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もし、俺の超能力が異世界最強だった場合。  作者: 鶉野たまご
『第一章:青い炎と赤い森』
12/23

第十二話・Custom makes all things easy.

 ★


 ――これは後に『ドールマン事件』と呼ばれる事件当日のことである。


 ◇


 俺がレオ・ドールマンの村に来てから半年近くが経過した。

 カレンダーや時計といった物は基本的に各家になんて置いてない。

 日時は村にある分教会が教会前にある掲示板や教会の鐘を使って教えてくれる。

 こういうものを管理することによって自分たちが村を運営している事を示しているわけだ。

 平たく言うと権威付けだ。


 時期はそろそろ秋になっていた。

 この地方の冬は結構寒いらしい。

 肋骨の骨折は完治したため、俺は主に雑用係として村の仕事を手伝っていた。

 と、言っても村人は主に狩猟で生計を立てていて俺には出る幕など無かった。

 狩猟に参加しても良かったのだけど、余所者が村人と連携して狩猟を行うには無理があるんだと言われた。

 超能力を使えば簡単に動物を捕まえられそうだが、余所者だから黙っていることにした。

 村人のプライドを刺激して波風を立てるのは良くない。

 お前なんか出てけ―っ!となると目も当てられない。

 目下のところ、俺の獲物はシルビアだけで十分だ。

 どうやらこれも時間の問題なんだけど。


 何しろ、この村には若者が少ない。

 家を継ぐ予定のある長男以外の若者は街に憧れて出て行ってしまうんだとか。

 村にはほとんど娯楽がないからだ。

 どこの世界でも若者は退屈で平凡な村の生活より、刺激を求めて街へ出て行ってしまうもんだ。

 仕事の他にやることがないし、これから冬になると雪も降ってきて尚更やることがなくなる。

 ヤることしかなくなって、夏くらいに子供が生まれるってことだな。

 ひょっとすると来年の夏には俺もパパになってたりなんて事があるかも知れない。

 猫族(キャット・ピープル)には猫と違って発情期がないからだ。

 シルビアにそのことを聞いた時、本気で軽蔑の視線を受けたことがある。


「アラタは知らないかもだけど、あたしたちに発情期(サカリ)の事を聞くのはタブーニャからね?

 動物と一緒にしないで欲しいんニャよ?」

「それはどうも申し訳ございませんでした」


 半年の間ひたすら英語漬けで暮らしているとそれなりに会話が出来るようになっていた。

 人間、習うより慣れろだ。

 足りない部分はジェスチャーとボディランゲージ。

 俺はジャパニーズ・ドゲザでなんとか許してもらった。

 なんだったら御御足を舐めさせて……ってそういう趣味はないけどな。

 軽蔑の視線を受けながら足を舐めるとか何処のドMだよと。

 妄想で息を荒くなんてしないんだからッ!

 ……こういうのはシルビアとの仲が進展出来てからにしよう。

 ちょっと虚しくなるからな。

 しかし、この世界の混血ってのはどうなっているのか不思議に感じる。

 発情期云々は別にしても犬と猫と人間が混血するなんて前の世界では考えられないのだから。

 ここではDNAレベルにもエーテルが存在す()るということだろうか。

 この世界ではDNAに宿っているのは神じゃなくてエーテルということか。

 つまり、エーテル=神ってことか。

 いや違うな。

 

