カルタゴ帝国奪還作戦 その4
店内の喧騒に左右されない食いしん坊な連中が我が道を行く。
完全にあっけに取られたしまったナタリー達。
興味は完全に連中に注がれた。
「えっと、あの・・・マスターさん、奥のテーブルの・・・」
ナタリーは言いづらそうに店のマスターに声を掛けた。
「ああ、あの連中は、この村【バウンディ村】の英雄の弟子みたいなものだ」
「えいゆう・・・?」
「ああ、この村には遥か東の果てにあると言う島国で生まれた格闘技を習得したマスクマンがいるのさ。
もう、30年ぐらい前から村で争い毎が、起こるたびに現れては仲介して立ち去り
賊に襲われれば、賊に立ちはだかり撃退する。
凄い男だよ。
年月が経つ毎に自然と英雄と呼ばれるようになって、今となっては村の誇りさ」
「マスクマンですか?」
ビッグフィッシュが思わず話に参加する。
「ああ、そのマスクマンのマスクは、百獣の王であるライオンを模したマスクなのさ」
「直接見た事はないのですが、確か肉食で動物の頂点と言われているぐらい強いと
聞いた事があります」
「動物の頂点って・・・」
ナタリーが思わず想像したのか、思わず体を震わせる。
「マスター、彼らは全員ライオンマスクさんの弟子ですか?」
「食べ物、飲み物を率先して頼んでいる良い体格をしている男が、あの中で一番年下のグリフォンjrだ」
「えっと、あのデ・・・」
「おい!!」
マスターがいきなり声を荒らげて、ビッグフィッシュの言葉を遮る。
「ど、どうしましたか?」
マスターの眉間にしわを寄せた険しい表情に驚くビッグフィッシュ。
「あいつらに、その単語は禁句だ。それを言っちまったら暴れるぐらい面倒くさい事になるぞ」
「暴れはしないのか・・・」
出てきた食事を忙しそうに口に物を入れながら、思った事を口にするクラッシュ。
「おい、クラッシュ。食べながら話すのはマナーが良くないぞ」
ヘルムートはこの騒動を気にする事なく、食事を進めていた。
「マスター、すみません。気をつけます」
ビッグフィッシュは頭を下げて、話を続けるように促した。
「グリフォンJrは、あの体格では想像が出来ないぐらい運動神経が良くて、足が早くて、
高く飛ぶ、そして、攻撃を避けるのも上手い」
「なるほど、身長はナタリーよりも少し高いぐらいで、男の平均身長よりも低い。見た目よりも実際は若いのかもしれないな」
ビッグフィッシュは分析した内容を口にする。
「で・・・だ、あの座ってグリフォンjrに指示を出している一番体格の良い男、
あれがライオンマスクの一番弟子【ジャン・モリナーリ】だ。
格闘技スタイルは拳、ひじ、手のひらを使った手わざに長けている」
「あの人はちょっと違うタイプの人ですね。さっきからこちらの視線を気付いているように見えます」
「ああ、あの男はややこしい奴だ。人情があるようで非情。冷静な思考の持ち主に見えて、怒り狂うような情熱を見せる。
ただ、奴はその全てを理解して演じているのではないかって言う話もあるぐらいだ」
「完全な曲者ですね」
「まぁ、グリフォンjrが真面目で純粋な分、ジャンみたいなリーダーが必要なのかもしれないな」
マスターはそう言いながらグラスを丁寧に磨く。
「ジャンの隣にいる同じような体系の彼は?」
「あー、彼はジャンの幼馴染のレオ・ザ・ラウドだ」
「彼も格闘技を?」
「いや、彼は非戦闘員だよ、ただ、戦っている内容を皆に説明する変わった趣味をしている」
「戦闘内容を説明・・・ですか?」
「たとえば、どういう攻撃が何処に決まったか的な説明を、だな」
「変わった趣味ですけど、動体視力が優れていないといけないし、
命の危険すらもあるので、それなりには体を鍛える必要があるでしょうね」
「まぁ、ジャン達と行動している時点で、いろんな騒動に巻き込まれているだろうし、
今後も確実に巻き込まれるだろうな。
できれば、この店を巻き込む事だけは勘弁してほしいがな」
過去に何度か、巻き込まれているのは表情だけで察する事ができた。
「おい、皆!!気をつけろ。北の峡谷のマーヴェリック盗賊団が来たぞ!!!」
外から大声で同じ内容を何度も叫んで、走り回っている男の声が店内にも届いた。
「えっ、どうしたの?」
ナタリーは驚いてマスターの顔を見る。
そして、マスターの固まった顔に驚く。
「みんな、店じまいだ。支払いをさっさと済ませたら何処かに逃げろ!!!!!」
マスターは大声で叫ぶと、飲み食いをしていた客達が一斉に立ち上がり、我先に清算を済まそうとカウンターに詰め寄る。
出入り口には大柄なコックが立ち、この騒動に紛れて食い逃げしようとする連中を捕まえようと立ちはだかっていた。
(ダダダダダダダダダダダダダッダ)
多数の馬の足音が重さなって、地響きを起こす。
それだけでかなりの数だと知り、客達の顔色はどんどん青ざめていく。
注文を取っていた女性達は店の奥に入っていく。
くわや包丁、長い棒など統一性のない武器を引っ張り出してはカウンターに並べる。
「君らは旅の者だろ。この町を出て非難した方が良いぞ」
マスターはそう言うと、店の奥に隠れるように女性達に避難指示を出す。
ヘルムートは食事の清算を終わらせて立ち上がる。
店の入り口は店を出ようとする人で混雑していた。
「おい、連中が来たぞ、100人近いぞ!!」
