第十二話 国王と面倒ごと
キャンプの前に居たのは、シュリとゴツイ鎧を着た壮年の男。
黒い髪を短く刈り込み、質実剛健な鎧。そして何より、意志の強そうな瞳が印象的だ。
ん?確か、男のほうには見覚えがある。
最初にユーリがうちに来たときに見たおっさんだ。
ということは、彼がミィクリ国の王なんだろう。
シュリの話から悪い人じゃなさそうだが下手に見下されると面倒なことになりかねないな。
なんて事を考えながら、高度を落とす。
「トーマ。こちらがミィクリ国13代目国王・・・」
「もう、国はなくなっておるから、国王なんて肩書きは要らんな。それに彼とは一度会っている。ユーク・ミィクリだ。この度は危機を救っていただいて感謝している」
そういって深く頭を下げるユーク。
慇懃無礼。そんな態度がありありと見て取れる。
さて、どうでてくるか。
「頭を上げてくれ。俺の名前はトーマだ」
ユークは頭を上げるとその瞳をまっすぐ俺に向けてくる。
「ではトーマ殿。無礼を承知で聞くが、魔物を殺すことに罪悪感はなかったのかね?」
「王!?」
「シュリ、構わない」
シュリが慌ててユークを諌めようとする。
これは、下手なことは言えないな。
何と言うか、表情に『凄み』を感じる。
今にも斬りかかられそうな、そんな『凄み』を。
大きく息を吸い込んでから、俺は口を開く。
「無かった。・・・・というと嘘になるな」
「ふむ。では何故あのような大規模な魔法まで使って、彼らを『殺した』のだ?お主ほどの腕なら、殺さずに無力化も出来たのではないだろうか?」
もしかしたらそうかもしれない。
何か知恵を絞っていれば、そんなことも可能だったかもしれないが・・・
いや、違うな。
「俺は、守りたいものを守ることに、手段は選ばない」
これが答えだった。
間に合うかどうかなんて分からない。
そんな賭けをするよりは、安全で確実な方を選ぶ。
時間が無かったとか、人の命がかかっているとかは、所詮言い訳に過ぎない。
「ならば、そのためには、人やその他の命が失われていいと?」
「最小限にはしたいな。甘いのは分かってるけど。出来れば死人や、血が流れることなんか起こしたくは無いね」
「なるほど・・・」
そう言うとユークは『二カッ』と笑った。
先ほどの『凄み』が嘘のような少年の笑みだった。
「うむ、そなたになら任せられそうだの!まだまだ甘いところはあるが、それもまた味があって良い!」
そう言うと正面から俺の事を抱き締め、バシィッ!っと背中を叩く。
それから小声で。
「あんな魔法を使える小僧が何の覚悟も無くやったのなら、民の為に刺し違えてでも首をはねてやろうと思っておったが、その心配はなさそうじゃな」
と。
おおう。結構アクティブだぞこのおっさん!マジで斬ろうとしてやがった!
内心冷や汗だくだくである。
おっさんは満足したのか離れると、今度は真顔になってもう一度頭を下げる。
「背中がびっしょりだの。怖かったのだろう?民の為に戦ってくれたこと、本当に感謝する」
「いや、いいから・・・」
頭を上げたユークは、キャンプのほうを向くと大声を張り上げる。
「皆もこの『勇者』に感謝を伝えい!」
「おい!おっさん!俺は勇者なんかじゃねぇ!」
「いいじゃないか、勇気ある行動を起こしたのだ。称えられて当然だろう?何故トーマはそんなに嫌そうな顔をするのだ?」
シュリが『わけがわからん』という顔を向けてくる。
「俺はとっとと元の世界に還りたいだけなの!面倒ごとなんて真っ平御免なんだよ!」
「まぁ、やってしまったものはしかたないじゃろう?かくいうワシも肩書きは苦手での。これからは悠々自適に隠居させてもらうかの~」
「おっさん!まさか・・・」
「王!?正気ですか!?」
嫌な予感がしてきたぞ。
このおっさん、オレに面倒ごとを押し付けてくる気だ!
折角おっさんに入れ知恵して裏で動こうと思ってたのに!
「シュリ。ワシが決めたことじゃ。トーマ。そなたなら、何もかもを無くしたこの国を、豊かにしてくれる気がするんじゃよ。若者に期待するのは老人の特権じゃ」
そう語るユークの口元は笑っていたが、眼は真剣そのものだった。
確かに、ほぼ0からの都市作成。逃げた人たちを街に呼び戻すこと。
そして発展となれば、けして楽なことではない。
国を失った王より、勇者の方が動きやすいこともあるだろう。
そこまで計算して、ユークはこう言っているんだと分かる。
分かるが・・・
「わかった。わかったが。おっさんまだ60いってないだろ!隠居なんて早すぎるわ!」
「なら、おぬしの下でこき使ってくれい」
ユークはそう言うと、子供のように笑った。
そんな会話をしているうちに、わらわらとキャンプから出てきた女性達がこちらに集まってくる。
ん・・・?
よく見ると全員女性だ。
最後に逃げたのは側室達だったのだろうか・・・?
全員集まったのを確認すると、ユークは声を張り上げる。
「私は一度身を引く。これからは『勇者』トーマが民を導いてくれるはずじゃ!われわれを救ってくれた、新たなる『勇者王』に!」
「「『勇者王』様!万歳!」」
女性達が一斉に唱和する。
いや・・・おっさん知らないんだろうけどさ。
ガ○ガイガーかよ!
と俺は心の中で一人突っ込みを入れた。




