カルタゴ帝国奪還作戦 その11
1つの問題が片付いた時、生まれた絆に気付く。
その絆は縁となり、再び、巡り合う事なるのかもしれない。
絆が重なり続け、切れない一本の希望の柱になる。
今は別れの時、道は別れるが、いつかは重なる道と信じて歩き出す。
前半パート最後の話
「で、なぜ、ナディアさんがこの村に?」
ヘルムートは改めてナディアに質問をしなおす。
「ああ、それなんだが、ライオンマスクが遭遇したナイトウォーカー関連の話を耳にしたから様子を見に来た」
「それ、どういう事だ?」
「アニキ、落ち着いてくださいよ」
ヘルムートとナディアの話に割って入るジャン。
「ジャン、ナイトウォーカーって奴を知ってるか?」
「いや、初めて聞いた」
「それはそうだろ。この世の奴じゃないからな」
「この世の奴じゃない?」
「ああ、ナイトウォーカーは地獄、冥府が本来の生息地域だから、
人の世に出てくる事はまずない。
だが、たまに向こう側と人の世が繋がってしまう事がある。
その狭間から出てきてしまうのさ」
「地獄の狩人・・・か」
ジャンはそう言うと1人考えだす。
「そうか、・・・と言う事は、狭間がこの大陸の何処かに出現しているかもしれないと言う事か」
「正解、ヘルムートは本当に頭の良い子だな、頭を撫でてやろうか」
ナディアは嬉しそうな顔してヘルムートの頭を撫でようとする。
「結構です。では、狭間を探すのですか?」
「そのつもりだ。だが、ライオンマスクの情報だけでは場所の特定は出来ないな。
ヘルムート達はこれからどうするつもりだ」
ナディアはそう言うとナタリーの方を見る。
「あっ、初めまして、ナタリーと言います。ヘルムートさんのお仲間ですか?」
ナタリーは思わず自己紹介をナディアにする。
「ああ、ヘルムートが子供の頃から知ってるぞ。
クラッシュはヘルムートからいろいろ聞いてはいたが、今回が初対面だ」
そう言うと、クラッシュの方を見るナディア。
クラッシュはナディアに背中を向けた状態で、ナディアの視線を感じてビクついた。
「殺気に気付くとはな、なかなか、どうして見直したぞ。クラッシュ、がははは」
可愛い顔をしてオッサンの笑い方をするナディア。
クラッシュが小刻みに震える。
その様子を見て、苦笑するナタリー。
「先ほど、顔合わせはしましたが、改めて、ビッグフィッシュです」
ビッグフィッシュも慌てながら自己紹介をする。
「ああ、変わった能力の君だな。あれは面白い戦いを見せてもらった」
「ありがとうございます、私たちは野暮用でカルタゴ帝国へ行く途中です」
ビッグフィッシュが咄嗟に適当な理由で答える。
「ビッグフィッシュ、ナディアさんは俺達の仲間だ。今回の一件も報告しているから隠す必要はない」
ヘルムートはそう言ってから英雄の弟子達の存在に気付いて、
ビッグフィッシュが内容を濁した理由が他にもあった事を知る。
「どちらにも都合があると言う事だ。カルタゴ帝国の件、上手くいくといいな、ナタリー」
「あ、ありがとうございます、ナディアさん」
深々とナディアに向かって一礼するナタリー。
「じゃあ、俺たちはそろそろ家に帰って、ひと寝入りするか?」
軽く両手を上げながらあくびをするジャン。
あくびが終わったら、ヘルムート達に向き直る。
「あなた達にはいろいろ世話になったみたいだ、ありがとう」
「いや、俺たちはただ少し手伝っただけだ」
ジャンの言葉に答えるヘルムート。
「また、何処かで会えそうだな」
「その時は一杯おごらせてもらうよ、英雄の弟子の皆さん」
「俺達の一杯は高いぞ」
そう言うと笑顔で別れを告げて外に出る、ジャン、グリフォン、レオ。
その背中を見送るナタリー、ヘルムート、クラッシュ、ビッグフィッシュ。
「アニキ、良かったんですか?彼らに協力を頼むとか・・・」
グリフォンがジャンの横に立ってニヤついた表情で聞く。
「何のことだ。
さっさとお前らは帰って寝ろよ」
