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カルタゴ帝国奪還作戦 その18

助けを呼んだ女がいた。

命を掛けた男がいた。

男はやがて女の英雄になった。

トロル達が戦線に参加した事で、流れが変わりだしていた。

「アドバンス将軍、前線が膠着し始めました!!」

ロンバルト共和国の兵士が、アドバンスの元に駆けつけ報告する。

「一目瞭然」

アドバンスは一言呟くに留まっていた。

しかし、眼前に広がる光景は切迫していた。

トロルが極太の棍棒を凪ぐ度に、宙に舞うロンバルト共和国の騎兵隊。

トロルが雄叫びを上げると、馬が萎縮してまともに動けなくなっていた。

そこに、ゴブリンが数で押す戦いを仕掛けてきていた。


こうなると時間が経過するだけで、戦況は悪化の一途を辿っていた。

そして、同時に、ロンバルト共和国の領土である北の港ロスルが、

ゴブリン達の襲撃を受けていると言う急報を受け取っていた。


「あの男、まだ、動けないのか」

アドバンスはジャンの様子を見て、ため息をついた。

ジャンは意識こそは戻っていたが座り込んだまま、村の裏山の方に視線を向けているだけだった。


「おい、愚者よ、雲行きが怪しくなってきたぞ」

ナディアは焦りが顔に出ていた。

「どうした、ナディア。珍しいな、そんなに焦るとは」

ジャンはそれほどでもない表情で受け答えをする。

「どうしただと!?騎兵隊がトロルに襲われて被害が出始めていると言うのに

 いつも正義、正義と豪語する愚者が、一向に戦おうとはしないのはどういう事だ!?」

ナディアは泣きそうになりながら、一生懸命にジャンを立ち上がらせようとしていた。


「私的にも、是非、戦っていただきたいのですが・・・」

レオがゴブリンを担いでは、他のゴブリンに投げつけていた。

「レオ、何ヶ月分の運動を今日一日でやろうとしているのか、教えてもらっても良いか?」

「もう1年分でも余るぐらいに、動いていますよ」

レオはゴブリンの棍棒を拾って叩きつけた。

「良かったな、レオ。安心しろ、相手もよく攻めたけど、こっからは俺達の反撃だ」

ジャンが言い切ると同時に裏山の方から突風が吹き出した。

その突風が、ジャン達とロンバルト共和国の部隊を駆け抜ける。


「なんだ、この突風は!?」

ナディアは思わず顔を伏せた。


「全部隊に通達、警戒を怠るな」

アドバンスが全部隊に命令を出す。

「どうしたんですか!将軍」

騎兵隊の兵士がアドバンスの険しい顔に気付いて疑問をぶつけた。

「村の奥に危険な何かがいる・・・・」

アドバンスは村の奥、グリフォンが消えた辺りを見つめていた。


「おい、愚者、これはどういう事だ・・・・」

ナディアは目の前に起こり出した事に驚いていた。

「これは・・・・グリフォンさんですね」

レオが今まで組み合っていたゴブリンから手を離して、背中を向けてジャンの元に歩いてくる。

「話しなれている愚者、後ろのゴブリンを仕留めて・・」

組み合いの途中でいきなり手を離して、ゴブリンに背中を向けたレオに叫ぶナディア。

「何・・・・、このゴブリンも、いや、

 広場にいる全てのゴブリンが倒れている・・・のか」

今まで攻勢を仕掛けていたゴブリン達は苦しそうに倒れこみ、荒い呼吸をしていた。

次々と血を吐き出しながら絶命していく。


上から重たい何かで、押さえつけられているように見えた。

トロルは地面に倒れこむ事はなかったが、その場から動けなくなっていた。


「これは何が起こったと言うのだ!?」

ナディアは目の前で起こっている状況に慌てふためく。

それは、ロンバルト共和国の騎兵隊も同様だった。

「将軍、これは一体何が起こっているんですか?」

「これは夢か、ゴブリンども自ら肉の塊に成型」