 村での雑用仕事は主に家の修理をしたり、村人の食べる分の野菜を作ったり、村外れの草原での牧畜だ。

 森を切り開いて開拓するほどやる気はないが、俺的ファームランド・サガだな。


 農家の一日は早い。

 夜明け前に起きて、朝ごはんまでに一仕事。

 休憩入れて昼ごはんまでさらに一仕事。

 三時のおやつまで一仕事。

 その後もう一仕事して、日が沈むと大体終わり。

 普通の人ならばヘトヘトになるような体力仕事だ。

 前の世界では薪割りも釘打ちもしたことのなかった俺だが、ナタや金槌の使い方も身につけた。

 これで立派な村人になれるぜ、とは言っても仕事を熟すうちに念動力(サイキック)で効率的に仕事をする方法を身に付けた。

 何事も効率第一だし、俺にとっては魔法の訓練にもなる。

 今ならプロボクサー真っ青の薪割りも、キツツキばりの高速釘打ちも披露出来るようになったぜ。


 農村の生活と魔法は思ったよりも相性がいい。

 農耕も、散水も魔法を使えば手間が掛からない。

 畑を耕す事一つとっても、この世界では農耕機が無い。

 だから、鍬を使って畝を一回一回、掘り起こさないといけない。

 超能力ならばまずは土を下から畝ごとにかき回すイメージ。

 でっかいもぐらかミミズの通り道を想像する。

 掘った後、今度は風のミキサーで撹拌するイメージ。

 扇風機のような空気の羽根でグルグルと混ぜてやる。

 タネまきは目印を付けて種を落としていくだけだし、水撒きは水で出来たホースを作った後、真下に落とすだけだ。

 最初は胡散臭そうにしていた村人達も俺的アグリカルチャーを見て驚いていた。

 魔法使いになるより、大規模農家になった方が儲かるかもしれない。

 一〇年くらい掛かりそうだが。


 レネの説明によると魔法にも剣術や体術のように流派があって、呪文や術式に違いがある。

 言葉や文字、絵だけではなく身体の動き、音、視線、道具などで精霊に使役するサインを送るのだという。

 ところが俺のように詠唱どころか何のサインも無しに魔法を発動させる流派は聞いたことがないという。

 魔術機序の理論上理解出来かねる、との事だった。

 そりゃあ、そうだ、俺のやっていることは魔法じゃなくて超能力だからな。

 超能力のイメージを四大元素に拡張した魔法とのハイブリッドだ。

 超能力は基本的に自分の中にある力を現実世界で実体化する能力だ。

 だからイメージが大切になる。

 自分とその周辺をイメージ通りに変化させる力と言い換えてもいい。

 一方、魔法は現実世界に干渉して、思い通りに動かす力のようだ。

 現実を操作して想定した現象を作り上げるのだ。

 だから理論が重要になる。

 論理が正しければ誰が使っても凡そ同じ結果を求めることが出来る。

 俺は理論をすっ飛ばして世界の根幹に直接手を突っ込んでいるようなものだ。

 だからエーテルと術者の媒介になる精霊(エレメンタル)がいてもいなくても能力が作用する。

 思った時には結果が出来上がってることになる。

 あれだ、想いが力になる!ってやつ。

 あれ?これって結構チート能力じゃね?