「ジャンとは何年の付き合いになると思っている。
ジャン達の戦いを実況するのが我が人生の喜び」
「そうですよ、僕たちは兄弟なんですから、共に生き、共に死にましょう」
『『断る』』
ジャンとレオの声が重なる。
「ちょっと、今、良い事言いましたよね」
グリフォンは自分の意見が反対された事を無視して、自分自身を褒め称える。
「グリには、可愛い奥さん、可愛い子供がいるんだ。お前は何があっても生きて帰れ」
ジャンはグリフォンに向き直って真剣な顔で話す。
「わかってますよ。でも、アニキもレオさんも僕にとっては家族なんですから」
「2人ともわかってるのか?今回は生きて帰れないかもしれないぞ」
「3対500の戦いですもんね。一人170人づつですか、これは燃えますね☆」
グリフォンが笑顔で現実的な数値を口にする。
「あははは、数字で聞くと、リアルだなー」
乾いた笑いで返すジャン。
「わたしとしましては、わたしも戦いの数に含まれているような気がしてならないのですが・・・」
レオが抗議をする。
「おい、計算を間違えているぞ、グリフォンとやら!!」
後ろから若い女の子の声が聞こえて振り返る3人。
「な、、、なでぃあ!?」
ジャンの声が驚きのあまり裏返る。
「4対500の戦いだ!!!!」
そう言うと、強気な笑顔を3人に向けるナディア。
「ナディアさんがその表情で言うと、勝てそうな気がしてきますね、アニキ」
「そうだな、でも、くれぐれも危なくなったら逃げろよ、守りきれる自信はないぞ」
「俺の身は俺自身で守るから安心しろ。それよりもお前ら、シャキッとしろよ」
そう言うと、ナディアはジャンに向かって指差す。
「ああ、わかった。よろしく頼む、ナディア」
「まかせとけ、3人とも!!!!」
「よし、改めて作戦を言うぞ。
俺達4人は村の被害が出る前に敵の本拠地を襲撃、
ボスを仕留めてマーヴェリック盗賊団を壊滅する」
「くくくっ、よく言うぜ。それだけじゃねぇだろ」
ナディアはジャンの本心を見抜く。
「・・・。今の所は、それだけしか考えない」
「わかった、まずはマーヴェリック盗賊団を壊滅させてやろうじゃねぇか」
そう言うと奇妙な組み合わせの4人組は、マーヴェリック盗賊団の本拠地に向かって歩き出した。
同日昼過ぎ、ナタリー達も【バウンディ村】を後にして、カルタゴ帝国に向かって歩き出した。
ここに巡り合った縁は再び分かれる事になった。
----- ジャン達が村を離れて6時間後の昼過ぎ -----
【バウンディ村】から道沿いに南に下って三叉路にナタリー達は立っていた。
「昨日の朝にはこんな展開になるとは思っていなかったわよ」
ナタリーはゆっくりと休めると思っていただけに、ご機嫌ナナメだった。
「ヘルムート、もう一泊しても良かっただろ、ヘルムート」
クラッシュも同様にもう少し休みたかったらしい。
「まぁ、気持ちはわかるが、英雄の弟子達が村を離れた事に気付いたら、
こちらを頼るのは手に取るようにわかるからな。
そうなるよりも早く、離れておく方が懸命なのさ」
ヘルムートも若干眠たいのか、目をこすりながら話す。
「えっ、彼らは村を出て何処に出掛けたのですか?」
ビッグフィッシュが驚いてヘルムートに聞きなおす。
「ああ、マーヴェリック盗賊団のアジトを急襲して
【バウンディ村】を襲う兵力を壊滅させるつもりだろう。
それが彼らの考える村に被害とリスクが限りなくゼロになる
最大の一手だったんだろうな。
本当に頭が下がるほどの犠牲心の持ち主だよ。
誰も見ていない所で、命を掛けて戦い、勝利しても誰にも感謝されない。
その場で死んだとしても、村の人間には
マーヴェリック盗賊団に恐れおののいて逃げた、偽者の英雄の烙印を押されるだけだ」
ヘルムートは何かに苛立っていた。
その表情を見て、少しナタリーはホッとしていた。
「ヘルムート、実はあなた、彼らの事を心配しているでしょ?