店の外で叫ぶような声があがる。
外の地響きがさらに大きくなる。
侵略者の雄叫びが聞こえてくる。
『キャー!!』
『おい、誰かが馬に跳ね飛ばされたぞ』
『女、子供、金目の物は隠せ!!』
『くそ、連中、人の家の中に踏み込みだしたぞ』
『おい、こっちに来るぞ!!』
完全に混乱した村人達が逃げる事も忘れて立ちすくむ。
『おい、マルシェさんとこのガキが通りのど真ん中で立ち止まってるぞ!!』
『お前、いつもケンカっぱやいのを自慢してただろうが、助けに行けよ』
『ふざけんな、誰があのガキの為に命をかけれるかよ!!』
『マニッシュ!!』
子供とはぐれた母親が事態を理解して通りに出ようとする。
『だめだ、間に合わない。あんたまで殺されるぞ』
『放してください、あの子の母親なのよ!!』
「ヘルムート、行くわよ」
ナタリーはそう言うと混雑した店の出入り口に向かおうとする。
「待て、ナタリー。どうするつもりだ!?」
ヘルムートは厳しい表情で、とっさにナタリーの腕を掴む。
「も・・・もちろん、助けるに決まっているじゃない」
その表情に息をのみかけたが、言葉を続ける。
「言ったはずだ、人同士の揉め事には関与するな」
「じゃあ、何のために力を手に入れたのよ!?」
「ナタリー、君は神にでもなったつもりか?」
「どういう意味よ、ヘルムート」
「言葉の通りだ、ナタリーが善悪を判断して悪と思う方に絶対的な力を持って、相手を負かせれば解決するのか?」
「だったら、黙って見ていろって言うの?」
「ああ、そうだ。それとも連中を相手にした場合、ナタリーは連中全てを殺せるのか?」
「殺す気はないわよ、追っ払うだけ」
ナタリーの返答に深くため息をつくヘルムート
「そうか、なおさら、この件には首を突っ込むな」
「どういう事?」
「ナタリーがこの町で永遠に暮らすのなら良いが、今回連中を追っ払ったとして、次、また連中達が来た時に、
ナタリーがいないとわかれば、被害は今回の2倍以上になるだろうな」
「っ・・・」
ナタリーはヘルムートが言いたい事を理解する。
「それでも・・・」
「やめとけよ、バカ姫」
「クラッシュまで・・・」
「人は自分と違う者を見つけると、最初は歓迎するが時が経てば、不安に駆られて酷い仕打ちをするのさ」
「クラッシュ・・・」
クラッシュの瞳には光がなく、人に対する嫌悪感が表情に出ていた。
「それでも私は」
ナタリーは1人で玄関に向かおうとする。
『きゃぁあぁあああああああああ、マニッシュ!!!!!!』
母親の絶叫が馬のひづめの音に飲み込まれていく。
ひづめの音がいきなり止まった。
外に出ている人の声もしなくなっていた。
まるで時が止まったかのように静寂が町を包む。
馬の荒い息遣いと馬のいななきがたまに聞こえる。
「何があったのよ」
そう言いながら固まった人々の間をぬって外に出る。
目の前に広がった光景にナタリーは息をのんだ。
「お前は誰だ」
馬に乗ったマーヴェリック盗賊団のボスらしき男が、
子供の前に立ちふさがった動物を模したマスクを被った男に話しかけていた。
マーヴェリック盗賊団の武装は、剣や槍、ナイフ、鞭、手弓、ボーガン、とバラバラだったが
共通していたのは手入れが行き届いている事だった。
また、連中たちが戦いなれている事は一目でわかった。
服装もまたバラバラで、上半身裸の人間から、
狩人のような服を着込んでいたり、
軽装の鎧や、クサリカタビラなどを着込んでいる者まで、様々だった。
体格は筋肉が膨れ上がっている者は剣や槍を持っていて
若干、細身の者は弓やボーガンを持っているように見えた。
「ライオンマスク」
一言、はっきり通る声で自分の名前を口に出した。
その男はライオンを模したマスクを被り、100人近くの賊に囲まれて、
なおも怯まず腰が抜けた子供を守るように、賊達の前に立ちはだかる。
「なんだ、コイツ、いい年こいたオッサンがガキの遊びかよ、ハッ」
自分の前に立ちふさがるマスクマンを嘲笑う。
「ガキの遊びか、どうかはお前の体で試してみたらどうかね」
「あん?オッサンが粋がるなよ」
「ワシが【バウンディ村】を守るマスクマンだ。君達の侵略を止めて見せる」
そういうと、肩からかけている赤いマントを翻す。
(バサッ)
マントが硬く乾いた音が町に響き渡った。
マントの下から鍛えられた筋肉が見え、ズボンはピタッとした黒いズボンらしき物を身に付けただけの軽装だった。
「面白いオッサンだな、なら、遊んでやるよ」
そう言うと指を鳴らす。
賊の群れの奥から長身でガタイが良い、いかにも力自慢の男が進み出る。
「そのオッサンを素手で殺せ」
その命令を聞いた男は黙ったまま、マスクマンの前に立ちふさがった。
「マニッシュ君、お母さんの所にまっすぐ歩くんだ、ここにいては危険だからね」
泣きぐずっていたマニッシュはゆっくり立ち上がり、目をこすりながら歩き出すのをマスクマンは笑顔で見つめる。
「マニッシュ!!」
子供を二度と放さないようにしかっりと母親が抱きしめる光景を見送って、
静かに前に立ちふさがる男に向き合う。
もはや、その表情に笑顔はなく、戦いに挑む表情に切り替わった男が立っていた。
町の人も、マーヴェリック盗賊団、その場にいた全員が今から起こる戦いを無言で見守っていた。
次回更新予定日は2016年4月15日の12時ごろです