カルタゴ帝国奪還作戦 その5
昔からの村の英雄ライオンマスクが現れた。
子供を救い、悪に立ち向かう。
光ある所に闇が生まれる。
闇があるかぎり、光は消える事はない。
「さぁ、始まりました!!夕暮れ前の決闘、果たしてどちらが勝つのか!?」
静寂を破るいきなりの大声に、その場にいた全員が声の主に振り返る。
「驚きの皆さんも驚かない皆さんもこんにちわ、レオ・ザ・ラウドが本日の決闘の実況を致します」
そう言うと軽く一礼をするレオ。
「ちょっと、ビッグフィッシュ。あれは何なのよ?」
「ナタリー、自分もこの状況についてこれてはいないけど、おそらく、
これがマスターが話していた戦いをわかりやすく説明しているのだろう」
「さて、【バウンディ村】の皆さんはご存知、百獣の王、らぁいおぉぉぉんますぅくぅー」
【バウンディ村】の人達がまばらに拍手をする。そして、拍手の音の大きさが次第に大きくなっていく。
同時に声援が飛ぶ。
『いけ、ライオンマスク!!』
『この村を守ってくれ!!!』
『この村に平和を』
『連中をブッ倒してくれ!!!』
あらゆる所からいろんな本音の声があがる。
マーヴェリック盗賊団は始めての状況に困惑する。
「あの野郎、俺達をブッ倒してくれだとぉ、面白ぇ、ぶっ殺してやろうじゃねぇか」
盗賊団の1人が自分達に暴言を吐いた村人に向かって歩き出そうとする。
「止めろ」
マーヴェリック盗賊団のボスらしき男が部下の行動に釘を刺す。
ボスらしき男は上半身が裸で、ズボンの両サイドに手斧を
引っ掛け、年の頃は30代ぐらいの比較的若い印象があった。
特徴的なのは、均整の取れた体格で、細長い布を額に巻いている事だった。
「でも、ボス!!あいつらオレ達をバカにしたんっすよ」
「ああ、わかっている。でも、こういう趣向も面白い。少し黙って見てみようじゃないか」
「くっ・・・」
悔しそうな顔して、マーヴェリック盗賊団の群れの中に戻る。
「対するは、マーヴェリック盗賊団の力自慢、その男の名は【暴れ馬】!!」
相手の名前を適当に決めて呼ぶ、レオ。
『おい、ふざけんな、ブルディって名前があるぞ、ゴラッ!!!!』
『てめぇ、このデブ、ぶっ殺すぞ!!!!』
『デブ、出てこい』
『今夜の飯のおかずにでもしてやろうか』
レオに対して強烈な野次が飛ぶ。
「アニキ、行きましょうか」
レオの近くにいたグリフォンjrがジャンに話しかける。
「師匠の戦いを汚す事は許されない」
険しい表情で首を横に振る。
「だが、この代償は必ず払わせる」
「わかりました、その時は自分が即効で潰します」
「レオ、気にせず続けろ。何かあれば俺達が出る」
レオはジャンの方には振り向かなかったが、頭を1回だけ縦に振った。
「では、改めまして、【暴れ馬 ブルディ】と【ライオンマスク】の戦いの実況を行います」
そう言い終わると同時に、ライオンマスクがブルディに向かって走り出す。
「おおっと、さっそく仕掛けたのはライオンマスクだぁ」
ライオンマスクは、ブルディに超接近して腹に何度も拳を打ち込む。
「ブルディの腹に拳を打ち込むぅ。しかし、ブルディ、余裕の笑みを浮かべているぅ」
ライオンマスクも手ごたえのない事を悟ると、お腹への攻撃から左足への攻撃に変更する。
「ライオンマスク、腹への攻撃から一点、足への蹴り攻撃に切り替えた」
ブルディのふくらはぎ目掛けて何度も蹴りを打ち込む。
(バシィ、バシィ、バシィ)
乾いた音が響いた。
しかし、ブルディは両手を広げてライオンマスクの攻撃が全く効いていない事をアピールする。
次の瞬間、その表情が曇った。
「ライオンマスク、さらに、攻撃箇所を変更した。次は『左のふくらはぎ』から『左膝』に変更だ。
これには、さすがのブルディの表情も曇ったぁ!!!!」
ライオンマスクの攻撃を阻止する為に、ブルディは右拳を握ってライオンマスクに殴りかかる。
「なんとぉー、ライオンマスク。ブルディの拳を半歩後ろに下がって避ける」
ブルディの攻撃が来る事を知っていたかのように、半歩下がってブルディの拳をやり過ごす。
(ゴッ)
次の瞬間、硬い音が響く。
そして仰け反るブルディ。
「今のはブルディが放った大振り拳の隙を狙って、ライオンマスクの左拳がブルディの右頬を捕らえた!!!!!」
【バウンディ村】の人達から驚きの歓声が上がる。
『おい、ブルディ。やられてんじゃねぇぞ』
『ぶっ殺せ』
『そんなジジィ骨ごと折ってやれ』
マーヴェリック盗賊団からも応援らしき言葉が送られる。
体勢を立て直すブルディ。
再び、右拳を握ってライオンマスクに殴りかかる。
再度、ブルディの拳を避けつつ、ライオンマスクの左拳がブルディの顔面を捕らえる。
「これは先ほどと同様の展開だ。ブルディは同じ攻撃を行い、同じてんかい・・・いや、仰け反らない、
ブルディはライオンマスクの左拳を顔面に受けても怯まない!!!」
ブルディは、自分の頬に突き刺さったライオンマスクの拳の腕を右手で掴む。
ライオンマスクも危険を察知して逃げようとしたが、ブルディに捕まってしまった。
「しまった!!」
ライオンマスクの声がもれる。
ブルディの口からは血が流れているが、勝機を見出したのか、悪い笑みを浮かべた。
ブルディは右手でしっかりとライオンマスクの腕を捕まえつつ、硬く握った左拳をライオンマスクの顔面に次々と打ち込んでいく。
「状況が一転したぁ。今度はライオンマスクが攻撃を受けだした!!!」
最初こそは顔を捻って避けていたが、次第にヒットし始め、最後はまともに受けだした。
『おいおい、やばくないか、ライオンマスク』
『ああ、ブルディって奴が頑丈過ぎるんだろ』
『ライオンマスク、何とかして逃げろ!!!』
『負けるな、ライオンマスク!!!』
次の瞬間、ライオンマスクを空中に投げて解放するブルディ。
「おおっと、ブルディ。ライオンマスクを高々と放り投げる」
解放された事にホッとため息をつく【バウンディ村】の人達。
しかし、今日一番の悪い笑みを浮かべるブルディ。
「これはただ解放したと言うわけではなさそうだ。ブルディが走り出した、こ、これは!!」
ブルディに放り投げられたライオンマスクが落ちてくる。
完全に無防備のライオンマスクに、ブルディが突進して激突する。
(ドンッ!!!!!!)
