カルタゴ帝国奪還作戦 その1
ここから本編が始まります。
と言いましても、
【魔王の血を引く者達】の無印で起こった内容について
まとめていく話となります。
オンデンブルグ国への急襲から44日後-
オンデンブルグ国から、カルタゴ帝国に続く街道を進む一団がいた。
年齢も見た目も格好もそれぞれで、ほとんど共通点がなかった。
それもそのはず、彼らのほとんどが1ヶ月ほど前に出会ったばかりだった。
「ナタリー、そういえば、今更なんだけど、どうしてカルタゴ帝国に向かっているんだ?」
「はぁぁ、ビッグフィッシュ。ほんと、今更よね。今まで何も疑問に思わずについてきたの?」
ナタリーに盛大にため息を疲れるビッグフィッシュ。
ビッグフィッシュ・フィニー (20歳)
金髪でハリネズミのように、髪を尖らせている髪型。
目的のためならば、手段を選ばない性格。
だが、情に深く、人を見捨てる事が出来ない一面も持ち合わせている。
この4人の中では、一番の長身なのだが髪型のせいで、そう見える説もあるらしい。
「いやいや待ってくれ、ナタリー。今まで気になっていたけど、状況に流され続けて、聞くのが今になっただけで、だな」
ナタリーのジト目に、必死に抗議をするビッグフィッシュ。
オンデンブルグ国 第二王女 ナタリー・フォン・ユングリング (15歳)
以前はとても綺麗な黒髪ロングで、評判だったのだが
少し前に、とある事件で自分自身の髪を切り、おかっぱショートにしてしまった逸話が残っている。
白いドレスを纏い、悪を許せない正義感丸出しの行動派。
瞳の色に関しては、人によって分かれていて、
スカイブルーであったり、ワインレッドだと言う人もいて意見がまとまらないらしい。
「わかったわ。そうね、何処から話すべきかしら」
ナタリーは軽く思案をして言葉を選んで、この旅の始まりを話し始めた。
「1ヶ月ほど前に私の国、オンデンブルグ国はカルタゴ帝国から侵攻を受けたの」
「なるほど・・・・・、えっ、いやいや、私の国って・・・」
「くくくっ、ビッグフィッシュ、お前知らなかったのかよ、バカ姫はあだ名じゃねぇ」
「えええええええ、オンデンブルグ国の王女・・・さま」
「なによ、ビッグフィッシュ。その驚きようは。そして、クラッシュ、バカ姫って呼ぶのをいい加減に止めないと刺すわよ」
「くくくっ、お前に俺を刺せるのかよ。出来るならやってもらおうじゃねぇか」
クラッシュは、そういうとすばやく腰を落として身構える。
その行動にナタリーは深いため息をつく。
そのやり取りを見て、苦笑するビッグフィッシュ。
クラッシュ (13歳)
本名不明の男の子。
ナタリーよりも少し身長が低い事が最近気に食わないらしい。
耳に掛かるぐらいの髪の長さを持ち、いつも何処か一部分の髪の毛が跳ねている。
痩せ型、右手から右腕に掛けて、常に特殊な布を巻いている。
包帯には見た事のない言葉が、書かれた護符が張られており、
包帯の止め具には宝玉が付いていて、何かを抑えこもうとしているように見えた。
「おい、止めておけよ、クラッシュ。ナタリーの旅の始まりの話を、ビッグフィッシュにしている邪魔になる」
「ヘルムート、なんだよ、ヘルムート。最近、ナタリーの肩ばかりを持つじゃねぇか」
ヘルムートに詰め寄り、必死に抗議を行うクラッシュ。
そのクラッシュから顔を背けて、クラッシュの言葉を流すヘルムート。
ヘルムート・ビネガー (24歳)
側面をバリカンで反り上げ、カルタゴ帝国の若手将校にいそうな銀髪の髪型の男
スラっとした長身で神経質そうな表情をする事が多く、
気難しそうと言われる事を気にしている。
最近は、実年齢よりも年上に見られる事に、ため息をつく癖がついてしまっていると
