第二十一話 しょうが焼きアゲイン
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ケイ王女との面会を終え、しばらくするとノイン王女達との会食と相成った。
「お姉様には御内密に」とケイ王女から言いつかっているが、国として動くわけには行かないというのであれば、ノイン殿下に話を通す気は俺にもない。
逆に失敗したときにそのことを知っていれば彼女は不利な立場になってしまうしな。
実は、今回この会食に際してちょっと厨房を借りて作ったものがある。
たまねぎの味噌汁としょうが焼きだ。
ついでに米と日本酒も。
なぜこの献立かと言うと、今回使用した玉葱、生姜に大蒜。大豆に米は名前こそ違うがこの世界にもあるらしい。
マルネギ、シーガにニニン。オオマメにマイムギがこちらの世界での名前だそうだ。
何というかもじっただけジャン!と思うがそうなのだから仕方ない。
つまり、この辺のレシピを普及していけば、輸出品になるだろうと思ったからだ。
大きな肉の塊やら、果物の盛り合わせ、ポタージュっぽいスープにパンという豪華な食事の中に、しょうが焼きと味噌汁・・・大分シュールな光景だが、我が国の産業が掛かっている。
手伝っていただいた宮廷料理人の方曰く。
「独創的だな・・・調味料も見たことがない。だが・・・旨いな」と、お墨付きを頂いている。
先に厨房でこの世界の食べ物を味見させてもらったが、何と言うか物足りない。
旨みが足りないのだ。
人の味覚は、甘み・苦味・酸味・塩味・辛味と旨みで出来ている。
この世界の料理ははじめて食べたが、基本的に塩味が強いのだ。
恐らく、旨みの概念ができていないのだと思う。
出汁はとっているのだろうが、何と言うか『理論が分かっていないが、なんとなく美味しいからそうしている』って感じだ。
だが、ユーリやシュリ、ユークやその他市役所の皆さんにいたるまで概ね和食は好評だった。
味覚が一緒ならこれは大きなアドバンテージになる。
美味しい料理には人は金を出すものなのだ。
レシピしかり、調味料しかり、食材しかり。
特に人が少なく、大きな産業を持つことの出来ないミィクリ国にとって『技術』や『知識』は産業になりうる。
レシピを普及出来れば、市場に出せば売れるものがある意味先読みできる。
流行を作り出すのだ。
そのためにはまず話題性が要る。
となれば、こんなに美味しい場面はない。
貴族の方々が口にしても満足できるものが、ご家庭でも再現できます!ってやつだ。
現代の商品で言う、ご当地ラーメンの通販や、三ツ星レストランのシェフが監修したレトルト商品みたいなもんだな。
そんな下心と共に、料理を紹介する。
「私の故郷の料理を是非召し上がっていただきたく、料理を作ってまいりました。是非ご賞味ください」
俺は、まずノイン殿下に薦めてみた。
恐る恐るノイン殿下が、しょうが焼きをフォークで刺し、口に入れる。
暫く咀嚼した後に飲み込むと目をつぶり、口の中に残る余韻を楽しむ。
ノイン殿下の顔の変化を見ながら、緊張する時間が過ぎていく。
唐突にカッ!と目を見開くとノイン殿下は身を乗り出す。
「うむ!これは美味しいな!後で料理人に作り方を教えていただけないだろうか!?」
「ええ、もちろん。少し材料も置いていきましょう」
ノイン殿下が裁定を下したこと皮切りに、参加者の面々も異国の料理に手をつけ始める。
「不思議な味だ、だが悪くない!」
「この仄かな甘みのある『ニホンシュ』と不思議な塩味の付いた『シーガ焼き』は合うのう!」
「不思議なスープだが、何と言うか・・・こう・・・深みがありますわ」
「なるほど、マイムギはこのようにして調理すれば、美味しくいただけるのか・・・我が領地でも実践したいな」
と、概ね好意的な意見でホッとした。
これなら、この世界の人たちに和食のレシピは通用するだろう。
「ミィクリ国では、この料理に使った調味料や酒、レシピ等も合わせて輸出しようと思っております。是非その際はよろしくお願いいたします」
と最後に付け加えると、会食していた領主達が、こぞって輸入権を主張し始め、さながらバーゲンのおばちゃん状態になる。
が、直後にノイン殿下に雷を落とされたのだった。
まぁ、新しい市場で競合相手がなければ金の卵だろうから仕方ないな。
和気藹々と会食が進む中、一人。こちらを暗い瞳で見るものが居た。
あれが多分レイオット家の代表なのだろう。
こりゃ目をつけられたな。
まぁ、都合がいいんだが。