第2話 リンシア・エメラルド
目が覚めるともう昼頃になっていた。ヤバイ学校に行かなくては遅刻になってしまう。急がなくては……
あ…そういや俺は死んで転生したんだった…起きたら夢でした。とか言うのはゲームでよくあったけど今回はそんな風になる…はずないよね。うん、分かってた。
こんな適当な茶番劇を演じた俺は体を起こして俺が寝ていた部屋を見渡した。そこには、衣服が入ってるタンスが2つと本棚があった。本棚には本が3冊あり、それらの本の題名は、左から「この国の言語について」真ん中が「世界について(上)」右が「女子の口説き方100選」俺はすぐに「女子の口説き方100選」を手に取り急いで読んだ。どうやらこの国の言語は日本語ではないらしいがそれに似たような形をしているのである程度読めたが、そんなには読めなかった。
この本に書いてある内容で理解できたのがは1つだけだったが、その理解できたやつがなんとまあ女子を100%落とす方法だ。後で昨日の女の子にやってみよう。そういやあの子の名前なんだっけ?聞くのを完璧に忘れてた。俺としたことが…クソッ まあ気を取り直して左の本を手にとって読んでみた。
そこには題名通りこの国の言語のありとあらゆるものが記載されていた。この国の言語は奥が深い。
どうやら俺たちが話している言語が一般的らしく人語と呼ばれてるらしい。あとは獣人語、魔族語、エルフ語があるらしい。その言語の種類と同様に人間族、獣人族、魔族、エルフ族があるらしい。
これはしっかり覚えておかないとな。俺はそう思い真ん中の本を手にとった。
しかし、その本は半分以上抜け落ちていた。だが残ったページから分かったことはこの大陸がエルメスト大陸と呼ばれているという事だ。
とりあえず本は読み終えたし部屋から出るか……俺がドアノブに手を取り部屋を出ようとドアを開けると、
「バンッッ…ドスンッ…」
ドアに何かが当たって倒れたようだ。
「痛っ」
当たったものそれは昨日俺の事を介護していてくれた金髪の少女だった。
「あっごめん。大丈夫?」
「全然大丈夫だよそっちこそ怪我ない?」
なんて優しい少女なんだろう。そうだ、あの口説き方を試してみよう!
「君みたいな可愛い子を見たら痛みなんて吹っ飛んでいくよ」
完璧に決まった。転生する前ならこんな恥ずかしいことなんて口が裂けても言えなかっただろう。転生の力恐るべし。
しかし、彼女の顔は口説き落とした顔でなく『こいつなに言いだしてんの?』みたいな顔をしている。しくじったか?何処にそんな欠点があったのだろう?想像もつかない。あの本通りにやったのに何がダメなんだろうか?すると、
「もしかして部屋の本よんだとか?」
彼女は顔を引きつらせて言った。俺は正直に読んだことを話した。
「ハル、あれは外枠だけは女子の口説き方100選なんだけど中身はゴリラの口説き方100選なのよ」
え・・・どゆこと?この子なにいってんの?ゴリラの口説き方?
「あれって獣人族の言語のによく読めたね…ハルってそんなのに興味あったんだ」
彼女は俺に変な性癖があるかもしれないとか変な想像しているのではないだろうか?多分そうだ、そんな顔している。
「いや見かけない本があったんで手にとって読んだだけであってやましい気持ちなんて全くないよ」
「そ、そう。だったらいいの変な勘違いしてごめんね」
「俺こそ変なこと言ってごめん」
こうして少女の変な誤解は解けたと思いたい。彼女と一緒に大広間に出た。
そこには、沢山の人種の人達がいた。少女と一緒にテーブルの近くのイスに座った。
「本当にさっきはごめん」
こういう事は男から謝罪するものだと思い言うと、
「誰しもこういう事はあるよ」
笑顔で少女は言った。この子は天使か?それとも神か?眩しすぎて顔が直視できないぜ。普通なら即SNSに誹謗中傷の1つでもあげるだろう。それなのにこの子は「誰しもそういう事はあるよ」だって言ったんだぜ。これは神呼ばわりせずに何と呼ぶのだろうか?
「ところでいつ頃ギルドに戻って来れそう?」
「ちょっと今の所は分からないかな」
「そっか…でも早く元気になってね」
こんな子に元気になってと頼まれて元気にならないやつなんているのか?
「ところで君の名前って何ていうの?」
「そっか…まだ記憶が戻りきってないのね…」
彼女は少し寂しそうな顔をしたがすぐ元の明るい表情に戻り、
「わたしの名前はリンシア・エメラルド。エルフ族よ」
リンシアちゃんか…可愛い名前だ。そう心の中で思った。
「えっと後は…そうだ、エルフ族って言うのは大体風系統が得意で、耳がとんがっているのが特徴ね」
なるほど、エルフ族は風系統が得意で耳がとんがっていると…覚えとこ。
「あと分からないことある?」
彼女がそう言った瞬間近くのテーブルが音を立てながら舞った。
「え?」
飛んだテーブルに座ってた人達の方に目をやるとどうやら獣人族のグループで言い合いになっていたらしい。
近くにいた人達に話を聞くとどうやら言い合いが発展したらしくついに片方が手を出したらしい。
「体をバラバラにして殺してやる」
「こっちこそ2度と立てないようにしてやるよ」
そういう奴らの手にはナイフを持っていた。こいつらガチでここで殺りあうつもりか?
「リンシアちゃん、止めなくていいんですか?」
「別にいいのよ、あんなこと日常茶飯事なんだから」
日常茶飯事ってあんた・・・どんな環境で生きてんだよ・・・そう思っていると
「ガコッ」
ものすごく鈍い音がした。それと同時に辺りがシーンとした。その音の正体はリンシアちゃんの頭に当たった茶碗みたいなものだった。どうやら喧嘩してる奴らが投げた物が運悪くリンシアちゃんの頭に直撃したようだ。
「大丈夫?」
俺は恐る恐る聞いてみた。すると彼女は笑顔で席を立ち喧嘩している奴らに近づき何かを呟き始めた。すると、辺りの野次馬たちがリンシアちゃんから離れるように逃げて行った。
何してるんだ?あいつら?そう思った次の瞬間へやに爆音が鳴り響いた。
「バキバキバキバキッッッ」
壁が音を立てて壊れた。そして、喧嘩をしていた奴らが何の前触れもなく吹っ飛んでいった。そして、彼女は何事もなかったかの如く元のイスに座り、
「今見たことは忘れなさい」
とニコッとして俺に言った。多分忘れないと俺もあいつらみたいな運命が・・・よし、忘れた。何があったか脳内から全て消去した。てか消去したと願いたい。そう思ってるとコソコソ話が聞こえてきた。
「あれがあの破壊王リンシアだってよ。触れたもん全て壊すっていう噂の グハッ 」
コソコソと話していた奴らが後方にぶっ飛んでいった。
「今聞いたことも忘れなさい」
「はい!忘れます!忘れました!忘れさせていただきました!」
「よく出来ました」
と頭を撫でてくれた。
見てはいけないリンシアの一面を見た気がする。そういうギャップも嫌いでないかも、むしろ好きかも…… 俺も大分変人らしいな。
俺はリンシアの恐ろしい部分を知ってしまったのかもしれない。口説いた時に殺されてないだけマシだ。
これからはなるべく怒らせないようにしよう。せっかく転生したのに少女を怒らせただけで死にたくはないからな。
「さぁ、話の続きをしましょう」
リンシアはニコッとしながら俺に言ってきた。この笑顔がもし嘘だとしても構わないなぁとか思うところはやっぱり俺も変人なんだなぁと再認識させられた。