周りから指摘を受けた事も心労の1つになっている。
「ビッグフィッシュ、そもそもの話だが、カルタゴ帝国の事は知っているか?」
「ヘルムート、確か、この【アーネスリア大陸】で、一番の国力と兵力を兼ね備えた貿易で富を築いた軍国国家だと認識しているんだけど」
「まぁ、兵力の増強はここ最近の話だけどな」
「そういえば、【カルタゴ帝国 国王 カール大帝】が大陸統一を宣言したのが3年前だったかな」
「そう、その宣言後、周辺諸国を平定し始めて、今は大陸の南西のみを所持していた国が大陸の半分近くの領土を統治するに至った」
カール大帝(53歳)
長身で体格もガッシリとしている事もあり、武神として国民から崇められている。
年は、53歳になり、長い髪に銀髪が混じりだしていたが、その風貌がより帝王の威厳と存在感を増していた。
近年、突然のアーネスリア大陸平定を宣言した事で、大陸はカール大帝の野望の中に次々と巻き込まれている。
「そのあおりを受けて、各地の国々は混乱し始めた。ビッグフィッシュの祖国 【ヴァルデマー】に対しての侵攻もその一つだな」
ヘルムートは、左目だけを開いてビッグフィッシュを見ていた。
「ところでヘルムート、おまえさんの右目はどうしたんだい?」
唐突の質問で思わず呆気に取られたヘルムート。
少し遅れて苦笑する。
「俺の右目には、はるか遠くを見通す事が出来る能力だ」
「そうか、ヘルムートは右目で、クラッシュはその包帯を巻いている右腕、ナタリーは・・・」
「私は心臓らしいわ。魔王の心臓が私の中に入っている実感は何一つないけどね。
能力は身体能力の向上みたい」
「そうか・・・、俺の能力は何だろうな」
「さぁね、それは今後わかるんじゃない」
「そうだな、俺たちは皆、魔王シュディムの部位を移植されているんだよな」
少しだけ寂しそうな顔をするビッグフィッシュ。
「ビッグフィッシュ、力を求めたのは俺達自身だ。悲観的になるべきじゃない」
「わかっているヘルムート。自分の決断だよ」
「ヘルムート言っておくけど、私は納得しているけど、納得していないけどね」
「ナタリー・・・」
「だって、そうでしょ。皆、選択肢を与えられた時に、それしか選択肢がない状況で言われたら誰でも選ぶわよ」
ナタリーは釈然としない表情を浮かべたまま歩く。
クラッシュは何かを言いたそうな表情をするが、顔を景色に向けて感情を押し殺した。
「話を戻すが、カール大帝が大陸平定を宣言して、オンデンブルグ国に侵攻した時点での、お互いの国力が面白くてな」
ヘルムートがあえて話を戻したのは、誰の目にも明らかだったが、
誰も何も言わなかった。
「そもそも今回の【オンデンブルグ電撃戦】は、
カルタゴ帝国は 兵力 3000 うち 2000近くが支配国の兵隊で、
オンデンブルグ国は 兵力 500 で王都の防衛だったらしい」
「ちょっと待ちなさいよ、何よ、その【オンデンブルグ電撃戦】って言うのは?」
「ああ、それはな、カルタゴ帝国側からの情報機関から、先日のオンデンブルグ国への侵攻作戦に対して名称を付けたみたいだぞ」
「カルタゴ帝国、何から何まで好き放題してくれるわね」
「それよりもナタリー、気になる事があるんだけど、いいかな?」
「何よ、ビッグフィッシュ」
「ヘルムートも言っていたけど、カルタゴ帝国が大陸統一宣言をしたじゃないか」
「知ってる」
「じゃあ、オンデンブルグ国側でも対策は取っていたのかい?」
「ううん、兵力増強とか、そういうのに取り組んでいるようには見えなかったわね。
まぁ・・・、それも、もしかすると、オンデンブルグ国の宰相グスタフ・ヴァールが
