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第二話 不遇の姫様登場

バナナ型神話とは寿命を説明するための神話です。

世界各地にあり、大体は食べ物と食べられないものを選ばせることが多いみたいです。

それを擬人化するとか・・・日本人凄いな。

第二話 不遇の姫様登場


あのあと、小一時間泣き喚く彼女をなだめすかし、何とかベッドに座らせることに成功した。

改めて観察すると、かなりの美人さんである。

身長はと頭一個くらい違う感じだから160位か?女性として出るべきところは出ているしプロポーションは申し分ない。

腰の長さほどもある黒髪は軽く煤けてはいるが大分手入れをされているようではあるし、

肌はまるで上等な白磁のような・・・それで居て柔らかさを主張してきている。

伏目がちな垂れ目も、右目のその横の泣き黒子も・・・何というか・・・うん。

彼女居ない暦=年齢の俺にはちょいと刺激が強い。

しかも、彼女が纏っているのはおそらく寝巻き・・・に分類されるであろう白く飾り気のないワンピース一枚・・・

頭の中では不謹慎ながら『例の外国人のガッツポーズ』が浮かんでいた。


「あの・・・」

「ひゃいっ!?」


いかん、俺のひっくり返った声に彼女はビクッと肩をすくめる。


「ああ、、ご・・・ごめん。仕事以外で女の子と話すの・・・その・・・久しぶりだから・・・・」


情けねえ!我ながら死ぬほど情ねえっ!

だが、本当だから仕方がない。もっと気の聞いた会話!会話だよ!

傷ついた彼女を癒す・・・こう・・・気の聞いた言葉を・・・・っ!


「あ・・・え・・・えっと・・・し・・・趣味とかきいてもいいかな・・・?違う!これじゃねぇ!」


俺はものすごい勢いで頭を抱える。

言ってから気づく、確かにマンツーで向かい合っているが、これは見合いの席でも合コンでもねぇ!


しかもこれ現時点で彼女の尻の下というかベッドの下に隠してある『How to!ギャルゲッチュ!(成人指定)』のナンパの仕方じゃねぇか!

しかも古いよ!そのくらい分かってるよ!


「くすっ」


顔を上げると彼女は少し笑ってくれた。

『今です!』と脳内の軍師殿が俺に進言してくる。

気張らず・・・普通に・・・普通にだ・・・

近所のコンビニのおばちゃんにあんまんを頼むがごとく平常心で。

いや、あんまんだと一瞬だ・・・もっとこう・・・頼むのに時間のかかるやつ・・・

そう、おでん!おでんだな!


「あの・・・」


俺が話しかけようとすると、彼女はふわりと立ち上がり、両手でスカートのすそを少し持ち上げ綺麗なお辞儀をする。


「ユーリ・ミィクリと申します。ユーリとお呼び下さい。ミィクリ国第一皇女・・・でした・・・」


そう言って彼女は沈んだ顔をする。


「俺は、斉藤 冬馬だ。トウマとでも呼んでくれ。そう、沈んだ顔をすんな・・・っても無理だよな。ちょっと待ってくれ」


俺はキッチンまで行ってコーヒーを淹れる。

S○ZAコーヒーのモカ。

ちょいとお高めなので普段飲みには使わない。来客用だ。

豆を電動ミルで挽き、サイフォン式の下に水を入れコーヒーメーカーの上に豆をいれ下のアルコールランプに火を入れる。

しばらくするとモカ特有の甘い香りが部屋を満たす。

こいつらは俺の趣味で祖父が経営する喫茶店から使わなくなったものを譲り受けたのだ。


しばらくするとお湯が全部豆のほうへ上がる。さくっと豆とお湯をかき混ぜ火を止める。

すると下にフィルターで濾されたコーヒーが降りてくる。

コーヒーとカップ、砂糖ににミルクを手早くもって四畳半へ。


「はい、コーヒー・・・って飲んだことあるかな?」

「いいえ。でも甘くて良い香りですね」

「物自体は苦いから砂糖とミルク入れて飲んでね」


目の前に置いたカップに同じサイフォンからコーヒーを注ぐ。

注いでる最中、彼女に目を移すと少し戸惑っているように見受けられる。


「ん?どした?」

「あの・・・トーマ殿は・・・貴族の方なのですか?」


なるほど。文化の違いか・・・

お約束だな。おそらく砂糖か、嗜好品の類だろうから。


「いや、違う。一般・・・よりも若干下くらいじゃないかな?あと、殿はやめてくれ。なんかこう・・・痒くなるから」

「分かりました。では、トーマさん。この本の山、砂糖をはじめ嗜好品の数々、魔道具の類。そして何よりあなた自身の魔力量をもってしても・・・ですか・・・?」

「は?魔力量・・・?」


聴きなれないことを聴いた。

魔力量?

魔道具はおそらく照明やTVの家電製品の類だろう。

これは・・・あれか、チートスキル来た!これでかつる!ってやつか!

ん・・・?まてよ?

ドアの外はなにやら豪華な部屋?っぽかった。

だが・・・ライフラインは通じている。

水・電気・ガス。ガスはまだ試していないが・・・この様子なら恐らく使える。


「ええ、魔力量です。私もミィクニ国一番の魔力量を誇っていましたが。トーマさんのものは私を遥かに超えるものです」

「すまない、その魔力量って・・・」


バターン!


