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カルタゴ帝国奪還作戦 その3

立ち寄った村で新たな出会いが生まれる。

オンデンブルグ国から撤退した帝国軍との距離は、離れる一方だった。


少しでも距離を縮める為に、道すがら馬を探していると、

全財産をカルタゴ帝国軍に接収され、明日の生活すらままならず、

途方に暮れている民に出会うたびに、

ナタリーがオンデンブルグ国の元宰相にして、ナタリーの教育係『アクセル・オクセンシェルナ』に

面倒を見てもらえるように、

手紙を書き、わずかな路銀を手渡していった。


が、すでに、ナタリーの手持ちの路銀は底をつき、ヘルムートが肩代わりをする状況に切り替わっていた。

ヘルムート的には、何も関係のない人に関わりたくなかったのだが、

ナタリーの人に接する真摯さに惹かれたのと、

ナタリーの笑顔で手に合わされて、ヘルムートが路銀を出すまで、

その姿勢を崩さない戦法に出られると、ヘルムートとしては、お手上げである。


そして、今、ここに大量の貸しを作っているナタリーから 【ヘルムートはだまってろ】と

言われた日には、呆れて物が言えなくなるのは言うまでもない。


そんな落ち込んでいるヘルムートの肩を、ポンッと軽く叩かれ振り向く。

「ヘルムートさん、いつもいつも、よく我慢している。本当に尊敬に値するよ」

「ビッグフィッシュ、最近、君がいてくれるだけで大分、心に余裕が生まれてきたよ」

「彼らはまだ少年、少女なんだよな」

「ああ、酷な運命である事は認めるが、彼らも俺達も皆、願ったのさ。神か悪魔に力が欲しいと」

「まだ信じられないな。自分のノドに魔王のノドが入っているとか」

「確かにビッグフィッシュの能力は未知な所が多すぎるけど、いずれわかるだろう」


最近、この一団は、大人グループが、『ヘルムート』と『ビッグフィッシュ』

子供グループが、『ナタリー』と『クラッシュ』に自然と線引きされている。

ナタリーとクラッシュに話すと、猛抗議を受けるのは言うまでもないので、

黙る大人グループであった。


「ヘルムート、そんな難しい話より、最近、飯が滞っている気がするぞ」

不満顔でヘルムートを見るクラッシュ。

「ああ、そうだな。実は食料に関してだが、今にも底をつこうとしている」

「そうだよな、やっぱり・・・ってふざけんな、しょくむたいまんだぞ、ヘルムート」

「ああー、ああー、無理に難しい言葉を使うなよ、クラッシュ」

「だけど、これはよくない、とてもよくない事だぞ」

「もう、わかった、わかったから黙ってくれ、頼む」

目頭を指で摘んで首を振るヘルムート。

抗議を一向に止めないクラッシュ。

その横で無言で苦笑するビッグフィッシュ。

呆れ顔のナタリー。


その後、しばらく歩く事、数時間、太陽が一番高く上がった頃に、

道が二又に分かれる地点に4人は立ち止まっていた。


「帝国首都への道は左なのだが・・・」

ヘルムートが思案するそぶりをみせる。

「右に行くと、2、3時間歩くと【バウンディ村】があったはずですよね」

ビッグフィッシュがナタリーの事を思うと、左側を選ぶのが正しい選択肢に思えた。

「関係ねぇ、飯だ。腹減ってりゃ戦いなんて出来ねぇよ」

そう言うと、右に歩き出すクラッシュ

「クラッシュ、おまえねぇ。どうする、ナタリー」

ナタリーに判断を伺うヘルムート

「ありがと、クラッシュ以外の皆。うん、私もお腹減ってるし、何よりもお風呂に入りたいのが本音なのよね」

「ナタリー、わかった。ビッグフィッシュ、【バウンディ】に寄り道しよう」

「ようやく、脱野宿だな。今日はぐっすり寝るぞ」

両手を頭の上で組んで軽く伸びをするビッグフィッシュ。

心なしか4人の足取りが、軽くなっていたのは言うまでもなかった。



ナタリー達が【バウンディ村】に着いたのは、夕方になりかけた頃だった。

「ここが【バウンディ】か、普通の村だな」

ヘルムートが村を見渡しながら率直な感想を口にする。

「裕福でもなく、貧困と言うわけでもなさそうだね」

ビッグフィッシュは村人の様子を見渡す。

「おい、ヘルムート、ビッグフィッシュ。そんな事はいい。あそこから美味しそうな食べ物の匂いがするぞ!」

クラッシュは、そう言うと走り出す。

「もうぉ、待ちなさいよ、クラッシュ!!」

クラッシュの後を追って走り出す、ナタリー。

「ビッグフィッシュ、あいつらは元気だね」

「若さと言う元気ですかね」

そう言うと、ヘルムートとビッグフィッシュは苦笑しながら、クラッシュ達の後を歩いていった。


(キィィ)