わざと兵力増強政策を取らなかったのかもしれないわね」
「宰相グスタフ・ヴァールって、あの謀反を起こしたって黒い噂が絶えない宰相か」
「私は、1ヶ月ほど前に、自分の祖国オンデンブルグ国が、亡国の憂き目にあったのを目の当たりにしたわ。
その始まりは宰相グスタフ・ヴァールが、自分の功績が世間に評価されない事に対しての不満から始まり、
自分の家系が元は王族であった事もあって、お家の再興って言う野望を抱いた所で、
帝国の上層部と先祖が交わした密約書を持って、オンデンブルグ侵攻を依頼したって言うのが
【オンデンブルグ電撃戦】の本質だったのよ」
「えっ・・・、それって本当に謀反だったって事になるんじゃないか」
「ビッグフィッシュ、正解」
「いやいや、ちょっと待ってくれ・・・。と言う事は、だ。今のオンデンブルグ国の実質トップって、確か・・・」
「うん、またまた正解。今のオンデンブルグ国の実質トップは、宰相グスタフ・ヴァールよ」
「宰相グスタフ・ヴァールは、倒したんじゃなかったのか」
「倒したけど、残った王族は私だけだったのと、
マリア姉さま、シャルがカルタゴ帝国に捕まった事を見逃せるほど、出来た人間じゃないし、
政治とかの世界に興味がないから、今までの実績を考慮すると、
やはり、宰相グスタフ・ヴァールが国を取り仕切るのが、一番国の幸せになると思ったの。
もちろん、本人の反省の言葉を信じた上での判断だったのだけど」
「そうか・・・。そんな人生を歩んできたのか、ナタリーは」
「何よ、ビッグフィッシュ。難しい顔して」
「いや、その話を聞いて思ったのだけど、兄弟の奪還で唯一の王族であるナタリーが
オンデンブルグ国を飛び出してしまった事は、国民にどう説明されているんだろうって思って、だな」
「そうね、一応、私の兄弟はもう1人兄がいるのだけど、今は海の向こうの大陸に渡って、
大きな国の役職について、政治を学んでいるって聞いたわ」
「じゃあ、その兄さんに連絡を取って戻ってきてくれれば・・・」
「うん、そうなのだけど、兄様は大国で働きだして1年も経たない頃に、その国が別の大国に襲われて亡国になったの。
それから連絡が取れなくなったの。
私の兄さまはロイター・ラッドリー・ユングリングって言うのよ。
目立つ金髪でいつも笑顔で気になる女性を見つけると、すぐに声を掛ける困った人だけど、
憎めないのが魅力って人だったわ。」
「それって、結構一大事じゃないか」
「大丈夫よ。兄様は私に似ていて悪運だけは強いから生き延びて、必ずオンデンブルグに帰ってくると信じているわ」
「バカ姫に似てるな、そのアニキ」
「はぁ!!それどういう意味よ、クラッシュ」
「どちらも考えなしで、行動するタイプだろ」
「うぐっ、たまにクラッシュの言う事は、するどいのよね・・・」
「珍しくクラッシュが勝ったか」
二人のやり取りを見ながら苦笑するヘルムート。
「話は戻るけど、私は祖国の一部の者にだけ、【カルタゴ帝国にさらわれた姉妹を取り返す】事を告げて、祖国から姿を消したのよ。
そして、そのせいで【オンデンブルグ電撃戦】7日後に開かれたオンデンブルグ国復興宣言の場で、
改めて、【オンデンブルグ国 国王 マグヌス・フォルヌ・ユングリング】と
【オンデンブルグ国 王妃 ファタ・モルガーナ・ユングリング王妃】が亡くなった事が公表されたわ」
「そして、国は臨時政府としてグスタフ・ヴァール宰相って人が、国の一斉を取り仕切る事が発表をされたわけだな」
「状況が呑み込めてきたみたいね、ビッグフィッシュ。その場で王女3人の説明はなく、会場に姿もなかった事で
【王女重病説】もしくは【死亡説】が囁かれる原因になったのよ」
