カルタゴ帝国奪還作戦 その2
今回は巷に広がる情報をメインにストーリーが展開します。
ヘルムートが何かを思い出して立ち止まり、ポケットを探りだす。
「そういえば、先日立ち寄った村で、面白い物を商人から売ってもらったのだが」
ヘルムートがそう言いながら、ポケットから4つ折にした1枚の紙を取り出して広げた。
「ヘルムート、面白そうじゃねぇか見せろよ、ヘルムート」
クラッシュが、ヘルムートから紙を奪い取って興味心身で覗き込む。
「クラッシュ、品が良くないぞ」
「ヘルムート、その紙はいったいなんなんだ?」
横からビッグフィッシュがクラッシュの持つ紙を覗き込みながら、ヘルムートに質問する。
「これはな、カルタゴ帝国の情報機関が出している【ルーマーメモリーズ】と言って
国内外で起こった出来事を紙に書き記して情報紙として、人々に売りまわっている品物らしい」
「へぇ、【ルーマーメモリーズ】って奴は便利だな、ヘルムート」
「クラッシュ、驚いたな。文字が読めたのか」
「ヘルムート、うるせぇよ、ヘルムート。こんなのはなんとなくで良いに決まっているだろ」
「でも、それだとカルタゴ帝国にとって都合の良い情報ばかりが、他の国に流れていく事があるんじゃないか」
ビッグフィッシュがヘルムートの説明から素朴な疑問を口にする。
「さすがはビッグフィッシュ、形だけ納得するクラッシュとは違うな」
「なんだ、ヘルムート、ケンカ売ってるのかよ」
遠まわしにけなされた事に気付いて抗議をあげるクラッシュ。
その光景に苦笑するナタリー。
「ああ、今回の『オンデンブルグ電撃戦』の名称を付けたのも【ルーマーメモリーズ】だからな」
「クラッシュ、【ルーマーメモリーズ】を見せて」
「文字が読めるなら読んでみろよ」
ナタリーに紙を投げ渡す。
ナタリーは何も言わずに紙を広げて情報紙に目を通す。
「えっと、ちょっ!?、何よ、この記事は・・・。
【オンデンブルグ国とカルタゴ帝国の和平協議近日】って・・・
それもその会談に出席するのは、オンデンブルグ国 第一王女マリア・ソフィー・ユングリング 20歳って・・・」
衝撃的な見出しを読んで固まってしまうナタリー。
「先ほどの話では、連れ去られたって話だったよな」
ビッグフィッシュは思わずナタリーの顔を見る。
「わたしだって、何が何だが、わからないわよっ」
「そうか、オンデンブルグ国を連れ去られてから、何か進展があったのかもしれないな」
ヘルムートが思案しつつ、ひとつの可能性を口にする。
「おい、バカ姫、何をへこんでいるんだ。だから、バカ姫って言われるんだろうが!」
「クラッシュ、うるさい、話しかけないで!!」
「聞けよ、その【ルーマーメモリーズ】って奴に堂々と書かれているって事は、
バカ姫の兄弟は無事で、簡単に殺される事もないし、それなりの扱いを受けているって事だろうが」
「あっ・・・」
思わず、クラッシュの方を見るナタリー
「おい、聞いたか、ビッグフィッシュ」
同じく驚いてビッグフィッシュの方を見るヘルムート
「あ、ああ、的確な読みだな」
ビッグフィッシュも驚いてクラッシュの方を見ていた。
「ありがと、クラッシュ」
「ふん」
クラッシュはナタリーから顔を逸らす。
どうやら、照れているらしい。
「あれ、クラッシュ、もしかして照れているのか」
「うるさいぞ、ヘルムート」
ヘルムートとクラッシュがジャレあっている間に、
ビッグフィッシュがナタリーが読んでいる【ルーマーメモリーズ】を覗き込む。
「ここの部分、ナタリーの事が書いてあるぞ」
「えっ、本当だわ・・・・・・って、何これ・・・。
【カルタゴ帝国を戦略的撤退に導いたのは、第二王女 ナタリー・フォン・ユングリングだった!?】