鈍い大きな音が響く。
同時にライオンマスクが大きく吹っ飛ぶ。
「なんと、これは体当たりだ、完全無防備なライオンマスク、まともに当たってしまった!!!!
大丈夫か、ライオンマスク!!!これはキツイ!!
暴れ馬に跳ねられたようなものだ。
そして、受け身も取れずに地面に激突!!!!!これはとんでもない事態だ!!!!!」
背中から地面に激突したライオンマスクは、ピクリとも動かない。
『おい、今のおかしな音がしなかったか?』
『ああ、人間から出る音じゃなかったぞ』
『意識は?』
『完全に飛んでるだろう』
ザワつき出す【バウンディ村】の人達。
『ブルディ良くやった!!そんなジジィ、始めから相手じゃないんだよ』
『ジジィがこれ以上、調子に乗らないように全ての骨を折ってやれよ』
『この町の英雄、ここに死す・・・ってな』
今度はマーヴェリック盗賊団側から歓声が上がった。
「おい、ブルディ。せめて、マスクを剥いでやれ、見せてやれよ。
この町の人間に英雄と信じていた奴の惨めな姿をよ」
マーヴェリック盗賊団のボスがトドメの指示を出す。
ライオンマスクは、ピクリとも動かなかった。
『ライオンマスク、お願い勝って!!!
勝ってくれたら、嫌いな野菜を頑張って食べるから、絶対に勝って!!!』
ライオンマスクに助けられたマニッシュがお母さんの手をしっかり握りながら、
ありったけの力で叫ぶ。
『そうだ、俺達はあんたの背中を見て今日までやってきたんだ』
『ああ、俺が昔悪い事に手を染めた時も全力で向かってきてくれて、俺を更生してくれたんだ。
オレは今、まっとうに暮らしてんだぞ』
『お前なんか嫌いだ。同じ年代でお前は英雄、自分は落ちぶれたオッサンになっちまった。
皆に頼られるお前を見ているだけで、むかっ腹を立ててたんだ!
だけど、だけどよぉ、お前が居てくれたから、張り合って生きてこれたんだ。
だから、いつまでも倒れてるんじゃねぇぞ!!!!』
あらゆる所でライオンマスクに対する応援の言葉が上がる。
「何なのよ、これ、涙が出ちゃうじゃない」
ナタリーは完全に目の前で、起こっている戦いの観客者になっていた。
「くそぉ、ライオンマスク、負けるんじゃねぇ。クラッシュ様が応援してんだぞ、立てよ!!!!」
クラッシュも、今にも通りに出てしまいそう気持ちをグッとこらえる。
「これがマスクマンの戦いですか!!!!壮絶過ぎます!!これで燃えない人はいないですよね」
ビッグフィッシュが熱を込めた瞳でヘルムートを見る。
「あ、ああ、そ、そうだな」
ヘルムートは1人苦笑しつつ、マーヴェリック盗賊団の動きを冷静に見ていた。
「はは・・・そ・・・んなに・・・応援・・・され・・・た・ら、立つ・・・しか・ない・・な」
四つんばいの体勢から、両手で踏ん張りながら立ち上がろうとするライオンマスク。
その姿を見て、驚きと歓声で【バウンディ村】が揺れる。
「これは奇跡でしょうか。ライオンマスクの鼻と口から
血が止め処なく溢れている。
体のダメージは既に限界を迎えているでしょう。
だけど、この状況に至っても心は切れていない!!!
まだ、全然戦う気だ!!
これぞ我らの英雄、ライオンマスクだぁ!!!!!!!」
「おい、嘘だろ・・・」
目の前で起こっている現実に戸惑うブルディ。
「お・・・い、こ・・・ぞう・・・・ども、覚えて・・・・・・おけ。
誰かに・・・・頼られると・・・言う・・・事は、決して・・・負けは・・・許されないと・・・言う事だ」
途切れ途切れに言葉を続けながら、立ち上がるライオンマスク。
「息は上がり、体もフラつき、何とか立ち上がるだけで精一杯のライオンマスク。
しかし、瞳に宿した闘志は燃え尽きていない!!!!!」
レオ自身も感動しているのか、何度も涙を拭いながら話を続ける。
次回更新予定日は2016年4月22日の12時ごろです