面倒くさそうにため息をつくナタリー。
「国民には王女達がカルタゴ帝国に強奪された事は伏せているのか」
「うん、私が兄弟を奪還して、そのままオンデンブルグ国に帰れば、それで私の旅が終わるわね」
「ナタリー・・・」
ナタリーの言葉に、いろいろな感情が湧き出て、難しい表情になるヘルムート。
「でも、グスタフ・ヴァール宰相だけに国を任せるのは、正直不安だな」
「ビッグフィッシュ、その心配はないわ。グスタフ・ヴァールも心を入れ替えてくれていると信じているし
オンデンブルグには、頼れる私の教育係と騎士団長がいるのよ」
「騎士団長と言えば、エドワード・ラウールって言う人だよな。その剣技の凄さはヴァルデマーまで聞こえていたよ」
エドワード・ラウール騎士団長 (32歳)
短髪で前髪を立ている長身で鋼鉄の筋肉の持ち主であり、
オンデンブルグ国一の武人。
「まぁ、エドワードは、私が取り立てたようなものだけどね」
小さな胸を張って威張るナタリー。
「へぇ、それはどういう事だい?」
「エドワードは、貧しい家で苦労が絶えなくて、国を転々としていた時期に
たまたま、立ち寄ったオンデンブルグで、すぐさま仕官したみたいなのよ。
そこに若かりし頃の私がその場に居合わせて、一目見てわかったの。
幸せが近くにまで来ているのに、最後にいつも取り逃がしそうな人に見えて、
だから、思わずお父様に進言したの。
『残念な雰囲気が面白そうだから、是非雇って欲しいの、お父様』」
クスクス笑うナタリー。
「いやいや・・・、まったく意味がわからない・・・」
ビッグフィッシュは意味をわかりかねて、思わずヘルムートの方を見るが
ヘルムート自身も軽く首を捻ってみせる。
クラッシュに関しては、軽くあくびをしながら、景色を見て話すら聞いていなかった。
「でも、エドワードさんは、その後メキメキ出世して、騎士団長に上りついたのだから
ナタリーの人を見る目は、間違ってなかったって事になるのかもな」
「そうね!!私には【先見の明】と言う能力が備わっているのよ、絶対」
「お、おう、そうだな」
ナタリーは両腰に手を置いて、胸を張るポーズを取っていた。
ビッグフィッシュも思わず、ナタリーから目を逸らしてしまう。
「でも今回の【オンデンブルグ電撃戦】の責任を感じて、自害をしようとしたのを
アクセル・オクセンシェルナと一緒になって止めたのよ。
時間を掛けて説得して、今はオンデンブルグを強い国にする為に、兵士を集めて鍛えているわ」
「アクセル・オクセンシェルナ・・・聞いた事がある名前だな」
「それは前宰相だったからだと思うわね。そして、同時に私達の育ての親でもあるのよ」
アクセル・オクセンシェルナ前宰相 (58歳)
頭頂部を激しく光らせて存在を主張するオンデンブルグ国の生き仏と親しまれ、
過去には宰相として、国を動かしていた時期もあり、
また、マグヌス王の良き友でもあった。
「姉さまには、一般教養以外にも政治についての手ほどきも、していたみたいだけど、
私はただの勉強さえも拷問に感じて、どうすれば勉強をしなくて済むかって事ばかりを考えていたわ。
でも、アクセルは今回のオンデンブルグ電撃戦で親友であるお父様を失って、
お姉さまとシャルをカルタゴ帝国に奪われ、一番心労が重なっているのかもしれないわね」
「そうか・・・、今のナタリーがそうなのは、その爺さんの教育の賜物ってわけだな」
「どういう意味よ、ビッグフィッシュ」
「いや、アクセルさんの苦労が身に沁みてわかる気がする」
「だから、どういう意味よ」
ビッグフィッシュは再びナタリーから目を逸らして口笛を吹いた。
次回更新予定日は2016年3月25日の12時ごろです