第八話 初戦闘
ふぅ・・・
一瞬の内に目の前の風景が変わる。
これが・・・瞬間移動か・・・
すげぇ!すげえよ!
すげぇ下半身が埋まってるよ!
若干ずれてるかなぁって思ったけど、あの場面でぐずぐずしてられないじゃん!
『ごめん、ちょっとやり方わからん』とかいえないじゃん!
都合よく地面の上に補正かかるかなーっておもったけど、そんなことは無かったぜ!
まぁ、すぐぬけられるから良いけどさ!
「よいしょ・・・っと」
パンパンっと土を払う。
目の前には苔の生えた石造りの祠。
周りには魔力が渦巻いている。
「おーい、姫。祠についたぞー」
「おお!さすが我が夫じゃの!」
「いや、夫じゃねーから。んで祠の周りに魔力が渦巻いてるんだが・・・」
「ちっ、気づきおったか・・・まぁいい。魔力が渦巻いてるんじゃな?ならその祠は問題なさそうじゃの」
「んじゃ、次にいくぜ~、転移!」
そんな感じで北、東、西も見回るが異常は見つけられず。
ってことは、南に異常ありか。
マップに『魔物』でフィルターをかけると、祠の周りに魔物が一匹。
恐らく、祠に近づけないようにしてるんだろう。
んー・・・どうしたもんか。
「祠の周りに魔物の気配があるんだが、どうしたら良いかね?」
「恐らく祠の修復を妨害しようとしておるんじゃろうな」
「だろうな、動こうとしないし」
「ならば仕留めるしかあるまい?」
んー、マジかぁ・・・
正直、気は進まん。
「話し合いとか・・・無理かね?」
「死ぬ気ですかっ!?」
「耳元で怒鳴るなっ!」
某虫型ロボットにのった聖戦士もこんな気分だったのだろうか?
耳がキーンとする。
「ん?近くに・・・人がいる。あ、これは・・・不味い!」
集中する為、カフスの魔力を制限し通信をオフにすると。
腰に刷いた刀の柄に手を掛け、肩幅に足を開き腰を落とし半身へ。
意識を集中すると刀が淡い青色に発光を始める。
深く息を吸い、そのまま転移。
視界が代わった瞬間。
「ふっ!」
鋭く息を吐きながら右足を踏み込み、低くした上体を捻る。
その遠心力に右手の勢いを乗せ・・・一閃。
青い光の帯が太刀筋に沿って一瞬遅れて流れる。
流れるように血振りを行い、納刀。そして、残心。
油断無く2撃目を放てるよう体勢を整える。
「ブモ!?」
こちらを振り返る俺の二倍はあろうかという巨体。
頭は牛、手には棍棒。ミノタウロス・・・ってやつか?
振り向いたミノタウロスは驚きの余り目を見開きそのまま・・・斜めに上半身がずるりとズレる。
『ドジャァ』っと上半身が崩れ落ち、そのまま残った下半身も『ドオン』という音とともに崩れ落ちた。
「ふぅ・・・っと!」
辺りを見回す。
居た!甲冑を着込んだ女性騎士だろうか。
首に手を当て脈をとる。
息は・・・ある!
だが、肺をやられているのか呼吸はひどく浅い。
集中、イメージは治癒。
「ベ○イミ!」
おれが恐らく世界一有名なRPGの魔法をとなえると、緑色の光に女性騎士が包まれる。
しばらくして、呼吸が落ち着いてきた。
とりあえずは、一安心ってとこか。
にしても、魔力を乗せたとはいえ一撃で片がつくとは思わなかった!
助かったぜ・・・
やっぱり、『実力が分からないあいてなら、最大限の攻撃を一番最初に行うべし』ってのは正しかったな!
正々堂々?命張ってるのに卑怯とかありません!
っと。目の前の女騎士が気がつく前に、やるべきことはやっちまわないとな。
俺はミノタウロスに守られるように在る祠の残骸に目を向ける。
他の祠と同じ形にとりあえず戻せばいいのかな?
カフスへの魔力を再開。通信オン。そして少し音量を下げる。
具体的に言うならユーリの叫び声がうるさくない程度に。
「姫、南の祠が破壊されていた。どうすればいい?」
「やはり、壊されておったか」
「無事だったんですか!?」
「俺は無事だが・・・ミノタウロス?に襲われてた女性騎士?っぽい人が倒れてた。傷は魔法で治したから問題は無いと思う」
「よかったぁ・・・」
「ふむ。矢張り中々の腕みたいじゃの?」
「『そこそこ』、だよ魔力で威力の底上げもしたしな」
「この短時間にミノタウロスを屠れる者なぞ極少数じゃよ。で、祠は他と同じようにイメージして修理するだけで大丈夫なはずじゃ。問題があれば妾を抱えて戻ればよい」
んじゃ、さっさと修理してしまいますか。
一応祠の構造は調べておいたからそれと同じもので・・・
「修理!」
掛け声と共に崩れていた石が元通りに修復される。
瞬間『ヴゥン・・・』と低い音が聞こえ魔力の流れが変わった。
おお、俺ってば魔力の流れとか分かるのか!
これであれだ『あの魔力の流れ・・・不味い!』とか言っても痛くは無いな!
「助かったぞトーマ。結界が正常に作動し始めたな。抱っこしてもらえなかったのは多少心残りじゃが・・・」
「いいから!とりあえず騎士さん抱えてそっち戻るぞ!」
「なっ・・・!妾を差し置いて2度も!?」
「後でやってやるから少し黙れ!集中出来ん!」
「絶対じゃぞ!?」
言ってから気づく・・・早まったかな?
まぁ、好かれて嫌な気はぜんぜんしないんだけどね。
俺は、女性騎士を横抱きにすると・・・って痛てえ!
刺さる!主によろいの突起が!
こんなこと想定してないから、組み付かれた時の打撃用なんだろうが、めちゃくちゃ刺さる!
くそーユーリのときはご褒美だったのがこんな苦痛に変わるとは・・・
まぁ、泣き言言ってても仕方ない。
俺は女性騎士を抱えて聖樹へと帰還した。