第三話 この世界のチュートリアル
主に魔法の説明メインの回です。
ちょっと特殊な設定かもしれません。
コーヒーを淹れるついでに玄関を閉めなおす時に外に首を出してみると、樹木の中と思わしき空間に家財道具が見えたので此処は元の場所ではないことを知ることとなった。
異世界系。
確かに大好物である。
『なればいいなー』と思っているものでも、あった。
職場のみなには『30年間スタンバってるんだけど、勇者の召還がまだ来ないんだよなー。このままだと賢者枠だよ・・・』とかうそぶいていたが・・
しがない中間管理職。年も30まじかのおっさんにこんなことが降りかかるとは・・・世の中分からないものである。
しかし、一つ言いたいことがある。
何番揃じだと思ってんだ!
もう出枯らしだよ!
味も何もしないよ!
でも来ちまったモンは仕方ないんだチクショー!
そんなことは口には出さず、二人にコーヒーを配り自分も開いているところに座り込む。
「でだ、イワナガヒメさん・・・」
「姫でかまわぬ」
「では姫。今の状況を教えてくださいな」
一瞬姫の顔に朱が入った気もするが気のせいだろう。
「おほん、では状況を説明するぞ・・・」
姫の話を要約するとこうだ。
1ここが俺にとっては異世界であるということ。
2ユーリさんの国は魔物の大量発生によって滅び、現状確認できている生存者はユーリさんのみということ。
3姫はこの国の神であり、信仰する人間が居なくなると消えてしまうこと。
4この部屋はミィクリ家の家宝である指輪の強制転移(というより入れ替え)によりこちらの世界に呼び寄せられたこと。
5この部屋は今旧ミィクリ国王都の神木内にあること。
6この部屋のライフライン等は神木から供給されている(ただしネットは元の世界に繋いでくれているらしい)
「あとは・・・明日が良かろう情報の整理も必要じゃしな」
「やはり・・・なくなってしまったのですね・・・民も・・・親族も」
この状況で民のことを先に出すのはさすが王族と言ったところか。
しかし、年相応に悲しんでいるのもまた事実。
何とかできないものか・・・
「まぁ、妾には分からないだけかも知れぬからな。妾にはこの近辺の土地のことしか分からぬゆえ」
「そうだな、明日また考えることにしよう。姫、寝床はあるか?」
「ユーリは妾のベッドを使うとよい。魔力はとっておいたほうがよかろう?」
「でしたら、私は床で・・・」
ん?その説明は聞いていない。
明日でもいいが、一応聴いておこう。
もしかしたらお約束のチートかも分からんし・・・
魔力量が半端無いらしいし俺。
「魔力でベッドが作れるのか?」
そう聞いた俺に二人はキョトンとした顔を向ける。
そして姫が『ポンッ』とばかりに手を打った。
「そうか!トーマはサクヤのとこから来たのじゃったな!」
なるほど、俺の居た世界はサクヤヒメのテリトリーらしい。
「この世界では魔力とは労働力と等価なんじゃよ」
姫がドヤ顔で説明する。
労働力と等価・・・ってことは・・・
「つまり、自分が働く代わりに魔力で代替できるってことか?」
「御明察ですトーマさん」
「逆に言えば、自分で作れないものは魔力があっても作れないってことか・・・」
「うーん、そうでもないですね、イメージさえできればある程度のものは作れます」
なるほど。
とはいえどの程度なのかは確認しなければいけないが・・・
てか、これあれだ、マジでチートスキルの予感しかしない。
「一度やってみればよかろう。例えば・・・そうじゃな・・・」
「ん?ベッドでいいんじゃないか?」
俺の提案にユーリは頷くが、姫はあわてたように首を横に振る。
いや、そんな顔を真っ赤にするまで振らんでも。
「それはいかん!第一場所がないであろう!?」
確かにそうだ四畳半にベッド二つも収まるはずが無い。
3人でここで居るのもきついくらいだからな。
主に俺のお宝たちのせいで。
「作ればいいじゃないですか?トーマさんならそのくらい余裕でこなせそうですが・・・」
「わしの家の中じゃといっておろうに!勝手に増改築されてはかなわん!」
そりゃそうだ。
いくらなんでも俺もそんなことされたら、そいつの顔面に某格ゲーのギャラ○ティカファントムをかます自信がある。
因みに俺の持ちキャラは、ク○ーク、レ○ナ、ラ○フの軍人チームだ。
どうでもいい話だが。
あ、月夜に狂ったのは認めない。特に意味は無いが。
「まぁ、確かにそうだろうな・・・なら・・・料理とかはどうだ?」
「お勧めはせんな。その場合、野菜であれば種の入手から収穫したところまで。肉や魚の場合は捕獲までとはいえ、近くに居ないものなら莫大な魔力を使うことのなるからの」
「なるほど・・・生物関係は利益が少なすぎるのか」
「そうなりますね」
そういうことなら羽毛布団は厳しいな・・・ポリプロピレンやポリエチレンとかの石油関係ならあるいは・・・か。
「試したいことがある。寝具を出すからやり方を教えてくれ」
「寝具・・・って羽毛とか必要ですから・・・」
「そ、そうじゃ!そんなもの出さずとも失敗する可能性もあるのじゃから!」
姫が妙にあわてている。
布団ならテーブルどかせばこの部屋にでも置けるだろうに。
それに、石油や石炭などのエネルギー資源はなるだけ早めに確認しておきたい。
チートの基本だからな!
「うーん。まぁ生物っちゃ生物の・・・死骸から出来たものなんだが」
石油、石炭などは生物の死骸から変化したものだ。
それを根本から、となるとやはり成功すらしない可能性もある。
「ちなみに魔法を失敗したときはどうなるんだ?何も出てこないで魔力だけ持ってかれるのか?」
「それは無い。やらなかったことになるからの。努力だけして何も残らなかったということは、魔力に関しては無い」
「それは良かった。なら頼む」
「じゃぁ、まずですね・・・」
ユーリからやり方を一通り教わると、目を閉じ、そのとおりに頭の中でイメージを組み上げる。
まずは対象の指定『石油』・・・・念じると頭の中に地図が広がる。
なるほど。これがこの世界の地図か。中心が自分の居る場所。そして地図に見えるのが自分の魔力の届く場所か。
この地図。微かに・・・ほんの微かに違和感を感じる。いや、既視感の方が近いかもしれない。
まぁ、そんなのは後回しでもいいだろう。
一番近くにある対象を指定・・・って真下か。
ついでにジッパーの鉄も・・・っと割と近くの高山にたんまりとありそうだ。
こりゃついてるかもしれない。
あとはどういうものが欲しいかだが・・・布団と枕、毛布。
色と形は適当に。大きさも少し大きめ位にイメージ。
そして・・・
「布団!」
そういってカッ!目を開けると布団がポンとばかりに出てくる。
まぁ、便利!
にしても、初心者だから掛け声を出したほうが出やすいとのことで言ったんだが・・・
『異世界に来て最初の呪文=布団』はどうだろう?
やった後に気がついたが・・・
まぁ、致し方ない。
ここで『エターナルフォースブリザード!』とか唱えて布団が出てくるという、精神的にダメージを受けるようなことになるよりは万倍マシだ。
「ほう?」
「まさか・・・一回で成功ですか・・・?」
「失敗しなくて良かった。あと収穫もあったしな」
「収穫?」
「ああ、この世界の地図」
ユーリは驚きで口をパクパクさせている。
ん?何かまずかったかな?
「せっかく・・・一緒に寝られると思ったんじゃがな・・」
ん?姫今何か言った?