あの盗賊団の言っていた戦力が本当なら
500人に3人で立ち向かう事になるのだから」
「・・・・・・・はぁ、ナタリー、あまり人の心を見透かすのはやめてくれないか。
あんな連中が割を食うのが、この世の中だ。
上手く利用されて、何か不測の事態が起これば、
手のひらを返される。
下手すれば、石を投げられ、居場所を奪われる可能性すらもある。
こちらが命を掛けて守っても、相手がこちらの為に命を掛けるなんて世界はありえないのさ」
深いため息と共に瞳から光が消えたまなざしで地面を見つめながら話すヘルムート。
「だけど、彼らは逃げずに最後の最後まで足掻いて足掻いて、
それこそ命が消える最後には、
ろうそくが燃え尽きる瞬間みたいに激しく燃え上がるでしょうね」
ビッグフィッシュも何処か悲しそうな表情で苦笑する。
「そりゃそうだろ、ライオンマスク師匠の弟子たちだぞ!!
【私たちは逃げも隠れもしない、光ある限り戦い続けよう、とぉ!!】
って言って、連中たちに飛び掛ると思うぞ」
クラッシュだけはカラっと笑いながら話す。
「クラッシュ、あなた、相変わらずガキね」
ナタリーは深いため息をついた。
「なんだ、バカ姫、やるか!?」
「おもしろいじゃないの?」
「ナタリー、クラッシュ、今はケンカするのをやめてくれ。
ヘルムート、ナディアさんは彼らについて行ったのかい?」
ナタリーとクラッシュはいつもケンカをとめる役目のヘルムートではなく、
ビッグフィッシュだった事に驚くと共に、気になる質問の回答を待った。
「ああ、ビッグフィッシュの言うとおりだ。
ナディアさんは彼らを気に入ったみたいだ。
あの人が彼らについていてくれるのなら、最悪の事態にはならない・・・と思う」
「歯切れが悪いわね、ヘルムート。
ナディアさんは魔王の力を持っているの?」
「いや、持っていないと言っていた」
ヘルムートは軽く首を振った。
「じゃあ、ナディアさんは何の力を持っているの?」
「態度がデカイ能力の持ち主か、性格の悪い能力の持ち主じゃねぇーの」
ナディアに受けた仕打ちを根に持っているクラッシュが悪態をつきながら呟く。
「ナディアは魔法使いだよ。
幼い時に掛けられた呪いで年を取る事が出来なくなって
永遠の牢獄に閉じ込められた可愛そうな女の人さ」
ヘルムートは空を見上げて呟いた。
ヘルムート自身も完全に信じていると言うわけではなかったが、
ナディアが嘘を言うタイプではない事を知っていた。
「と言う事は、300歳って本当なの?」
「いや、正確には300まで数えて、それ以降は数える事をやめたって聞いた。
でも生きていく為には力がいる。
だけど、何年経っても体は成長しなかったらしい、だから、有名な魔法使いに弟子入りして
魔法使いの修練を積んだらしい」
「自分を知っている人がいなくなった世界は、
どれだけの孤独なのかしら。
私はお母様とお父様を殺されただけで泣いて、
姉と妹を奪われて、命がけでもがいている。
でも、ナディアさんは周りの人達の命が消え続けて
ただ、1人になって・・・それでも自分は生き続けてしまう」
「ナタリー・・・」
ヘルムートは涙を拭うナタリーの頭を撫でた。
ナタリーは人並み外れた力を得た代償に、人並み外れた生命力も得た。
それはまさしく永遠の命に近いものだと思い、
これからの自分と今までのナディアを重ねたゆえの涙だったのかもしれない。
ナタリー達は三叉路の右側の道を歩いていく。
その道の先にはカルタゴ帝国領が広がっていた。
次回更新予定日は2016年6月3日の12時ごろです