第六話 練成と魔法と特訓と
『ヒュンッ!』と頭と同じくらいの瓦礫が頬を掠める。
「え・・・?」
振り向くと、遥か後方で『ドーン』という洒落にならない音を立てて瓦礫が砕け散る。
視線を前に戻せば『ね?簡単でしょ?』とばかりに微笑むユーリ。
どうしてこうなった・・・どうしてこうなった!?
事の起こりは小一時間前に遡る。
「では、練成と魔法についての講義をはじめますっ!」
たゆんと目の前の二つの果実がゆれる。
いいね・・・
ハッ、いかん。これは命にかかわるかもしれない講義なのだ!
緩みかけた頬をビシッと張る。
「まずは、魔力と練成。魔法の関係ですね。練成というのはそこのお布団を出したりすること。魔力が途切れても存在し続けるものを作成することを言います。
対して魔法というのは、魔力を媒介にして、魔力が続く間『本来ならありえない事象』を起こすことを言います。」
「練成に対してはなんとなく分かるが、本来ありえない事象をおこす?」
「ええ、たとえば身近に水がないところで水を出したり。火を出したりすることですね」
ああ、なるほど。
いわゆるファンタジーの魔法なのか。
「正確に言えば、火を出すなら薪の代わりに魔力を使うことが、出来るんです。ただし、魔力が続かなくなったらそこで消えてしまいます」
「ということは、魔法を使っている間はずっと集中していなきゃならないのか?」
「いえ。基本的なことをイメージして魔法を使えば、そこまでの魔力が消費されますから」
なるほど、つまり魔法に何をするかをインプットして使うってことか。
撃った魔法にいつまでも集中してたら、連射なんかは至難の業だし、実用性皆無だもんな。
「それと、練成に関して。最初なので材料を選んでからでしたけどイメージさえ出来れば、そこから材料をすることも出来ます」
「まじか!」
「えっ!?ほ・・本当です」
いかん、ちょっとうれしい誤算だ。
現代兵器とかは材料が分からんから、wiki先生と首っ引きになることを覚悟していたのだが・・・
これは慣れればいけるかもしれん。
「さて、これで一応座学のほうは終了です。外で実技にしましょう」
ユーリ先生に引き連れられて外へ出る。
最初は瓦礫に目を取られていたが、改めてみると遠くには結構険しい山が連なっている。
ぐるりと見回しても険しい山脈。
なんというかここ・・・結構天然の要塞だよな。
好都合。好都合。
「さて、実演です!これでもこの国一番といわれた腕をご覧ください!」
そういうと、ユーリを取り巻く空気がガラッと変わる。
そして、自分の近くにある瓦礫を目の高さまで持ち上げ・・・
「えいっ!」っとかわいい声を上げこちらへ飛ばす。
『ヒュンッ!』と頭と同じくらいの瓦礫が頬を掠める。
「え・・・?」
振り向くと、遥か後方で『ドーン』という洒落にならない音を立てて瓦礫が砕け散る。
視線を前に戻せば『ね?簡単でしょ?』とばかりに微笑むユーリ。
数秒遅れてツーッと頬に液体が伝わる感覚。
「おいぃぃぃ!危ないじゃねーか!」
「大丈夫です!コントロールは抜群ってほめられてましたから!」
「そういう問題じゃ・・・っ!?」
ヒュン!ヒュン!
複数の瓦礫が素早くユーリの前に集まってくる。
「習うより慣れろです!そのまま動かず、魔法でこの瓦礫を落としてくださいね?大丈夫!動かなければ安全ですから!」
「ま・・・」
「えーいっ!」
『ビュビュビュンッ!』っと飛んでくる瓦礫。
やべえ!思ったよりユリは『ス・・・パルタン!』な発想の持ち主だったらしい!
無我夢中で手近にあったが大きめの瓦礫を、目の前に浮遊させ盾にする。
物凄い音を立て盾に突き刺さる瓦礫。
「お見事ですっ!では次は・・・これですっ!」
こちらからは見えにくいが、あれは・・・炎!
瓦礫でも防げるかも知れないが、あれが飛び散った場合確実に火傷する。
ならば・・・瓦礫を捨て水の幕をイメージ!
「これでっ!」
声をきっかけにイメージが具現化する。
直後迫ってきた炎が幕に接触し『シュワッ!』という音と水蒸気を残し炎が消滅する。
うん。コツは掴んだ。
「では最後に。私の魔法を無効化してみてください!直接私の魔力以上の魔力をぶつければ無効化できるはずです!」
「よしっ!こいやぁ!」
「では・・・」
ユーリの前に氷の槍とも評すべき巨大な槍が出現する。
え、これ恐らくあたったら死ぬレベルだよね?
「これが・・・私の本気ですっ!」
次の瞬間何かにはじかれたかのように氷の槍が突撃してくる。
俺は右手を突き出し氷の槍を握りつぶすイメージを構築する。
「はっ!」
声と同時に氷の槍はぐしゃりと潰れ、後には何も残らない。
「お・・・・おみ、ごとです・・・」
そう呟くとユーリは地面に膝をつく。
息も荒い。
「お、おい!大丈夫か!?」
あわてて駆け寄る。
「だ、大丈夫です。ちょっと・・・魔力を使いすぎちゃいました。でも、これで安心できました・・・」
近くで見ていた姫が呆れたように歩いてくる。
「無理をするでない。おおよそ何があっても身を守れるようにと、最高の魔法を使った訓練をしたのじゃろうが・・・」
「大丈夫なのか!?」
「少し聖樹の中で休めば問題ないじゃろ。あの中は魔力で満ちておるからな」
「わかった!」
俺はユーリを優しく抱き上げると、聖樹に向かって歩き出した。