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もし、俺の超能力が異世界最強だった場合。  作者: 鶉野たまご
『第一章:青い炎と赤い森』
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第十三話・はじめて、の、おつかい。

 村から村への移動には基本的に馬車を使う。

 当然ながらこの世界に自動車なんてものはない。

 剣と魔法の世界なのだから。

 別に剣と魔法の世界に電気やガソリンがあっても不思議ではないと思うんだけどな。

 某国産RPGではイケメン主人公がバイクや車に乗ってたしな。

 ちなみにレオが盗賊の撃退に使っていたようにライフルを始めとした銃は存在している。

 魔法に頼らなくても火薬があれば銃は作れるのだ。


 村には共有財産として何頭もの馬が飼育されている。

 この村の収入源は主に狩猟で得た獣の肉や毛皮、その加工品だ。

 農耕馬や馬車馬はいっぱい飼っていても飼育が大変なだけで無駄なので、必要最低限しかいない。

 牧畜は主に豚と羊でこいつらは食用と搾乳に飼われていた。

 牛は飼育が大変だから飼っていないのだとか。

 でかいからな。


 ――牧童を手伝うことになった初めの頃、やり方を教えてくれた村のじい様に聞いたことがある。


「この世界って豚族(オーク)とか羊族ってのもいるんだろ?」

「羊族ってのは会ったこたぁねぇが、いるだろうなぁ」


 老人は手早く羊の乳を絞りながら答えてくれる。

 俺も見様見真似でやって見るがどうにもうまくいかない。

 乳首を捏ね繰り回してるからじゃないんだぜ?


「じゃあ、この豚とか羊が喋ったりすることはあんのかい?」

「そんな恐ろしい豚ぁ見たことも聞いたこともねぇぜ」

「服着たり、二足歩行したりすることも?」

「そんな奴ぁ、それこそ豚族(オーク)じゃねぇのかぃ」


 老人は手を二頭目、三頭目とスイスイと仕事を熟していく。

 俺は一頭すらまともに搾乳できない。


「じゃあさ、豚族(オーク)は豚肉食ったりすんのかな?」

「知らねぇけぇが、すんじゃねぇのか」

「それって共食いにならないの?」


 老人は手を止めてきょとんとしてこちらを見た。


「おめぇだって猿食う時ぁ、共食いだって思わねぇだろうよ」

「……なるほど、な。そりゃそうだ」


 俺はようやく一頭目の搾乳を片付けると一息入れた。

 つまり、この世界では二足歩行で喋ったり服を来たりする動物を纏めて人間と呼ぶことにしているということだ。

 それが人間と動物の境界線だ。

 それが世界の選択か、ということだな。

 猿肉とか猿の脳みそのシャーベットなんてのは、ジョーンズ先生じゃあるまいし食いたくもないが。


 幌馬車に干し肉、羊毛に毛皮その他加工品や木工細工を積んで出掛けることにする。

 藁は主に緩衝材として何時でも積んで行くという。

 野宿する時には馬の餌にもなるし、布団代わりにもなるからな。

 俺の背骨を助けてくれた頼もしい存在(なかま)だ。

 感謝してもしきれない。

 この幌馬車は熊族(ウェアベア)の襲撃でぶっ壊された物を作り直したものだ。

 壊れなかった前半分と新材で作った後ろ半分が継ぎ接ぎになっている荷台は俺に嫌な記憶(トラウマ)を蘇らせた。

 荷物は意外に嵩張る量だったが、荷台にはまだスペースが余っている。

 俺は色々と嫌な思い出が溢れ出しそうだったので御者台に座ることにした。

 御者なんてやったことはないから馬車の操縦はレネ任せだ。

 シルビアも一人で荷台にいるのは退屈だったのだろう。

 仲良く三人で御者台に座ることにした。

 俺達は村人に送り出されて村を出発した。


 村のある森を抜けると見渡す限り草原だ。


「……ところで、今日はどこに行く予定なんだ?」


 俺はこの世界に来て"はじめてのおつかい"である。

 どんな世界なのか見当もつかない。

 来たばかりの時は野犬みたいな獣に襲われて、熊族に殺されかけて血と森と草原しか見てないからな。


「そうさね、まずはドールマンの村に行って、アンタの事を村長に報告しなきゃなんないかね。

 その後、村長に頼まれたら他の村も廻る事になるかね、今日はレオが狩猟に行ってるからアンタは護衛の代わりだよ」

「ねー、あたしは?あたしも行かニャきゃダメかニャ?」


 シルビアがここまで来てなんとなく行きたくなさそうだ。

 せっかく俺の隣にいるんだからもうちょっとイチャコラしてくれてもいいんだぜ?