アドバンスも表情には出さないが、内心、平静ではなかった。


そして、そんな喧騒の中、村の奥から1人の男が広場に戻ってきた。

その男の体はデブではなく、しかし、筋肉ムキムキでもなかった。

一言で言えば、ぽっちゃり体系だった。


その男の腕の中には、ゴブリンに連れ去られた村の女性が抱かれていた。

ゴブリンの集団に攻撃を受け、顔中から流血し、

衣服は破れ、大小の傷を受け、全身を泥で汚していた。


だが、その男は満足そうに腕のぬくもりを確かめ、祝うかのように笑顔に満ちていた。

この日、この男はその女性の英雄になった。


「グリ、よくやったな、お疲れ」

ジャンは座り込んだ状態で片手を上げて、グリフォンを迎えた。

「アニキ、力を使ってしまいました」

グリフォンは、ジャンの横に助けた女性を寝かせた。

「おい、愚者よ、もしかして・・・・」

ナディアは唾を飲み込んだ。

「ああ、今の攻撃がグリの魔王の力だ」

「はい、その通りで。僕の能力は重力を自在に操る事が出来ます。

 それも広範囲において、自由に重力を扱えます。

 広範囲に力を使えば、掛けれる重力は小さくなりますけどね」

「本人の体にも掛けた重力の一部が、自分の体に跳ね返ってくるのだろう?」

ジャンは嬉しそうに話を続ける。

「そうですね、でも、体は毎日鍛えているので、大分負担は少なくなっていますよ」

「体が資本なのは、何でもそうだよな」

「はい、ですね。でも、今日は嬉しい事があったんですよ」

グリフォンは目にうっすら涙を浮かべる。

「ゴブリンの群れに飛び込んで、ゴブリン達の攻撃を受けて意識が遠のこうとした時なのですが・・・」

「グリ、どうした?そんなに興奮して」

ジャンは、笑顔でグリフォンの話を聞いていた。

「師匠が目の前に現れたんですよ」

「!?」

「でも顔を見たわけじゃなく、背中だけだったのですけど、あの背中は追いかけていた背中、

 見間違えるわけないですよ」

「そうか、師匠の背中に近付いたのだな」

「はい」

そう言うと同時に涙をこぼすグリフォン。

「グリ、しばらく、そこで座って休め」

ジャンはそう言うと立ち上がった。

「アニキ、知っていたのですか?」

グリフォンは空笑いする。

「ああ、伸ばせるだけ伸ばした広範囲に掛けれるだけの重力を思いっきり掛けたのだろう。

 じゃあなければ、トロルを身動き1つさせれない状態には出来ないだろ。

 後は、俺に任せろ」

「アニキ・・・すみ・・・・ま・・・・・・・・」

グリフォンは沈むように眠りに落ちていった。

寝た表情は遊び疲れた子供のような表情だった。


「おおおおおぉぉぉぉぉぉおぉっぉぉおおおおおおおっぉぉおおぉおおおおおおお」

グリフォンが意識を失った事で重力が元に戻り、4体のトロルが棍棒を振り回しながら叫ぶ。


「弟分にここまでやらせて、兄貴としては、このままではいかないだろ」

ジャンは誰に言うでもなく、1人呟く。

「愚者どもは、いつも繋がっているのだな」

ナディアが少し拗ねたような顔で呟いた。

「仕方ありませんね、もうひと働きしていきましょう」

レオもジャンの横に立つ。

「レオ、今日はもう体動かしすぎだろ?」

「ジャンのサポートぐらいはできますよ」

「くくっ。グリの奴に触発させられたか?」

「ジャン、お互い様でしょう?」

「残っているのは、トロル4体、そして、

 裏山の中に残党のゴブリンがどれぐらい残っているか、だな」

そういうと同時に、1体のトロルに向かって走り出すジャンとレオ。


「私がいる事を忘れるな!!!!!」

そう言うと呪文の詠唱を始めるナディア。

3人で行う共同戦線の幕が開けた。

次回更新予定日は2016年7月22日の12時ごろです

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