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もし、俺の超能力が異世界最強だった場合。  作者: 鶉野たまご
『第一章:青い炎と赤い森』
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第十一話・異世界留学にゃん!

 村人はここをレオ・ドールマンの村と呼んでいる。

 俺が助けた、あるいは俺が助けられた男が村長を務める村だ。

 だからレオ・ドールマンの村、簡単だな。

 そう言えばレオからは、村長として正式にお礼を言われた。

 怪我が治るまで好きなだけ居ていいということだ。

 おれは村長の家の客人としてベッドでお世話になっている。

 ちなみに兵隊の駐屯する隣村は十数キロ離れたところにある。

 そこはドールマンの村と言う。

 レオの家系の本家筋が村長をしている村なのだ。

 何とか・ドールマンの村はこの付近にいくつもあるという。

 つまり、この一帯に住んでいる猫族(キャット・ピープル)はドールマン一族が中心となって生活している村ということになるだろうか。

 獣人(この世界の言葉では長毛族)の中にも名門とか本家筋といったものがあるのだなぁと、実感する話である。

 オチコボレの俺には心がささくれる話でもある。


 この村には医者のようなものは居ない。

 本家のドールマンの村にも居ないという。

 周辺の村では無医村は当たり前で年に何回か医者だか、薬師が巡回にやって来るのが一般的なのだとか。

 何時かのサラリーマンではないが、俺はレオとシルビアから「絶対安静」を言付かって暇を持て余していた。

 実際、肋骨が何本か折れていて、一ヶ月では大して動くこともままならなかった。

 風呂にも入れずシルビアにタオルで拭いて貰うこともしばしば。

 ちょっと意識してしまう。

 シルビアの顔はよく見ると当初の『キャッツ』イメージより余程人間的で、髭面で猫顔のレオと比べると親しみやすいのだった。

 男女間で毛深さに違いがあるのかもしれない。

 シルビアは俺の感覚で言えば美人に見えた。

 美猫とでも言うのか?

 前の世界でペットは犬も猫も飼ってなかったが、今は断然犬より猫派だな。

 にゃんこマンセー、である。


 ベッドからロクに動けない俺は暇にあかせて超能力開発に勤しむことにした。

 せっかく超能力があるのだから鍛えてこの世界で名を上げてやる、とか。

 なんてな。

 俺が使える超能力は瞬間移動(テレポーテーション)念動力(サイキック)遠隔視リモート・ビューイング

 基本五項目のうち、他の二つはあまり思い通りに使いこなせていなかった。

 全然使えないこともないのだが、物を動かすのと違ってコツが掴めない。

 使える三つの能力にしてもレベル九には程遠いものだ。

 あの疲れたサラリーマンに何かされたという気はする。

 何しろアイツに会って十日と経たないうちこの世界に来たのだ。

 関連がないなんてありえない。

 学校の階段を転げ落ちる時に聞こえた声はやはりアイツだったのだろうか。

 だとしたら、絶対許さないぞ、あの野郎。

 絶対にぶっ殺す。

 もう、どうせ俺は前科一犯だしな……。

 ちくしょう。


 気を取り直して一ヶ月振りに超能力の復習だ。

 まずはこの家の食堂を遠隔視。

 間違ってシルビアの部屋を覗いたり、なんてことは勿論しない。

 神に誓ってもいい。

 だって、この一ヶ月は超能力を全く全然使ってないからな。

 まさか、シルビアが行水をしているところをじっくり眺めたりもしなかった。

 この家には風呂が無いし、彼らは湯船に浸かる習慣もないから基本は手桶で行水だ。

 やっぱりちょっと毛深いのかなとか、あのハリとツヤは素晴らし過ぎるな、などと思ったこともない。

 「うおっ」とか声が漏れそうになってシルビアに不審がられたこともない。

 別に自分で慰めてたわけじゃないんだぜ?