木で作られた両開きのスイングドアを勢いよく開いて中に入るクラッシュ達。

酒を飲む目的が主体のお店で、かなり昔から営業していた事がわかるくらいに

壁や天井、床の木材が黒く変色していた。

カウンターには、鼻の下に整ったチョビ髭、顎にも整えた髭を生やした40歳代のマスターらしき男が立っていた。

店の匂いは強烈で、酒の匂いやら、食べ物の匂いやら、いろいろな匂いが混ざっていた。


何よりも入ってきたよそ者であるクラッシュ達を、飲み食いしていた連中がその手を止めて、一斉に睨みだした。

「なっ・・・なんだよ」

たくさんの視線を受けて、たじろぐクラッシュ。

「おい、カウンターの席に座るぞ」

視線を無視してカウンターに空き席を見つけて座るヘルムート。

ヘルムートに促されて、何かを言いたそうにしながら席に着く、クラッシュ。

「あんたら旅の者かい?」

マスターが席に着いたヘルムートの前に立って、率直な疑問をぶつけてきた。

「ああ、オンデンブルグから着た」

ヘルムートは、咄嗟に嘘をつく。

「オンデンブルグか、災難だったな」

さすがに飲食店、いろいろな情報が集まっているのは、マスターの言葉ぶりから伺えた。

「ああ、家が焼かれて親戚の家に、しばらくやっかいになろうって所さ」

「そうか、うるさい連中の住処で申し訳ないがゆっくりして行ってくれ」

「助かる、適当に人数分の食べ物と飲み物を頼む」

マスターの好意的な反応にホッとするヘルムート。


『おい、なんだ。何だかションベン臭くないか』

『やめとけ、泣かれてみろ。酒が不味くなる』

『乳臭いガキどもに誰かミルクをおごってやれよ』

『あ、香味野菜添えの鳥の山賊焼きを1つ追加で!』


テーブルに座っているガラの悪い連中達から面白がってナタリー達に心無い言葉を掛ける。


「クククッ、面白い連中だな、ヘルムート」

「おま・・・、クラッシュ、落ち着け。絶対に手を出すなよ」

「ケンカ売ってるんだろ。だったら、買ってやらないとダメだろ」

「力加減なんて出来ないだろ。やめておけ」

一生懸命にクラッシュをなだめる、ヘルムート。

クラッシュは握った拳がプルプルと震える。


『ションベン臭ぇ女は、連中の夜の世話でもしてるのかよ、わはは』

『おい、こっちにきて腰でも振ってみてくれよ』

『お前らの仲間よりも優しく可愛がってやるから、こっちに来いよ』


『あれ、聞こえてないんじゃないっすか?』

『おい、お前の根性が足りないから店の人の心に響いてないんじゃないのか?』


別のテーブルからナタリーに対して、汚い言葉の挑発が飛んでくる。

(ガタッ)

無言でビッグフィッシュが立ち上がり、ナタリーに対して、

汚い言葉の挑発をしてきた声の主がいるテーブルを睨む。


『な・・・なんだ、てめ・・・ぇ、やるっての・・』


『すぃませーーーーーーん、さっきから呼んでいるんですけど、

 香味野菜添えの鳥の山賊焼きって注文通ってますか!?』


ビッグフィッシュに睨まれた連中が立ち上がろうとした瞬間、

一番奥のテーブルから、全ての声を掻き消す音量の声が店中に響く。

その場にいる全ての連中の視線全てが奥のテーブルに注がれる。

その視線に気付きつつも、奥のテーブルでは話が止まる事はなかった。

店の人も慌てて、奥のテーブルに向かう。


『グリフォン、ついでにエールもおかわりだ。レオはエール追加しておくか?』

『そうですね、このわたしもエールを追加で頂きましょう』

『よし、グリ、エール2つ追加だ』

『僕の分が入っていないのですが・・・』

『なんだいるのか、なら、エール3つだ』


店の奥のテーブルには、どうみても普通の男性と比べて、

横に一回りも二回りも大きい図体の3人組が

テーブルに所狭しと並べられた食べ物を流し込むように食べていた。


「あの連中の胃袋は底なしか」

カウンターのマスターは、ため息をつきながら一言ぼやいたが、

すぐさま、気持ちを切り替えて、厨房にオーダーを通して、

マスター自身が、注文の飲み物を用意し始める。


店内にいたすべての客は、しばらく彼らを見たまま、固まっていた。

次回更新予定日は2016年4月8日の12時ごろです

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