 

「ナニ言ってんだい、アンタがいなきゃしょうがないだろ。

 アンタこの前の時だって結局行ってないんだろう?

 あんまり構ってやらないとまたペーターが困っちまうじゃないか」


 軽快に手綱を捌きながらも「どうしたもんかねえ」という顔のレネ。

 レネの言う"この前"というのは三ヶ月前のことだ。

 ドールマンの村々は凡そ三ヶ月に一度の割合で村の商品を本家のドールマンの村に持って行く。

 その際に、本家ドールマンの村人が街で仕入れてきた様々な物を物々交換で手に入れる事になる。

 分家の村人は同じ日に合わせてやって来ることも多く、貴重な情報交換の場になっているのだった。

 場合によっては何日も本家ドールマンの村に滞在したり、他の村に行ったりすることもあるのだという。

 レオ達ははこの行事を『仕入れ』と呼んでいた。

 前回の仕入れの時には元々レオとシルビアが行く予定だった。

 ところが当日の朝になってシルビアが突然の腹痛を訴えて、結局レオだけで仕入れに行ったのだった。

 どう見ても仮病である。


(ひょっとして、俺はシルビアのダシにされてるんじゃねーの?)


 シルビアがぶーたれて俺の髪の毛繕いを始める。

 半年以上切ってない俺の髪の毛は随分と長くなっていた。

 今ならポニーテールが結べそうなくらいだ。

 始めは爪や指で毛繕いしていたシルビアがそのうちに顔を近づけて来た。

 まさか、舌で毛繕いなさるんですか、シルビアさん!

 彼女の目が座っているのがなんとなく視界に入る。

 猫族(キャット・ピープル)の舌は猫舌なのだろうか。

 そういうことを聞くとまた蔑んだ目で見られてしまうのだろうか。


「ちょっとアンタ達、そういうことは後ろに行ってやってくんないかい?」

「ニャッ!?」


 レネの言葉に俺がビクンとなって姿勢を正す。

 いや、俺は特に何もしてたわけじゃないんですけどね。

 シルビアと視線が一瞬絡む。

 シルビアは軽く舌を出して微笑むと毛繕いを止めた。

 彼女の舌はちょっとザラザラしているように見えた。


 今回の仕入れ、シルビアはどうやら本家ドールマンの村に行きたくない理由があるらしい。

 だけど、俺と一緒なら付いて行く気になる。

 ついでに俺の報告もドールマンの村長に出来る。

 一石二鳥ということか。

 俺としては正直、報告してくれなくても全然構わないんだからね?

 どうせ、「偉そうな村長がなんで今頃報告に来た!」とか、「お前はどんなことが出来るんだ?」とか偉そうに聞いてくるに違いない。

 そうなったら何にも出来ませんて言えばいいか。

 能ある鷹は爪隠すって言うもんな。

 英語でなんていうんだっけ。


 道中はレネの常識講座の時間だった。

 曰く、この世界には、


 ・長毛族、無毛族それぞれに国があり、支配する国王がいること。

 ・国には国王の下に領主がいて、領土を支配していること。

 ・領主は町長や村長を束ねていること。

 ・力のあるギルドや教会は領主に口出ししたり、それぞれに領土を持ったりしていること。

 ・何百年か前に『大併合(グレート・マージ)』が起こり、南の大陸が魔族に征服されたこと。


 などなど。

 もうちょっと詳しく聞きたいこともあったのだが、馬車の振動が心地よく、途中からシルビアと仲良く眠ってしまったのだった。

 f分の一の揺らぎって奴だな。

 ドールマンの村に着いた頃にはすっかり日が傾いていた。

 眠るまでシルビアとちょっとイチャイチャした。

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