「アタシの魔法は西から伝わった長毛族の伝統派だからね。

 アンタ達無毛族には発声できない単語や動きもあるけどさ、アンタみたいな精霊を使役しない魔法なんて初めて見たよ」


 魔法使い、魔導師と呼ばれる人々の多くは自己研鑽や探究心が強く、他人と接触する機会が少ないらしい。

 各地におざなりにある魔導師ギルドへの登録者数は芳しくないようだ。

 だから、他の流派がどんな力を使うのかは不明な事が多い。

 つまり、体系化出来ていないということだ。

 たまに傭兵ギルドや冒険者ギルドに登録するような魔法使いもいるらしいが、そんな奴は主に魔法の使える剣士で、魔法使いと呼べるほどの技量はないという。

 魔法使いは希少価値が高いのだ。

 そういうことも含めて、俺はこの世界の常識を知る必要があった。

 レネは暇があるとこの村に来て、俺に色々なことを教えてくれた。

 そのうち、月の一〇日くらいはレオの村で生活するようになっていた。

 その結果、俺はシルビアとイチャつくタイミングを失っていくことになった。

 ……おい。


 ――とある昼下がり。

 昼飯を終えてお茶を飲みつつ、レネの茶飲み話を兼ねた講釈が始まった。

 レネは昔、各地を旅していたのだそうだ。

 冒険者とは少し違うらしい。

 冒険者というのは仕事のために山や洞窟、時には迷宮を探索して、手に入れた財宝や珍しい物を売る商売だ。

 手配書の犯罪者なども捕まえることがあるらしい。

 この世界版のトレジャーハンターやバウンティハンターみたいなものだ。

 体力資本の何でも屋だな。

 レネは魔導師だから金のためではなく、自分の探究心を満たすために旅をしていたのだとか。

 探検家と言ってもいいかも知れない。


 その中で俺のような人間の話を聞いたことがあると言った。


 この世界には時に異世界からの旅人が流れ着いてくるという。

 地域や国によって呼び方は『ローバー』、『ストレイヤー』、『フォーラ―』と様々だが、総じて言えるのは、


「アンタみたいな見たことのない格好して、ロクに言葉も喋れない奴が多いたみたいだね」


 とのことだった。

 そうか、異世界に来る人間は俺だけじゃないのか。

 俺は只今、絶賛村人の格好だけどな。

 ヒゲ生やして猫耳つけたらこの村の住人と見分けが付くまい。

 制服は洗って畳んでしまってある。

 獣の血は落ちきらなかったが、そんなに目立たなくなってよかった。


 この付近でも何十年か前にローバー(この辺りではさまよえる者(ローバー)と呼ばれる)が出たらしい。

 ローバーは基本的に地方領主の所有物となって、国王に献上されるのが慣例になっているという。

 多くのローバーは特殊な聞いたことのない知識を持っていて、その力が国に繁栄を齎すからなんだとか。


「……、俺の場合は?」

「アンタは怪我してたしね、レオの恩人な訳だし、落ち着いたらそのうちに……と思ってたんだよ」


 レネーが視線をチラチラと向けた先には、楽しそうに食器を片付けるシルビアの尻尾がピコピコと揺れている。

 ほほう、これはかの有名なストックホルム症候群じゃなくて……あれだ、ナイチンゲール効果って奴か。

 あの娘と一緒に一.二一ジゴワットで発電しちゃうぜ。

 ならば、是非とも国王に献上されたくないな。

 人体実験でもされたらタマランからな。

 というか、タイムマシンではないが今更ながら俺は前の世界に帰ることが出来るのだろうか?

 実際のところ、敢えて考えないようにしていたわけだが。


「なあ、レネ。ローバーの中で自分の元居た世界に戻った奴ってのはいたのか?」


 レネは唐突な質問に一瞬視線を泳がせた後、気まずそうに俺を見た。

 オーケイ、その表情だけで充分だ。

 どうせ、そんな話は聞いたことがないって言うんだろ?


「残念だけど、聞いたことはないね」


 ……ほらな?……くっそ、地味にショックだぜ、ちくしょう。

 気まずい沈黙が流れる。

 なんとなく分かっていたけどな。

 この半年に考えなかったワケじゃないんだ。

 結局、あのくそサラリーマンを見つけないと話にならないんだろう。

 多分これはそういう話だ。

 俺が救世主になって世界を救ってあのくそサラリーマンに元の世界に還してもらうのだ。

 そういうラノベを読んだことがある。


「そう言えば、この世界には回復魔法ってのはないのか?」


 雰囲気が暗くなりそうなので話題を変えた。

 俺は今のところすぐにでも帰りたいと思っているわけでもない。

 前の世界では俺に居場所がなかった。

 ただいることを許されているだけと言えた。

 この世界にずっといたいというわけでもない。

 こちらにはまだ来たばかりなのだ。

 何があるのかさえ全く手探りなのだ。

 どちらかを選びたくなるほど状況が整理されていない。

 両親や兄弟になど会いたくないと言えば嘘になる。

 しかし、半年も経って浦島状態で帰ったところで、どんな顔をして会ったらいいかわからない。

 まさか修行で山篭りをしていたなどとは言えない。

 今はなんとなく現状に流されていたい気分だった。


「だって、魔法といえば攻撃魔法と治癒魔法だろ?」


 俺は肋骨の完治に三ヶ月くらいかかっていた。

 その間、シルビアにはとっても世話になっていたのだ。

 彼女が俺に惚れるくらいにな!

 この際、こっちにいられる間は世界を堪能することにしよう、そうしよう。

 何にもないからスゲー不便だけどな。


「アタシも回復魔法は使えるけどね。アンタ畑を耕す時にも魔法を使ってるだろ、程々にしときなよ?

 魔法ってのは皆が使えるわけじゃないんだ。

 何でも魔法を使ってるとどこかで手痛いしっぺ返しを食らうもんさね」

「だから俺の骨折は自然治癒力に任せたってことなのか?」

「肋骨の骨折なんて余程のことがなきゃ死にゃあしないからね。

 その方が身体にも良いってもんさ」


 たしかに骨ってのは骨折が治った後の方がより丈夫になるっていうしな。

 魔導師が魔法を否定しなくても良いと思うんだが、何か実体験からの教訓かな。

 まぁいい、俺の頭のメモにそれとなく書き込んでおこう。


「回復魔法はそのうち教えてやるよ、アンタも畑仕事だの大工仕事だの、そろそろ飽きてきただろ?

 今日はアタシとシルビアの三人でちょっとこの後、用事に付き合っとくれ」


 俺はこうして実に半年近くして、久しぶりに村の外に出ることになったのだった。

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