【私は見た!?国の滅亡の危機を目の当たりにして、兵の陣頭指揮を取る第二王女 ナタリー・フォン・ユングリングのお姿を】
【カルタゴ帝国撤退後、第二王女の行方不明の噂がオンデンブルグ国で広まっている!?】
【ナタリー王女、重病説】
【ナタリー王女、オンデンブルグ国逃走説】
【救国の王女 ナタリー・フォン・ユングリング、彼女には戦の才があった!?】
って、ほぼ、根も葉もない記事じゃないの」
大きく深くため息を吐くナタリー。
「まぁまぁ、ある意味当たっているとも言えなくもないじゃないか。
まず、帝国を退けたのは事実だ。
オンデンブルグ国から外に出て、カルタゴ帝国に向かっている事を知っているのは、
オンデンブルグ国の上層部だけだから、一般市民は知らないのは当然だからな」
思わず饒舌にナタリーを励まそうとするビッグフィッシュ。
「ありがと、ビッグフィッシュ。少し楽になったわ」
そう言いながら、気が重たそうなナタリー。
「おい見ろよ、死亡説って書いてあるぞ、おもしれぇー」
クラッシュが覗きこんで一文を笑いながら読んで走り出す。
「ヘルムート、これ返すわ。待ちなさい、クラッシュ!!!」
クラッシュの後を走り出すナタリー。
ヘルムートはナタリーから返された【ルーマーメモリーズ】を読み直す。
「ふむふむ、とある帝国軍人将校の話・・・ねぇ
『今回のオンデンブルグ国への戦争は帝国に敗因があったわけではない
従軍させた属国の兵がオンデンブルグ国の狙撃手に不意打ちを受け、
混乱して次々と逃走し始めたのが敗因であり、
帝国の敗北では断じてない。帝国の敗北は【巨人の食あたり】ぐらいにありえない話だ』・・・か」
苦笑しながら記事を読んでいくヘルムート。
「オンデンブルグ国の狙撃手の話はあまり聞いた事がないな・・・あっ、
もしかして、これ、ヘルムート、あんたの仕業かい?」
「さて、どうだろうな」
ポーカーフェイスを決め込もうとするヘルムート。
しかし、口元の笑みが消しきれない所をビッグフィッシュに見られる。
「そうか、なるほど」
すべてを悟ったビッグフィッシュは、クラッシュを捕まえようとするナタリーに声を掛ける。
「それにしても、ナタっちの記事が多いな。もう有名人じゃないか」
「はぁ、私は憂鬱過ぎて、人目に出る事すらためらう状況なのに、ナタっちって何よ。
これ以上私を憂鬱にして、自殺でもさせたいわけなの?金髪ハリネミズさん」
「ナタっち、か。親しみが湧いて良いんじゃないか、ビッグフィッシュ」
「ちょっ、ヘルムートさん!!」
自分のネーミングセンスの出来栄えに、ニヤニヤするビッグフィッシュ。
名前定着を必死に阻止するナタリー。
ビッグフィッシュの命名に賛成しようとして、ナタリーにどやされるヘルムート。
「バカ姫、朝からうるせーよ。おい、ヘルムート、そもそもバカ姫の兄弟救出に付き合う必要なんかないんだぞ」
自分が話の輪から外れる事に、最近、妙な危機意識を持つクラッシュ。
「まぁ、ビッグフィッシュも合流してくれて、任務は上手くいっている。
ナタリーの兄弟救出する作戦に乗るのも、まるまる任務外とは言えないと言う事で、だな」
「あめーよ、とんでもないアマちゃんだな、ヘルムート」
「そう噛み付くなよ、クラッシュ」
「なによ、クラッシュ。別にあんたの助けなんていらないわよ」
「忘れたとは言わせねーよ、バカ姫。あの城で【助けて欲しい】って懇願してきたのは、どこのバカ姫だっけ?」
「なっ・・・」
「2人とも落ち着け・・・・・・」
「「ヘルムートはだまってろ」」
ぎゃあぎゃあと騒がしい一団が歩く道は、オンデンブルグ国から西の果てのカルタゴ帝国に続く街道であった。
次回更新予定日は2016年4月1日の12時ごろです