「それは妾が説明しようではないか!」


更なる闖入者が玄関を開けるド派手な音とともに侵入してくる。

灰色を基調とした和服姿で、頭から歌舞伎などの黒子が被るような物ですっぽりと顔と髪を隠している。

背丈的には170前後・・・くらいか

プロポーションは・・・和服だから分からん。

ずかずかと中に入って・・・・あ、草履は脱ぐんだ。


「おっと・・・っと」


ちょっと転びそうになってるところが微妙に萌を誘う。


「それと、こうなった経緯と・・・対処方法もじゃな!」


『デデーン』という効果音が鳴りそうなほど、某コマンドーを髣髴とさせる迫力で仁王立ちする。


「妾の名はイワナガヒメ。もっともユーリにはイワーナと言った方が良いかの。長寿や不老を司る神じゃ!」

「イワーナ様!?ということは此処は神界なのですか!?」


ユーリが悲鳴のような声を上げる。

イワナガヒメ・・・どっかで聞いたことある名前だな。

それもそうだが、一方的に下手に出るのはまずい。

この手のクライアントは、『自分が金出してやってるんだからいうこと聞け』ってタイプの奴だ。

無理難題を平然と出して、自分は金出してるからってふんぞり返るタイプ。

なら・・・最初から上下関係を仕込まんと後手に回らざるをえなくなる。

この辺は社会人をやってれば数年で身につく基本スキルである。

さて、その方法だが・・・


「イワナガヒメ・・・いわながひめ?あ、岩長比売か」


しめた、特大のトラウマを抱えてる可能性み~っけ!

伝承が確かなら・・・だが。


「ふむ。トーマは知っておったか感心、感心・・・」


満足そうな声で「うむうむ」と首を振っているが・・・


「天皇様に『不細工だから帰れ』って言われた姫さんだろ?」


俺の言葉にイワナガヒメが『ビキッ』と固まり次の瞬間、ぶつぶつ言いながらしゃがみこむ。

矢張り、それなら顔隠してるのも納得がいく。


岩長比売


かいつまんで話せばいわゆる『バナナ型神話』に分類される神話の登場人物である。

不細工な姉の岩長比売と、美しい妹の此花咲耶比売が嫁として遣わされた。

だが時の天皇様は岩長比売を『不細工だから』で返してしまう。

此花咲耶比売は短命と繁栄の象徴。

岩長比売は長寿と永遠の象徴。

だから人々の寿命はとても短くなってしまったのだ・・・

というお話である。

詳しくはwiki参照ってやつだ。


さて、そうなるとご尊顔が拝みたいのは人の世の常であろう。

学校のフェンスの開いたところ。女風呂。塀の壊れたところ。廃屋の中。鶴の機織。

人は覗いてはいけないといわれているものや禁止された行為をしたがるモンである。

なら・・・やることは一つ!


「ていっ!」


気合一閃、顔にかかってる布を捲る。


「!?」


そこにあったのは潤ませた碧い瞳を驚きのため見開き高めの鼻に少しのそばかす。

口元、目鼻立ちこそ欧米人のそれだが美人なのには変わりなく・・・

・・・そうか!時代か!

当時の女性はオタフクが美人の象徴だったはず!

そりゃこんな白人の面構えじゃ不細工扱いだわな。

今となってはオタフクが美人なんて美的センスのやつの方がそうそう居ない。


「み、みおったな!?貴様もあれじゃろ!?不細工とか言い出すんじゃろ!?」


最初の自信はどこへ行ったのやら尻餅をついて後ずさりするイワナガヒメ。

顔の布はさっさと下ろしてしまっている。

そんな彼女に対して俺の言葉はこれしかない。


「ないわ~。期待はずれだわ~ここまで来て美人とかないわ~」


もっとこう・・・クリーチャー的な何かを期待していたのに。

いや、SAN値直葬なのはちょっとあれだけど。

まぁ、それでも褒め殺さなきゃならんのだから本当に美人なのはありがたい。


「トーマさん!なんて罰当たりなことを!?」


ユーリが先ほどよりもさらに悲愴な声を上げるが、かまわず続ける。


「イワナガヒメさん。時代が悪かったな。今の価値観的には恐らく妹さんより美人だと思うぞ?」

「・・・っなにを・・っ!?」

「十分綺麗だからそんな頭巾はずしちまいなって言ってんのさ」


俺は立ち上がり、彼女の布を今度はゆっくりと捲る。

ありがたいことに、抵抗はない。

現れたのは捨てられた子犬がすがるようなあの目。

『どうする?ア○フル』って感じの目だ。


「本当に、不細工とか・・・いわないのかえ・・・?」

「言わないぞ?」


よし、これで表情が読めると、心の中でガッツポーズを決める。

説明してくれるとはいえ嘘を教えて居ないとも限らない。

社会人の常識である。

実際表情で分かるくらいのならまだいいが、そんなこと微塵も感じない奴も社会にはごまんと居る。

だが、イワナガヒメは長年顔を隠してきたとのことだからそんな芸当は出来まい。

作戦勝ちである。


「トーマさん。背中に凄い汗が・・・」


おう!冷や汗だぜ!営業モードで話してるとはいえ美人さんにこんな台詞吐いてんだ!察しろよ!

因みに、何の営業をやっててもそうだが営業の人間は大抵冷や汗は背中にかく。これはテストにでるぞ!

そして俺はユーリの言葉は聞こえてないかのように振舞う。


「で、俺たちに今の状況を教えてくれるんじゃなかったのか?だったら狭いが座ってくれ。コーヒーも淹れなおそう」


イワナガヒメの手を引き立ち上がらせる。


「す、すまぬ。そうじゃったのう」


俺はイワナガヒメを適当なところに座らせると冷めたコーヒーを飲み干し(貧乏くさいとは思わなくもないが高いしね!)

もう一度温かいコーヒーを淹れなおしにかかった。


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