動物の鱗じゃないことは知ってるけどさ。


「リヒャルト・ヴォルフスブルク、傭兵だ……」


 続く狼男は寡黙でハードボイルドだ。

 咥え煙管(タバコ)も様になっている。

 触るもの皆傷つけそうな雰囲気を醸し出してる。

 怖いからあまり触れないようにしよう。


 ところで俺は今回の求人を職人ギルドで知った。

 何故ならば、俺が職人ギルトに登録しているからだ。

 なのになんで鮮血(ブラッディ)だの、剣術指南だの、ハードボイルドだの傭兵ギルドや冒険者ギルドにいそうな奴ばかりがいるのか。

 そこらの野蛮なギルドにも求人が出てたのか。

 野蛮な奴らに頼む軽作業ってなんだよ、落ち武者の首でも運ぶのかよ。

 だったら仕事内容は"軽作業"じゃないよな、それは戦闘の後片付けだぜ。

 ふざけんなよ、詐欺求人だ、ブラック企業だ。

 俺だけでも簡単な軽作業(おしごと)をやらせておくれよ。

 頼むぜ、面接官様。


「アシュリー・ランズダウン、……人族、一六才の女です。精一杯頑張ります。よろしくお願いします」


 狼男の隣に座る小汚いフードの奥から弱々しい声が聞こえた。

 やっぱ止めようかこんなブラック面接。

 と、思っていた悪態は一瞬で消え失せた。

 雲の如くだ、雲散霧消だ。

 十六才の女?いや、いやいや。

 ちょっと、フードとってみよう。

 室内で帽子やフードは失礼に当たるって知らない?

 フードの女は身じろぎ一つしない。

 俺の念力でフードを跳ね上げたり、こっちを向かせたりできないだろうか。

 おっさんばかりで緊張してるのかも知れない。

 俺と一緒でなんか場違い感いっぱいだし。

 実は面接会場間違えてました?ってことで俺と一緒にここから出て行こう、そうしよう。

 優しく手を引いてリードしてあげよう。


 思えば俺はこの一年以上も友達も作れず、身元がバレないようにコソコソと這いずりまわる暗黒の日々だったんだ。

 そろそろ皆に俺の過去を忘れてもらって、心機一転させていただきたいところだ。

 同じ職場の女の子と仲良くなって、同じ家で生活するようなキャッキャウフフの夢を見たっていいじゃないか。

 ……あんなこと(・・・・・)になったのだって、あれには理由があったんだ。

 ……未だに夢に見るんだ、ちくしょう。

 もう、昔のことは忘れて、脳天気に生きたっていいじゃないか。

 約束はもう守れないかも知れないけどな。


 胸の奥に渦巻く赤黒いモノに囚われて、女に続くドワーフだのダークエルフだのの声は全く耳に入ってこなかった。

 俺の中に在る、様々なモノが何かの拍子に湧き出してしまわないかと心が怯える。


 そして俺の番が来た。

 面接官の視線を受けて緊張する。

 直前に感情の暗黒面に落ちた俺の情緒はもうぐらぐらしている。

 倒れる寸前の独楽だ。

 やめろ!お前ら、俺を……見るな。


「ア……ネオン・ブラックウッド、人族、一八才、男だ……です。給料、じゃなくて、御社の雇用条件が非常に魅力的なため、というかちょっとした魔法が使えます!頑張ります!!」


 一日三銀貨だ、頑張らないと。

 ダメだ、余計なことを言った。

 魔法が使えるとか隠さなきゃじゃないか。

 俺は、緊張のあまり面接を完全に失敗した――。

 ……ちくしょう。

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