 だってティッシュもないからな。

 ……バレたらレオに殺されるだろう。

 せっかく助けてやったのに、だ。

 殺されなくても今度こそ背骨が真っ二つになりそうだ。

 シルビアはネコ科の常で細身の身体に余計な肉が付いていることもなく、大きすぎず小さすぎない胸、くびれた腰小さめの尻と素晴らしいスタイルだった。

 俺は誰にも邪魔をされずに鑑賞タイムを堪能することが出来た。

 危うく賢者になってしまうところだった。

 いや違う、俺はこの一ヶ月超能力を使っていなかったのだ。


 ――まず。

 俺は並んでいるコップを瞬間移動で水瓶まで移動させることから始めた。

 念動力で水を汲んで手許に持って来れば美味しい水が飲めるという寸法だ。

 リハビリはそこそこ。

 ベッドの位置を変えたり、色々なもので試しているとシルビアが俺のやっていることに気がついた。


「――アラタ、――魔法使い―だった?」


 口元を見ると本当はもう少し色々と言ってるようなのだが、俺の英語力ではこの程度だ。

 駅前留学したこともないしな。

 でも違うな、


「――アラタ、――魔法使いニャった?カッコイイニャン!惚れるニャン!」


 俺翻訳はこんな感じかな。

 異世界留学の成果だ。

 オーケイ、ちょっとやり過ぎだ、自分でもわかってる。

 シルビアはレオから比べると、俺がわかっていないのに色々なことを話しかけてくる。


「魔法使い、知ってる?この世界にいる?」


 俺も拙い英語で問い返す。

 俺のやっていることは魔法ではなくて超能力なのだが、シルビアには違いがわかっていない。

 詳しい説明は出来ないし、意味もないだろう。


「魔法使いはあんま知らニャい。おばあちゃんが詳しいんニャよ!」


 この世界では魔法使いは遺伝ではないのか。

 そもそもシルビアの言ってる魔法は超能力とは違うんだよな?

 やっぱり、アニメで出てくるように呪文の詠唱とか魔法陣が必要なのだろうか。

 魔法陣って英語でなんて言うんだ?

 疑問は尽きない、辞書が手放せないな。

 じゃあそのうちおばあちゃんとやらに菓子折り持って正式にご挨拶に伺わないとな、と思っていたらすぐに呼んでくるという。

 シルビアのおばあちゃんってこの村にいるのか、本家のドールマン村じゃなくて?


 呼ばれて飛び出たおばあちゃんドールマンはレネー・ドールマン。

 シルビアの言う通り、魔導師だ。

 俺にとっては魔法使いでも魔導師でも一緒だ。

 「アタシのことはレネと呼ぶといいよ。」と言ってきた。

 見た目はレオより若いがシルビアよりも猫顔だった。

 猫顔かどうかの違いは主に鼻と口元、ヒゲだ。

 鼻筋が通っていると人間ぽくなるし、閉じた口がへの字だと猫っぽくなる。

 ヒゲはヒゲだ。

 まさか、ヒゲの長さで隙間を通れるか決めているわけじゃないだろう。

 猫族のヒゲは肩幅より間違いなく短い。


 レネは普段、本家ドールマンの村にいて、月に何度か幾つもあるドールマンの村々を回っているのだそうだ。

 魔導師も医者や薬師と一緒で専門職なのだろう。

 レネは俺が念動力を披露すると眉を顰めて難しい顔をした。


「見たことないエーテルの動きだね。――風魔法じゃないのかい。

 (シルフ)が――のか見えないよ。どう――んだい?」

「……?」


 魔導師だし、高齢だし、"見えないニャン"というキャラではないよな。

 というか『エーテル』とか『シルフ』とか言ってるな。

 シルフってのはアニメとかに出てくるあれだよな、風の精霊が見えてる人?


「エーテルって何だ?それって魔法に必要?」

「何いってんだい、エーテルが魔法――の基本だろうに」


 イマイチ聞き取れないが、魔法にはエーテルが必要なのだな。

 この後、レネは呆れ顔で魔法についての詳しい説明をしてくれた。

 一回では言っていることが全くわからなくて何度も聞き直した。


~エーテル~

 ・世界に満ち溢れる力の根源。生命やそれ以外、世界の全てに存在し、枯渇すると生命は死ぬ。

 ・高い能力をもった魔導師や剣士、職人はエーテルを見ることが出来る。

 ・ただし、エーテルは直接使うことが出来ず、精霊を使役することで効果を発揮する。


~精霊~

 ・世界には地・水・火・風の四大元素と呼ばれる、精霊(エレメンタル)がいる。

 ・彼らも能力のない一般人には見ることが出来ない。

 ・精霊を介在させることでエーテルを集め、形作り、行使する。魔導師の場合、これを魔法と呼ぶ。


~魔法~

 ・この世界の原理は物理法則と魔術機序によって成り立っている。

 ・物理法則に従う重力や引力、遠心力などを物理力(ナチュラル)と呼び、魔術機序に従う魔力や気力、霊力などは魔術力(エーテル)と呼ぶ。

 ・魔導師に限らず、剣士や職人も能力が高くなるに連れて魔術力(エーテル)に対する造詣が深くなる。


 説明されたところで俺にはエーテルも精霊(エレメンタル)も見えないけど、四大元素という考え方はとても参考になった。

 俺はこの世界で生きていくために魔法使いを目指すことにした。

 魔法を縦横に使うことが出来るようになれば、コミュニティで重宝される。

 俺の使っている力は超能力だが、これを魔法と称すればよいのだ。

 まずはその前に英語だが。

 シルビアが一回一万円くらいでピロートークレッスンしてくれればすぐにでもマスターするかもしれない。

 今のところ無一文だから出世払いで、是非!

 間違ってもレオにバレないように!

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